田舎の無駄に長い道を母の軽ワゴンを酷使してようやく神社にたどり着いた巧。
「聖也!聖也ー!」
そう叫びながらお堂の裏へと回り込んだ時である、突然目の前にひとりの、学生服を着た女性の後ろ姿が目に入る。
「来てくれましたね先輩……」
そう言って振り向いた学生服姿のその女性、その顔を巧は凝視していたが、その顔にギョッとする。
「マヤ……」
犯人がマヤであることに驚いたわけではない、巧が驚いたのはそのマヤの顔や立ち振る舞い、それに髪につけた赤いカチューシャまですべて美香の生き写しのようにそっくりであったからだ。
「ふふふ、驚いてますね先輩。その顔が見たかったんですよ。苦労はしましたけど女は化粧や髪型で化けますからね」
っと、そう笑っているマヤのとなりのお堂の影からにゅっと顔をのぞかせる童顔がいる。聖也だ。
「あれ?たく兄?」
「聖也!」
「あぁやっと来たみたいだね。てかどうしたのそんな怖い顔して」
聖也のことの重大さが全くわかっていない顔に巧は少々苛立ちを感じる。
「聖也!その女!」
「あぁ、この人?たく兄の彼女なんだろ?本人がそう言ってた」
「んなわけあるか!だいたい見ろ、その美香そっくりの格好!おかしいだろ!?」
「え?いやそれはたく兄の趣味だって聞いたけど」
巧は今度はその苛立った目線をマヤに向けるがマヤはニコニコ笑ったまま少し上目遣いでペロッと舌を出す。
「すいません先輩。でもこうするしかなくって」
「聖也、そいつから離れろ!そいつが今回のなりすまし事件の犯人だ!」
「うえぇ!?たく兄の彼女が犯人?」
「あのな聖也そいつは俺とは全く関係が……なくはないけどとにかく犯人なんだ!」
巧の言葉に少しお堂側に後じさりする聖也。だが、マヤはもう聖也には用済みなようで、今度はじんわりと巧の方へと近づいてくる。
「先輩ってほんとお人好しですよね。ここまでしないとわからないなんて」
「あぁ確かにもっと早く気づくべきだったな。お前には確かにいくつかおかしい点があった」
巧は逃げようとはせず仁王立ちしていた。
「まず最初に気づくべきだったのはその長く伸ばした黒髪だ。考えてみれば美香の真似をしてTwitterに投稿している犯人が外見を美香に寄せているだなんて少し考えてみれば分かることだった。最初にあったとき前より髪が伸びてるってとこまでは気づいてたのになんでそこで止まってしまったのか。ほんと自分の洞察力不足と甘さを感じるよ」
「最初に先輩から髪を伸ばしたねって言われたときは気づいてもらえて嬉しかったですけどね私は」
そういってさらにマヤはこちらに近づいてくる。
「それに決定的だったのはさっきの発言だ。お前さっき『このままじゃなりすまし事件と侵入事件両方このままです』って言ったが、俺はあの時家に不審者が侵入したことは誰にも話してなかった。知ってたのは俺と母さんと聖也と和也おじさんだけなはずだったんだ。なのに何故お前はその事を知っていたのか」
「なんでですか?」
「家に侵入したのがお前だからだよ」
っと、そこまで得意げに話していたのだが、巧はここで両手を上げ降参というポーズを取り、そばにある巨大な石に腰掛ける。
「だけど俺は名探偵とかじゃないからどうしてもここから先がわからないんだ」
「先?」
「聞きたいことは山ほどあるが、まずそもそもどうやって俺の家に入った?どうやって美香のアカウントを乗っ取ったんだ」
「……ふふっ、やっぱり先輩は甘いです。本当は察しは付いてますよね?でもそれを認めるのが怖いだけ」
マヤはショルダータイプの学生カバンから一冊のノートを取り出した。
「もうその様子だとルカや夏希にも会って私のこと聞きましたよね?でもあんなの嘘です、嘘っぱちです」
随分不吉な事を言いながら差し出されたノートは巧は震える手で受け取り、意を決してそれを開く。が、それはあまりに想像を絶するマヤが美香に対してストーカー行為を働いて得た情報の数々であった。
「ね?私って彼女たちがいう以上にやばい人間なんですよ。これは私が集めた美香先輩ノートです。美香先輩とそれに関する全てが書かれてます、幸い美香先輩は私がここまでやっていたことは知らなかったみたいでいろいろなこと教えてくれましたよ。小さい頃は巧先輩の家には鍵なしで出入りしてたこととか。あとTwitterのパスワードは美香先輩の受験番号で簡単に開きました」
「マヤ……」
想像以上のマヤの心の闇に触れてしまい一瞬言葉をなくす巧。もはや聖也などに至ってはお堂の陰に隠れてブルブル震えている。
「たとえそうだとしても、いや、そうだとしたらなおさらわからないことがひとつある」
正直目の前のマヤのことは本当に恐ろしいのだがここでやめるわけにはいかない。まだわからないことは残っているのだ。
「そんなに美香のことを思ってるならなぜ俺と付き合おうとか言ったり俺の家に侵入したりして俺を挑発したんだ?ルカと夏希は俺に媚びを売るためだろうと言っていたが俺にはどうもそうには思えない。なにか理由があるんだろう?」
「ふふっ、その通りです。っていうか先輩に媚びを売る意味はないですし」
そう言ってマヤはさらに巧へと近づきその手をしっかりと握った。
【夏夢】第11話「真犯人」
【夏夢】最終話「残された者の想い」
巧の手をしっかりと握り、巧の目を見つめるマヤ。そのまっすぐな...
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