著者:荻上直子 2010年8月に光文社から出版
モリオの主要登場人物
モリオ(もりお)
主人公。仕事はコンピューター関係。退屈にたえることを人生の大部分と捉える。
カヨコ(かよこ)
モリオの姉。つねに他人を見下してときには力で訴える。
柿沼(かきぬま)
モリオの義兄。プロレス界では悪役として有名だが素顔は愛妻家。
ポチコ(ぽちこ)
モリオが勝手に命名。白黒のブチねこだが犬のようなしぐさをする。
カトリーヌ(かとりーぬ)
モリオの隣人。肉親の愛に飢えている。
モリオ の簡単なあらすじ
子どもの頃から「男らしさ」を求められることがコンプレックスだったモリオ、成人後もなるべく周囲と関わりを持たないように生きています。
スカートを縫うことに喜びを感じるようになったのは、母の遺品の中から譲り受けた1台のミシンがきっかけです。
隣家に住んでいる孤独な少女と心を通わせつつ、苦手にしていた姉のことも少しずつ理解を深めていくのでした。
モリオ の起承転結
【起】モリオ のあらすじ①
物心ついた時からモリオのお気にいりの場所といえば、母親が愛用していた足踏みミシンの下でした。
日が暮れるころには外で遊んでいたカヨコが帰ってくると、隠れている弟を引きずり出して容赦なくひっぱたいたり蹴ったりします。
ピアノを習っていた娘のために花柄のスカートを作ってあげたのは母、いやいや着ていくと発表会での成績は散々なものに。
姉が脱ぎ捨てたスカートを拾って腰に当ててみたモリオ、悪いことをしているような後ろめたさがありつつもドキドキが止まりません。
ズボンしか履かなくなったカヨコは現役のプロレスラー・柿沼と結婚、リングの上では反則技で大暴れをしていますが普段はいたって温厚とのこと。
就職した先でモリオに与えられたのは、プログラマーが組んだコードに不具合がないかどうか日々黙々とチェックする作業です。
誰かと衝突する可能性がないポジション、それなりの給料とそれなりの休み。
12時のチャイムが鳴ると公園へ向かいお弁当を広げて野良猫のポチコと一緒に昼食、多くを望むとろくなことがありません。
【承】モリオ のあらすじ②
母の臨終をみとって実家を出て、初めてのひとり暮らしをするために賃貸アパートの201号室へ。
あわただしく四十九日も終えてようやくひと息つけた日曜日の朝、カヨコから電話がかかってきました。
生前からの母の遺言で古い家を壊すことは決まっていましたが、荷物の整理を手伝ってほしいとのこと。
例によって有無を言わせない強い口調ですが、断れば人の好い柿沼に負担をかけることになるでしょう。
3人で協力をしながら黙々と作業を進めていると、柿沼が物置の奥から発見したのは埃まみれのミシン。
カヨコが言うには絶対に動かないそうですが、モリオは強引に引き取ってメンテナンスをします。
慎重に分解して各部分をきれいに拭き掃除、錆びついていた針は油をさすとピカピカに、ぼろぼろのペダルとボビンケースを交換すると滑らかな回転に。
ミシンの前に座って没頭しているとチャイムが、ドアを開けると立っていたのは101号室の少女です。
ピンク色のランドセルで登下校をしているところを何度かすれ違いましたがいつも独り、母親の姿は見たことがありません。
【転】モリオ のあらすじ③
ちょうど真下の部屋にいるためにダダダダ、という機械音をいつも聞いているという女の子。
「カトリーヌ」と名乗った彼女は雨の日になると頭が痛くなる症状に悩まされていましたが、ミシンの音が響くと不思議と楽になって眠れるそうです。
2枚の布を合わせたミニチュアスカート、花柄模様で大きさはかろうじて人形が着られそうなくらい。
完成するまで静かにそばで見守っていたカトリーヌ、夕食の時間になっても帰ろうとはしません。
仕方がないのでカレーライスを作ってごちそうをすると、やせっぽちの体の割には2皿をペロリと完食しました。
あまり夜遅くまで独身男の家においておくと、変質者と間違われてしまうのではと心配になってきたモリオ。
午後11時になってようやく引き上げたカトリーヌ、まだ母親は帰宅していないようで明日から祖母の家に預けられると寂しそうにしています。
空が冷たい朝焼けに変わるころにカヨコからメッセージが、柿沼が試合中に頭を強打して緊急搬送されたとのこと。
【結】モリオ のあらすじ④
着の身着のままで総合病院へと駆け付けたモリオ、医師の診断によると軽度の脳震盪だそうでケガの具合も大したことはありません。
むしろ深刻なのは前々からここの産婦人科に通院していたカヨコのほう、長らく苦しい不妊治療を受けていたかいがあって待望の第一子が。
意識が回復した柿沼は検査室を出ると、駆け寄ってきたカヨコを丸太のような太い腕で抱きしめます。
モリオは生まれてくる子のために、手製のかわいいワンピースでもプレゼントをするつもりです。
この街でいちばん高い建物になっている病院、屋上に出るとすがすがしい空気と美しい夕方の風景が。
手すりから身を乗り出してランドセルを投げ捨てていたのはカトリーヌ、黒やブルーが好きなのに「女の子だから」という理由でピンクを背負わされていたのが嫌だったそうです。
遠くにゆっくりと落下していくランドセルを見送ると、こちらを振り返った顔は驚くほど大人びた顔に。
新しいカバンを縫ってほしいという彼女の頼みに、モリオは静かにうなずくのでした。
モリオ を読んだ読書感想
ふたつの眉毛が「ハ」の字になっているという主人公モリオ、今にも泣き出しそうな顔で近所のいたずら子から訳もなく殴られたとか。
このまま大人になってしまったために勤め先では透明人間に、同僚とのランチタイムは極力避けて猫とおかずをシェアするなど徹底してますね。
カヨコお姉さんは真逆の性格、残念な弟くんを守るのかと思いきやヒールレスラーのプロポーズを受けてしまうとは予測できませんでした。
観客から常に「強さ」を求められている柿沼が、プライベートでは妻をやさしく支えているのが伝わってきます。
「女の子」の型にはめられていた小さなヒロインのカトリーヌ、彼女もまたモリオとの交流によって救われたのでしょう。
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