【ネタバレ有り】真夜中の子供 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:辻仁成 2018年6月に河出書房新社から出版
真夜中の子供の主要登場人物
蓮司(れんじ)
福岡の歓楽街・中州のホステスの私生児として生まれ、戸籍を持たない少年。小学校にも行けず、歓楽街中州から出たこともない。
あかね(あかね)
蓮司の母親。美人だが男と金にだらしないホステス。元夫との暴力から逃れるために、愛人とともに中州に逃げてきた。
宮台響(みやだいひびき)
31歳の巡査部長。中州交番勤務。蓮司が子供の頃から肉親のように気にかけている。
緋真(ひさな)
中州のマンションに住む少女。蓮司と同級生。蓮司と外の世界を繋ぐ役割を果たす。
瀧本優子(たきもとゆうこ)
中州のやり手ママ。成長した蓮司を気に入り、保護する役割を引き受ける。
真夜中の子供 の簡単なあらすじ
西日本最大の歓楽街・福岡中州。家族の愛を知らない一人の少年が、歓楽街を愛し、この街で自分だけの王国を築くことを決めた—…。戸籍を持たず、学校にも通えない少年が、博多の神事・博多山笠に魅せられ、歓楽街の人々に守られながら、たくましく成長する姿を描いた感動作です。
真夜中の子供 の起承転結
【起】真夜中の子供 のあらすじ①
2005年4月、警察学校を出たての宮台響が初めて配属されたのは、九州最大の歓楽街・中州の交番でした。
ソープランドのネオンが光る街の中を巡回していると、真夜中にもかかわらず、街を徘徊する幼い子供の姿を見つけます。
ホステスの母親が仕事の夜中、行く当てもなく街を徘徊している子供だと聞き、宮台は不憫に思います。
それが彼と幼い蓮司との出会いでした。
蓮司を保護した宮台は、彼に食事を与え、保護施設に入所させてやります。
食事も与えられずネグレクト状態だった蓮司は、食事をとれて優しくしてもらえる保護施設を喜ぶのでした。
ところが、母親は「勝手なことをするな」と宮台にたてつき、蓮司は連れ戻されてしまうのです。
彼はまた夜中の中州で徘徊する日々を繰り返すことになります。
そんな彼を歓楽街の人々は飼い猫のようにかわいがり、いつしか彼は中州で「真夜中の子供」と呼ばれるようになるのでした。
蓮司はホステスの母親・あかねの私生児です。
元夫の暴力から逃げるため、愛人とともに中州に身をよせたあかねは、身元がばれるのを恐れ、蓮司の戸籍を出していません。
戸籍を持たない蓮司は学齢期になっても小学校にも通えず、中州の外に出ることすら拒みます。
彼はいつしか中州のあらゆる場所を知りつくし、ここを王国だと思うようになるのでした。
【承】真夜中の子供 のあらすじ②
季節は廻り、夏がやってきました。
中州の街は、福岡最大の神事・博多山笠へ向けて熱気を帯びてきます。
学校にも行かず、外の世界を知らない蓮司にとって祇園山笠の神々しいエネルギーは彼を圧倒します。
強い憧れを持って山笠を見つめる蓮司の心に、この歓楽街で生きていく強い決意が宿ります。
そしてある日、蓮司は自分と同じくらいの子供が中州エリアに住んでいるのに気が付きます。
彼女は緋真という名で、母親が中州で働いているため、中州のマンションに住んでいるのでした。
ただ、彼女は毎朝橋を渡って博多の小学校に通っているのが、蓮司とは違う点でした。
二人はすぐに仲良くなり、緋真は学校以外のすべての時間を蓮司のそばで過ごすようになります。
二人は中州の街の隅から隅までを冒険するのでした。
一方、警官の宮台は、戸籍を持たないゆえ学校にも行けない蓮司の身を案じていました。
ネグレクト状態の蓮司を守るために自分にできることはないかと、法務局などまで出向いて相談する宮台。
彼の前に法律の壁が立ちはだかるのでした。
蓮司が初めて山笠に乗せてもらえた年の夏、事件が起こります。
蓮司の母親・あかねを追いかけてきた元夫が現れ、あかねの今の夫・正数を殴り、半身不随にする大けがを負わせるのです。
それを目の前ですべて見ていた蓮司。
この日から、蓮司は中州から姿を消してしまうのでした。
【転】真夜中の子供 のあらすじ③
時は流れ、2016年夏。
宮台響は数年ぶりに再び中州交番に配属になり、中州に戻ってきました。
巡回中のある夜、見覚えのある青年の姿に宮台は驚きます。
それは行方をくらましてから9年後、16歳になった蓮司の姿でした。
彼は年齢をごまかして中州のホストクラブで働いていたのです。
行方をくらましていた数年間、彼は中州の外から出ていなかったのです。
かわいがってくれていた中州の老人から、マンションの一室にかくまわれていた蓮司が、唯一外の世界のことを報せてくれるのが幼なじみの緋真でした。
彼女は学校に通う傍ら、放課後は蓮司の住むマンションを訪れ、外の世界のことを教えてくれるのでした。
成長するうちに緋真は蓮司に恋愛感情を抱くようになり、母性本能にも似た保護欲を彼に抱くようになるのでした。
16歳になり、外の世界に再び出た蓮司は、ホストクラブで働き始めます。
見た目も幼く、下っ端の彼は同僚のホストに馬鹿にされていますが、ある日、店を訪れた中州のやり手ママ・瀧本優子に見いだされ、天性の人たらしの才能を発揮しだします。
あっという間に指名がつくようになった蓮司は、中州の夜の世界で活躍するようになり、その姿を見た緋真は嫉妬心を抱くようになるのでした。
【結】真夜中の子供 のあらすじ④
ホストとしての蓮司の仕事が軌道に乗ってきた矢先、事件が起きます。
夫・正数がリンチにあって以来、長い間行方をくらましていた、蓮司の母親あかねが再び中州に戻ってきたのです。
あかねは蓮司がホスト業で稼いだ金をせびり、それを湯水のように使い果たしてしまいます。
蓮司はそんな母親をふりほどくことができません。
あかねの度を越した蓮司への依存から、中州のママ・瀧本優子が盾になり守ってくれようとしますが、とうとう蓮司はホストから足を洗うことになります。
金の出所がなくなったあかねは怒り狂い、蓮司のもとへ度重なる嫌がらせをするようになります。
ある日、あかねの元夫であり、正数にリンチをした加藤文亮が出所し、中州にあかねを探しにきます。
蓮司とあかねのもとに現れた加藤は、「おまえは俺の子だ」と言います。
ずっと正数が自分の父親だと思い込んでいた蓮司が、初めて本当の父親に対峙した瞬間でした。
「蓮司は正数の子」と嘘をつきとおしたあかねを許せなかった加藤は、その嘘を暴くと、2人の目の前で警官に殺害されます。
そして、あかねの嘘と、自分の人生を邪魔ばかりする母親の傲慢さに我慢の限界を感じた蓮司もまた、あかねをナイフで刺し殺すのでした。
2年後の夏、再び山笠の季節が巡ってきました。
蓮司は出所し、再び中州の街に帰ってきます。
幼なじみの緋真、瀧本優子、中州の大人たちは彼の出所を祝い、中州に帰ってきてくれたことを歓迎してくれます。
その目の前に山笠が走り抜け、蓮司はこの街で生きていくことを再び誓うのでした。
真夜中の子供 を読んだ読書感想
本当の家族の愛を知らずに、両親からネグレクトされている子供が、血の繋がらない歓楽街の人々に可愛がられながら成長していく姿に胸をうたれました。
全編博多弁で会話が描かれ、歓楽街の猥雑な空気、祭りの熱気などを肌で感じられる文体です。
博多弁の子供同士の会話がかわいく、いじらしさが際立ちます。
人情の街博多を舞台にした、ハートウォーミングな成長小説であるとともに、戸籍を持たない子供への法律の整備の遅れに警鐘を鳴らす、社会派作品になっています。
福岡出身の作者ならではの細かい舞台設定や、街の空気感を描き切った、博多文学の代表作です。
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