著者:深山 くのえ 2014年9月に小学館から出版
浪漫邸へようこその主要登場人物
菖蒲小路 紗子(あやめこうじ すずこ)
本作の主人公、公家貴族のご令嬢で女学生。借金をつくり逃げた父親の代わりに借金を返すため休学中。真面目で優しく芯が強いお姉ちゃん
山ノ内 伊織(やまのうち いおり)
医者を目指す学生。医者の家に養子に出されたが、最近そこに男児が生まれたため微妙な立場となる。下宿先が火事で燃えてしまい、当座の資金のため辞書を売りに来たところで紗子と出逢う。文武両道で優しいが怒ると怖い
林 しの(はやし しの)
紗子の家に仕える女中。嫁ぎ先で暴力を振るわれ命からがら逃げた先で紗子の家族に助けられた恩がある。誰に対しても物おじしない性格
菖蒲小路 尚彦(あやめこうじ なおひこ)
紗子の弟。菖蒲小路家の次期当主だが子どものため権限が与えられていない。伊織が下宿先で困っていることをきいて、菖蒲小路家に下宿すればいいと言ってくれた
浪漫邸へようこそ の簡単なあらすじ
紗子は父親の借金を返すために家財や着物などを手放します。
ある日質屋に着物を持っていくと、優しそうな学生が後から入ってきました。
質の悪い店主に困っていた紗子を彼は助けてくれました。
彼は火事で住む場所に困っていました。
そこで、一晩家に泊めることにしましたが、翌日弟に下宿屋をやればいいと言われ、そのまま住むことになります。
一目逢った時から惹かれ合っていた二人のもどかしくも優しい日常がここから始まります。
浪漫邸へようこそ の起承転結
【起】浪漫邸へようこそ のあらすじ①
公家華族である紗子は、浪費癖の父親がつくった借金600円(現在の価値でおよそ300万円ほど)を返済しなければなりませんでした。
祖父も母も病で亡くなり、同じく浪費癖のある祖母は叔母の家に逃げ込み、女学生である紗子が返すことになりました。
しかし当時華族は許可なく商売をして稼ぐことは許されず、彼女は家財や母親の形見の着物などを売って工面していました。
あと少しで借金も返せる、そんなとき、のこりの20円を工面するために質屋に着物を売りに行きました。
質屋には酔っ払った様子の店主がいて、華族が着物を売ることを笑いました。
対処に困る紗子の前に、優しい顔立ちの学生伊織が現れ、店主をいなしてくれました。
彼は下宿先が火事になり、銀行があくまでお金がないため、春先だというのにコートを質にいれにきたのです。
話を聞いた紗子は、お礼をしたいと彼を自宅に招待します。
そこには幼い弟もいて、医学生である彼に一晩勉強をみてほしいと頼み教わりました。
その時、突然借金の取り立てがやってきて、彼に気付かれてしまいます。
彼は何も気付かないふりをしてくれました。
その晩、事件が起こりますが、それをきっかけに彼は菖蒲小路家で信頼をかちとりました。
翌日、下宿先を探すからと出て行こうとする彼に、引き止めたい想いを隠しながら見送る姉をみて、弟である尚彦が提案します。
うちで下宿屋をすればいい、看板をださなければバレない。
と、こうして菖蒲小路家は内緒の下宿屋をすることになったのです。
【承】浪漫邸へようこそ のあらすじ②
華族である菖蒲小路家は、下宿屋など営んだことがありません。
相場すら知らない彼らは、具体的に何をすればいいのか、幾らに設定するのか、どんな人を何人いれるのか。
そのすべてを伊織が考えてくれました。
まず食事を提供するのか、風呂を提供するのか(普通の家にはまだまだない時代です)、人数は部屋数に応じて考えること、炭代は、電気代など丁寧に教えてくれます。
あえて高い金額で設定することで、あぶない人をより分けたほうが良いと助言までくれました。
そんなことを言われても、女学生の紗子には難しく、思い切って伊織の知り合いに声をかけてもらいたいと頼みます。
出会ったばかりでそこまで信頼されることに喜びを覚えつつ、彼も了承し、数日掛けて人が集まってきました。
荷物が多すぎて床が抜けたことがある古書店の店員、芸術家で変人と名高い男性、絵描きになることを夢見て田舎に帰らない青年、その青年がどうしてもと頼み込み連れてきた一匹の猫。
屋敷はとても賑やかになりました。
穏やかな時間が流れるようになりました。
【転】浪漫邸へようこそ のあらすじ③
まだ空いている部屋もあり、もう一人ぐらい下宿人を探すことになりました。
伊織の従兄で、下宿先を転々としている人がいることが判明し、その人物はほかの下宿人も知っている人でした。
紗子はよければ連れてくればいいと言いましたが、伊織はやんわりと断ろうとします。
というのも、その人は絶世の美男子。
女性は年齢を問わず彼に惚れてしまい、美男子を取り合うために下宿先でトラブルになっていたのです。
そのことを知っていた伊織は、万が一にも紗子が彼に惚れてしまわないか不安でした。
他の下宿人はむしろ、紗子やしのなどが美男子を取り合うことを心配したが、それは絶対にないと言い切られ、伊織はついに従兄を紹介することになりました。
現れた従兄は確かに美男子でしたが、紗子には伊織の方が良く見えました。
しのも好みではなかったので二人が取り合うということもなく、伊織は安心しました。
その翌日、従兄のあまりの寝相の悪さに、これは数々の下宿先を追い出されたのは女関係ではないと判明します。
誰に対しても物怖じしないしのが面倒を見つつ、変わらず賑やかな日々が続きます。
【結】浪漫邸へようこそ のあらすじ④
ようやく下宿屋が落ち着いたころ、紗子は久々に女学校に行きました。
仲の良い友人に会えた嬉しさや、体調不良と偽って休んでいたため心配をかけたクラスメイトに申し訳なく思っていたところ、以前は普通に話せていた女子の一人が急にあたりが強くなりました。
原因がわからないまま放課後を迎え、ついに彼女は体をぶつけられ、転倒してしまいます。
その様子を見ていた他の女学生たちが、原因を知る手がかりを教えてくれました。
当時華族女性は雑誌にお見合い写真を投稿することがあり、紗子も祖母に言われ、修正された写真を載せたことがありました。
紗子に辛くあたった女子は、その写真を見て紗子に惚れてしまったの男性の婚約者だったのです。
男性が紗子が好きだと言ったせいで八つ当たりされたのでした。
しかし実は、その写真の修正はあまりにもひどく、実物の紗子とは似ても似つかないオカメ顔。
存在しない幻の紗子でした。
どうしたものかと悩んでいた紗子は下宿人たちに相談し、絵描きの青年がオカメ顔を拡大して描いてくれ、それを友人に見せることで誤解を解くことができるのではないかと提案してくれました。
彼の案は見事に当たり、紗子と彼女は仲直りすることができました。
彼女はすぐに婚約を解消し、なんと男性の弟と結婚することになりましたが、穏やかな日々が戻ってきました。
浪漫邸へようこそ を読んだ読書感想
下宿屋シリーズの第一巻のため、主人公紗子と伊織の関係は殆ど進みません。
それでも伊織の帰りを玄関で待ってみたり、夜中に二人で話すシーンなど、可愛くてもどかしい様子が伝わってきます。
大正時代のことも細かく書かれていて、当時の流行りや女学校のこと、街中を走る鉄道の話など、興味深いシーンもあり歴史好きも楽しめるようになっています。
一生懸命に家を支えようとする紗子を、静かに見守る青年の日々が幕をあけたばかりです。
青年伊織は養子先を追い出されて少々微妙な立場のため、華族である紗子に想いを打ち明けることができず、それでも募る想いを日々大切にしている様子がとても素敵でした。
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