「さ、私たちの情報はあげたことですし先輩が知ってることも教えていただけませんか?」
そう言ってとっくに自分のぶんのラッシーを飲み干しているくせになぜか巧のラッシーにもてを伸ばそうとしている夏希。別にラッシーが欲しいわけではないのだが自分のものが取られるのは癪である。
「そうだなぁ……」
巧は少し首をひねり、ひとまず写真を一枚一枚説明していくことにした。例えば、神社の裏からの風景の写真は幼少期自分たちが遊んでいた頃の写真であること。また、中学校や小学校の写真は確かに自分たちが通っていた学校のものであることなど。
さらにそれに加え、美香のスマホが見つからなかったということも話した。やはりこれには彼女たちも不審に感じたらしく一様に首をかしげるのであった。
「ふーん……スマホが、ねぇ」
「あぁ、美香の弟の聖也。こいつも俺の知り合いなんだけど、聖也もやっぱりちょっと怪しいと思ったみたいでいろいろ探したみたいだけど、どこにもなかったらしい」
「確かにスマホさえ手に入れられれば簡単に乗っ取ることができるかも。ってことはそのスマホを持ってる人物が犯人……?」
「でもそもそも聖也くんって子がホントのこと言ってるかもわからないですし……」
そのマヤの言葉に呼応する形で夏希が突然大きな声で
「あ。わかった!」
と叫んでメガネの端を人差し指でくいっと持ち上げた。
「私はその聖也くんって子が怪しいと思います。実はその子が犯人でスマホもその子が持ってる。そう考えると一番納得がいくと思いませんか?」
「聖也が嘘をついてるっていうのか?まさかそんな……」
「先輩はその子とは古い知り合いみたいですしそう言うでしょうね。そもそも先輩は人が良すぎるんですよ、人を見たらなりすましと思えってくらいの勢いじゃないといつまでたっても犯人は見つけられないですよ」
自分は甘すぎるのだろうか、たとえ聖也だったとしても疑ってかかっていくほうが良いのだろうか。メガネの奥の夏希のその言葉に想像以上に返す言葉がなく、巧は思わず黙り込んでしまうのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「お邪魔しましたー」
まるで嵐のようにやってきた三人も帰る段となり、玄関に整列し頭を下げた。先程まで空気を読んでいたのかキッチンにいた母直美も彼女らがもう変えることに気づき見送りに来たようだ。
「また遊びに来なさいよ、なにせこの子が美香以外の女子を家にあげたことなんてなかったんだから」
「えぇーそうだったんですか?」
「きもーい」
なんで最近の若いこと言うのはすぐにキモいというのであろうか、結構傷つくからやめてほしいのだが。
「んじゃ先輩、私たち引き続き美香先輩のアカウントの監視をしますので先輩は行方不明のスマホをお願いしますよ!」
彼女たちはそう言って玄関をあとにして家の前に止まっていた原付へとまたがる。
(どうやってここまで来たかと思ったら原付できたのか……)
思えば巧の家から彼女らが住んでいるふもとの街は同じ山名市ではあるが車でも十五分はかかる場所であった。思えばここに来るまでもそれなりに苦労はしたはずである。彼女らも今回の事件に関しては本気で取り組んでいるということであろう。
「巧、あなたご飯はもう食べたの?」
彼女たちを見送った後の直美のその質問に巧は思わず廊下に立てかけてある柱時計を見た。
(うわ、いつの間にやら六時回ってたのか)
時計は六時をとっくに周り六時半を指している。
「うん、もう食べたからいいや」
直美との会話もそこそこに二階にある自室、いや元自室だった場所へと上がっていく。自室はまるで主の帰還をずっと待っていたかのような私物の数々がひしめいていた。
一年ほど前までは日常そのものだった机、押入れの中の布団、書棚といったものすべてが今はまるで遠い昔のことのように感じる。
「はぁー懐かしいなぁ」
一年空位となっていた勉強机備え付けの玉座へと腰を下ろし一息をついた巧。思えば今日はいろいろなことがあった。今日の早朝、東京を出発したかと思えば昼には柚木家に寄り、そして夕方は高校の後輩たちと情報交換。なりすましの犯人を見つけるために帰郷した初日という意味では非常に有意義だったと言えるのだろうが、少しさすがに疲れを覚え畳の上に横たわる巧。
(マズイな……せめて敷ふとんくらいはしかないと)
その意識を最後に匠の意識は深い眠りのそこへと落ちていくのであった。
コメント