【ネタバレ有り】ことり のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:小川洋子 2012年11月に朝日新聞出版から出版
ことりの主要登場人物
小鳥の小父さん(ことりのおじさん)
大学教授の父親と主婦、7つ年上の兄の4人家族で育つ。ゲストハウスの管理人。
ことり の簡単なあらすじ
自分だけの言葉を使う兄と、彼の言葉を唯一理解できる弟の孤独な人生が映し出されていきます。ひとり残された弟は「小鳥の小父さん」の愛称で地元住民から有名になっていきますが、ある事件をきっかけにして事態は一変するのでした。
ことり の起承転結
【起】ことり のあらすじ①
小鳥の小父さんが初めて鳥小屋を見たのは6歳の時で、場所は教会付属の孤児院でした。
路地に面した裏門脇の銀杏の木陰にひっそりと建てられた小屋の中では、レモンカナリアからローラーカナリアまでの稀少品種が飛び回っています。
7つ年上のお兄さんと一緒に見つめていると、いつまでも飽きることはありません。
11歳を過ぎた辺りからお兄さんは自分で編み出した言語で喋り始めていて、彼と会話が成立するのは小鳥の小父さんだけです。
高名な言語学の権威にお兄さんの言葉を聞いてもらいましたが、お堅い学者はあっさりと「雑音」と決めつけます。
母親はお兄さんの言葉を解読しようと努力していましたが、父親は大学の仕事が忙しく息子と向き合おうとはしません。
学校に行けなくなってからのお兄さんの外出先は、毎週水曜日の夕方に近所の雑貨屋・青空商店を訪れるくらいです。
レジ横の棒付きキャンディー「ポーポー」を1本ずつ購入し、包み紙を集めて鳥の模型を作るのが何よりもの楽しみでした。
【承】ことり のあらすじ②
母親が血液の病で亡くなった9年後に、今度は定年退職を目前に控えた父親がゼミの合宿中に海で事故死しました。
21歳になった小鳥の小父さんは、金属加工会社のゲストハウスで管理人として雇われることになります。
29歳のお兄さんは鳥小屋を見に行くか青空商店にポーポーを買いに行くかは、相変わらず家でお留守番です。
お兄さんが52年の生涯を閉じたのは、かつての孤児院で現在では幼稚園となった裏門の前でした。
小鳥の小父さんは園長先生に、無給で鳥小屋を掃除することを申し出ます。
お兄さんが一生をかけて愛し続けた鳥小屋を、隅々まで丁寧に磨き上げることこそが供養になるはずです。
掃除用具をポケットマネーで新しく買い換えて、図書館に足繁く通いながら鳥類学に関する専門書を読み耽りました。ある日新しく借りる本をカウンターに置いた時に、若い女性の司書から話かけられます。
幼稚園の子供たちが付けたニックネームに従って、彼女も「小鳥の小父さん」と呼び掛けるのでした。
【転】ことり のあらすじ③
小鳥の小父さんの近所で、5歳の女の子が連れて行かれる未成年者略取事件が発生しました。
犯人がなかなか逮捕されない中である日の夜に小鳥の小父さんの自宅を訪れたのは、ふたりの警察官です。
幼稚園に出入りするようになったきっかけ、園長先生との関係、仕事の種類に勤務時間。
間もなく幼稚園の裏庭には保護者からの強い要望もあり、南京錠が設置されて関係者以外は立ち入り禁止となります。
鳥小屋の掃除は実習に来ている学生の仕事になり、小鳥の小父さんが携わることはもうありません。
小鳥の小父さんの周囲には不吉な噂話が降って涌いて、「子取りの小父さん」とまで囁かれる始末です。
幼児連れ去りの真犯人犯が逮捕された後も、幼稚園からの連絡はなく鳥小屋の係として復帰できる気配はありません。
朝早く人目を忍んでフェンス越しに眺める鳥小屋は、すっかり荒れ果てています。
卒園式が終わり最後の1羽が死んだ空っぽの鳥小屋は、入園式の前には取り壊されてしまいました。
【結】ことり のあらすじ④
60歳を過ぎてからも嘱託職員として仕事を続けていましたが、金属加工会社がゲストハウスを手放すのを機会に小鳥の小父さんは退職することにしました。
お別れパーティーに招かれて司会者から一言求められた小鳥の小父さんが披露したのは、マイクを使った小鳥の物真似です。
本社の役員から取り引き先の関係者まで大勢の来場者たちは、隠し芸と勘違いして拍手を送りますが「ことり、ことり」といういつかの囁き声も紛れこんでいます。
頭痛に悩まされるようになっていた小鳥の小父さんは、青空商店に紹介された中央病院で精密検査を受けますが原因は判明しません。
痛みを和らげる唯一の方法は、庭のバードテーブルに集まってくる小鳥の歌を聴くことです。
いつまでたっても姿を見せてくれない時には、小鳥の小父さんが鳥の鳴き真似をします。
小鳥の小父さんの遺体が自宅で発見された時に、腕に抱えていたのは竹製の鳥籠です。
駆けつけた警察官が籠の口を誤って開けてしまい、中に入っていた1羽の小鳥は窓から飛び立っていくのでした。
ことり を読んだ読書感想
人間とのコミュニケーション能力は苦手ながらも、小鳥たちのさえずりに耳を傾ける兄には修行僧のようなストイックさを感じてしまいました。
20年近くに渡って無報酬で幼稚園の小鳥を世話するする、弟の清廉潔白さにも驚かされます。
孤独な兄弟の人生に、僅かながらの潤いを与える図書館司書や無邪気な幼稚園児の存在が微笑ましかったです。
心無い噂によって生き甲斐にしていた鳥小屋の清掃を奪われてしまう、物語後半の展開には胸が痛みます。
世間一般の価値観や豊かさに捉われることなく、自分自身の信念と自由を貫く兄弟の生きざまには心を揺さぶられました。
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