【ネタバレ有り】一○一教室 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:似鳥鶏 2016年10月に河出書房新社から出版
一○一教室の主要登場人物
藤本拓也(ふじもとたくや)
いとこである英人の死に不審なものを感じている大学院生。
篠田沙雪(しのださゆき)
拓也と英人の母方のいとこ。英人の死の真相を積極的に調べる。
藤本英人(ふじもとひでと)
恭心学園に在籍していたが、学園内で不審死を遂げた。
松田美昭(まつだよしあき)
カリスマ教育者。恭心学園の学園長。厳しい教育と暴力も辞さない態度を掲げている。
一○一教室 の簡単なあらすじ
カリスマ教育者の経営する学園で死亡した生徒。その生徒はなぜ死んだのか、学校も親も食い違う死亡原因。教育のための懲罰と競争、教育を守るための隠蔽、不誠実な学校のあり方が子供の死によって明らかになります。教育とはなんなのか、教育に許されるのはどこまでなのかを問いかけてくるミステリーです。
一○一教室 の起承転結
【起】一○一教室 のあらすじ①
全人教育を掲げる私立恭心学園。
中高男子部女子部があり、少人数制、全寮制をうたう人気の進学校です。
学園長は、教育関係でテレビにも論客として出演する松田美昭。
彼は昨今の教育を甘いと断じ、精神を厳しく育てると公言しています。
引きこもりさえも更生させ、体育祭では高々とした組体操の人間タワーを行う教育に魅力を感じる保護者も少なくありません。
藤本拓也はいとこの藤本英人がこの学校に通っており、英人の母親である咲子から体育祭に来るように誘われたのでした。
保護者の熱狂と裏腹に、異常なほどの乱れぬ規律を見せる生徒たちに拓也は驚きます。
男子は坊主頭、そして女子はおさげの姿。
戦前かと思うような規律の正しさは現代ではやや異質で厳しすぎると拓也は感じました。
しかし、昨今の教育を緩いと感じる親からすると、この教育が魅力的と映る部分があるのだろうと感じました。
そんな英人が17歳の若さで死んでしまったというのです。
死因は心臓麻痺。
葬儀に参列した拓也は棺が蓋が閉められたままであることを不思議に思います。
しかしそれは親族の意向だと言うのです。
人前でまともに話すこともできないほど号泣する叔母に対し、淡白すぎる様子の叔父の様子や、学校関係者が一人もいない葬儀に違和感を覚えます。
しかし葬儀の場で再会した自分と英人の母方の従姉妹にあたる沙雪は、その不信感を拓也の前で口にします。
二人は学園について調べることになります。
叔母たちに申し出て、英人の遺品を受け取るため二人は学校へ赴きます。
【承】一○一教室 のあらすじ②
沙雪が事前に連絡を入れていたので、すぐに遺品は渡されました。
親族といえど学校の校舎内に立ち入ることはできません。
対応した教師は、段ボール二箱分の遺品を渡すとこれで終わりとばかりに二人を帰らせようとします。
しかし沙雪は英人がどんな場所でどんな生活をしていたか聞きたいと粘ります。
対応に出てきた教師は英人と全く関係がないというのも拓也は引っかかりました。
次に出てきた副校長も同様の対応でした。
沙雪は転んで捻挫をしたふりをして、学校の保健室に入れてもらおうとします。
しかし男子部には女性は入れられないと言われて沙雪は女子部の校舎にある保健室へ向かいます。
そこで出会った養護の教諭の金尾は、二人が英人の親戚だと知ると学校の対応について話し始めます。
彼女の話では英人は柔道部の活動中の事故で亡くなったと聞かされていたのです。
ただし、救急車も呼ばす職員が車で運び夜間に体調が急変し、死亡したとのことでした。
拓也たちが聞かされた死因とは異なっています。
柔道部での事故ならクラブが同じ子供に事情を聞けたら良いと考えますが、この学校ではそれは簡単にはいきそうにありません。
それでも学校に不信感を持っている金尾は沙雪に連絡先を教えてくれます。
なんとか一歩前進と思いますが、沙雪は金尾との会話やそれ以外もICレコーダーに録音しており、かなり本気で調べるようです。
その後、英人が連れて行かれた病院へ向かいますが、担当した医師には会うこともできず、なにもわかりませんでした。
病院の受付で、受付の女性をかなり問い詰め困らせる沙雪。
聞けば高校の頃新聞部だったと言いますが、やや行き過ぎた印象を拓也は受けました。
そうやんわり言う拓也に対し、沙雪は昨今のいじめや体罰問題の例をあげ反論します。
学校内での出来事は隠蔽されればそんな事実はなかったことにされてしまう、被害者が被害者として扱われなくなってしまう、沙雪はそう拓也に伝えます。
【転】一○一教室 のあらすじ③
二人は学校周辺で聞き込みをしましたが、目新しいことは分かりませんでした。
遺品を持ち帰ると、叔母は在宅でしたが、叔父は会社の歓迎会で不在でした。
日が浅いにも関わらず、歓迎会に参加するとは英人の父親は子供に興味がなかったのだと拓也は感じます。
沙雪は調べきた事実を叔母に突きつけ、柔道部の事故の件を聞こうとします。
激しく泣く叔母は答えません。
詰め寄る沙雪を拓也は止めますが、沙雪は叔母が隠蔽に一枚噛んでいることを確信するのでした。
実際学校や教育の場面で起こる子供への暴力、死亡事故に関しては親がその教育者や教育方針に傾倒していることが多いと沙雪は言います。
叔母はSNSで松田の講演会に足繁く通っていたことや、学校に心酔していたことが伺えました。
養護教諭の金尾から、恭心学園の柔道部のことを知る人物と連絡がつきました。
自身も柔道をしており、孫娘が恭心に在籍している山口という老人でした。
山口の話では、恭心の厳しさは指導とは言えない暴力的なものだと感じたようです沙雪の調べでは、男子部は特に体罰などで処分された教師を積極的に学園に招いているようでした。
得てしてそういう教師は熱心な先生と呼ばれます。
そういった教師が恭心の教育方針には合っていると考えられているのでしょう。
山口は恭心に在籍する孫を心配していました。
しかし、孫の母親と教育方針の食い違いから疎遠になってしまったと言います。
恭心には以前も自殺した生徒がいたという噂もあるのです。
金尾から二人に、今度は柔道部の生徒、小川の証言が取れそうだと連絡がありました。
しかし、その直後から金尾とは連絡が取れません。
どうも逼迫した状況らしく、拓也たちは学園に向かいます。
沙雪たちが学園へ行くと、構内がざわめいています。
なかなか入れてくれない守衛に保護者のふりをして学園へ入ると、助けを呼ぶ声がします。
沙雪が守衛の邪魔をしている隙に拓也は小川を探しに向かいます。
【結】一○一教室 のあらすじ④
小川を探していると、彼は一○一教室に連れて行かれてたと生徒が教えてくれます。
一○一教室とは、反抗的な生徒が教師たちから「集中指導」を受ける場所です。
そこへ向かった拓也は、教師たちから集団体罰を受けている小川を見つけます。
リンチでしかないその様子を見て怒りに震える拓也。
しかし学校という敷地内では拓也が不審者です。
暴力行為を辞さない教師たちに怯みますが、録音をしているとハッタリをかけます。
拓也は小川連れて敷地から出ようとしますが、守衛が邪魔をします。
教師たちは二人を囲み、小川の暴力行為を拓也の仕業に仕立てる雰囲気を醸し出します。
揉める彼らのそばに松田も現れます。
門の外にいる沙雪に、松田は「学内の揉め事です」と言います。
並ぶ教師たちと小川、そして拓也をカメラのストロボが照らしました。
カメラマンが写真を撮っています。
沙雪が「週間パトスの黄金崎です」と名乗り、松田に説明を求めます。
さらにカメラマンが写真を取り続け、黄金崎と名乗った沙雪が松田を追求します。
戸惑う拓也に黄金崎は説明します。
恭心学園で起こった生徒の不審死の件で黄金崎は取材を重ねていました。
子供の不審死は親が戦う覚悟でなければ明らかにされないことも多く取材は難航していました。
しかし松田と恭心の取材を続けるうちに英人の母親にたどり着き、その親類だった沙雪の母親に名前を借りる許可を取っていたのでした。
恭心の生徒たちの死と暴力は白日のもとに晒されました。
松田は教師たちの小川のリンチの責任により実刑を受けましたが6年で出所し、支援者も多くフリースクールを設立します。
人が死んでも大怪我をしても、教育という名前の元では許されてしまうのだと小川は感じました。
しかし松田の被害者の会も結成され、小川も記者になり彼らを糾弾する側に立ちました。
教育という形の暴力を許容しないため、小川は声を上げ続けなければならないと感じるのでした。
一○一教室 を読んだ読書感想
学校、教室という閉鎖空間で起こった事件を暴くミステリーです。
一○一教室というタイトルにもある教室は事件の現場でした。
物語の合間挟まれるカリスマ教育者松田の理念も、空恐ろしく感じます。
また、それがいつ語られているかわかればさらに恐ろしいと感じます。
教育の世界で起こる行き過ぎた指導や暴力、いじめと言った学校で発生するネガティブな出来事への学校への対応については誰しも思うところがあると思います。
そして少なくとも一度は経験している学校という世界を思い出せば、物語の出来事が決して他人事ではないと感じると思います。
どうしてもオープンにされずらい学校という世界での感じる危機感は子供に脅威であり、脅威は教育として認められてはいけないと訴えかけてきます。
閉鎖的な世界で構築される上下関係、そして通過儀礼としての忍耐を強いられるような出来事、尊厳を奪うような事柄が教育に組み込まれるのは恐ろしいことです。
また教育という名のもとでは、安全な立場から賛否を論じる直接的な責任のない世間の声も教育という議論をわかりづらくしているのかもしれません。
そして何より、カリスマ教育者に心酔してしまう親たち。
子供に対して責任を持つべき、一番の教育に考えを持たなくてはならない彼らが、考えを放棄して、教育も放棄してしまうことで事件の一端なのかもしれません。
まずは子供が、ついでは先生たちが安全と安心があり、誰かが事件の被害者にも加害者にもならないような学校づくりが求められるのではないかと思います。
実際に起こった事件が作中で挙げられていますが、教育の過程で子供が死んでしまうのはあまりにも本末転倒です。
そしてこの作品のような立場になった時、一体どうすればいいのか、各々が考えなければならないのだと教えてくれます。
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