【ネタバレ有り】僕のエア のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:滝本竜彦 2010年9月に文藝春秋から出版
僕のエアの主要登場人物
田中翔(たなかしょう)
高校卒業後に都内の大学に進学して現在はフリーター。
山田スミレ(すみれ)
田中の3つ年上の幼馴染み。地元で公務員として働く。
梢(こずえ)
田中の高校時代の同級生。軽音部の紅一点。
僕のエア の簡単なあらすじ
定職もなく貯金もなく友人も恋人もいない24歳の田中翔の前に、ある日突然に「エア」と名乗る不思議な少女が現れます。過去の記憶を辿っていく田中は、やがては現在の自分自身の人生と向き合っていくことになるのでした。
僕のエア の起承転結
【起】僕のエア のあらすじ①
田中翔は三流大学に何とか入学して、就職活動中には30社以上の企業にエントリーシートを送り付けました。
ようやく内定をもらった怪しげな消火器セールスの会社に就職しますが、厳しいノルマや詐欺まがいの営業行為に耐え切れません。
僅か半年で退職した後には、新聞配達員と交通量調査のアルバイトを掛け持ちして生計を立てる毎日です。
24歳になった田中はふとした気まぐれから、都内の高級ホテルで開かれている高校の同窓会に参加します。
学生時代に憧れていた軽音部のメンバー、梢と再会しますが彼女は来月には結婚が決まっていました。
ショックの余り会場を飛び出した田中は、質の悪い2人組に因縁を付けられるは車道に飛び出した所をカローラに跳ね飛ばされるは散々です。
精神的にも肉体的にもボロボロ状態になった田中は、電信柱の陰からこっちを見ているレインコートの女の子を目撃します。
何処か懐かしい少女の面影には、14年前に将来を誓った想い出のあの子に重なるものがありました。
【承】僕のエア のあらすじ②
10歳の頃の田中は学校に居場所もなく友達もいなく、いじめっ子のターゲットになってしまう孤独な少年でした。
そんな彼をかばってくれた唯一無二の存在は、近所に住んでいた3歳年上のお姉さん・山田スミレです。
「大きくなったら結婚してあげる」のひと言を心の拠り所にして今日まで生きてきた田中の下に、6月のある朝1通の手紙が舞い込みます。
見知らぬ男性と婚約したスミレの、近々行われる結婚式への招待状でした。
目の前にいる「エア」と名乗った少女は、確かに幼い頃のスミレのままです。
エアは田中が間借りしている木造自宅アパートの一室に転がり込んできて、傷だらけの田中の額に濡れ衣を当てたり手作りのお粥を振る舞ったりと面倒を何くれとなく見てくれます。
次の日の朝にはアルバイト先の新聞販売店の営業所にまでついてきますが、職場で彼女の存在に気付いた人はいません。
田中にしか見ることが出来ないエアとの、奇妙な共同生活が幕を開けていくのでした。
【転】僕のエア のあらすじ③
エアには睡眠中の他人の記憶を読み取って、頭の中に映し出す特殊能力が備わっているようです。
お盆休みにスミレと遊びに行った夏祭り、夕暮れ時に自転車で二人乗りした河原沿いの道。
懐かしい過去ばかりでなく、田中が望む未来の映像も再現してもらいました。
正社員として就職して、スミレとはアパートで同棲生活を送っています。
社内で順調に出世を重ねていく田中は、30歳になるころには異例の早さで営業部長です。
貯金が貯まったので結婚式を挙げることになり、親族一同から新しくできた友達や同僚に囲まれています。
宴もたけなわとなった頃、田中が手にした幸福に恐れおののいた瞬間に全てが崩れ去ってしまいました。
現実の世界ではスミレと見知らぬ男性との結婚式は既に無事に終わっていて、ふたりのケーキ入刀する姿をプリントした手紙が田中の下に送られてきています。
一時でもつかの間の夢を見させてくれたエアは消え去り、これからは田中の本物の人生が始まるのでした。
【結】僕のエア のあらすじ④
師走も差し迫った朝早く、都内から夜行列車で10時間を越える旅を終えた田中は雪国の無人駅に降り立ちます。
歩いて5キロほど先にある目的地は、長らく帰省していない実家でした。
小さい頃から大好物だった母親特製のトンカツに年越し蕎麦、紅白歌合戦の後に兄夫婦と甥っ子たちと一緒に出掛ける初詣。
ただひたすらに食べて寝て猫と遊ぶ1週間を繰り返した田中は、どうやらエアなしでも生きてゆけそうです。
引き留める家族を振り切って家を後にし、午後5時のバスで飛行場に向かいます。
空港行きのバスを待っていた田中は、成人した本物のスミレと再会を果たしました。
つい最近までスミレそっくりの幻にとり憑かれていたと打ち明けても、彼女にはまるで信じて貰えません。
新婚生活は幸せにいっているようで、地元役場でのお仕事も順調なようです。
スミレに別れを告げる直前に田中は道路の真ん中で小さな人影を見たような気がしましたが、振り替えることなくバスに乗り込むのでした。
僕のエア を読んだ読書感想
密かに想いを寄せている女子高校生に近づく目的で、楽器も弾けないのに軽音部に入部してしまう主人公・田中翔の学生時代のエピソードには笑わされました。
挙句の果てには1人部室の中でエアギターを練習している姿を、憧れのあの子に目撃されてしまうほどの不甲斐なさです。
社会人になってからの相も変わらぬ怠惰な日々も憎めないものがあり、自分にしか見ることの出来ない「エア」との共同生活には不思議な味わいがあります。
妄想の中に捉われていたモラトリアム気味な青年に訪れる、クライマックスでの細やかな旅立ちには心温まるものがありました。
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