著者:一滴ライオン 2022年11月に幻冬舎から出版
二人の嘘の主要登場人物
片陵 礼子(かたおか れいこ)
東京地方裁判所の裁判官。幼いころに母親は失踪し、叔母に育てられる。東大法学部を歴代トップの成績で卒業後、司法試験に合格。10年に一人といわれる逸材であり、誰もが振り返るほどの容姿の持ち主。司法試験に合格と同時に片陵貴志と結婚。33歳。
蛭間 隆也(ひるま たかや)
かつて時計技師として働いていた工房の経営者を殺害し、片陵礼子に裁かれた。毎朝、定刻に裁判所の前に現れる「門前の人」。
片陵 貴志(かたおか たかし)
片陵礼子の夫。片陵法律事務所を経営する40歳。父親も裁判官だった良家の一人息子。
雨音 智己(あまね ともみ)
東京地方裁判所長。礼子の上司でもあり、礼子・貴志の司法修習生時代の担当教官。世間から注目を集める裁判を礼子が担当する際は、法衣の下に着るシャツを毎回プレゼントしてくる。
二人の嘘 の簡単なあらすじ
東京地方裁判所で裁判官として世間の注目を集め、活躍する片陵礼子。
法曹界では10年に一人の逸材として期待される中で、家庭では、結婚した貴志とは安定した生活が送れるものの、どこか冷めた関係でもある。
そんな中、礼子がかつて担当した裁判の被告人が毎朝定刻に裁判所前に立っている・・・所謂自分の判決に不服があり裁判所前で糾弾する「門前の人」となっている男がいることを耳にする。
二人の嘘 の起承転結
【起】二人の嘘 のあらすじ①
今までの判決は一度も間違ってはいないと自負する礼子だったが、「門前の人」となって判決に不服があるような行動をする蛭間のことが頭から離れない礼子。
裁判時の手控えを何度も見返し、凛とした佇まいと芯の強さを感じさせる印象に今までの被告人とは違う何かを感じつつも、事実だけを見つめた先に見える判決はやはり間違ってはいないと思う礼子だった。
新聞記者を勤める同窓生の守沢や蛭間の裁判で弁護人を務めた山路を頼って蛭間の情報を集めるが、そんな折、偶然にも電車で礼子は蛭間と遭遇する。
「判決に不服があるのか」との問いに、「判決を考えてくださって、ありがとうございました」と答える蛭間。
わずかな時間の接触に、礼子の中にはある一つの疑念が沸き起こる。
「だれか庇っている・・・?」確信的な何かを見つけられないまま、蛭間が幼少期を過ごした聖森林の里学園に向かう礼子。
そこで、蛭間 隆也の妹、蛭間奈緒の存在を知るが既に亡くなっていることを知る。
蛭間 隆也が人生を賭けて守ろうした存在を悟った礼子は、自分の過去と重ね合わせ、忘れようとしていた感情を堪えきれずに学園を後にするのだった。
【承】二人の嘘 のあらすじ②
学園を後にした礼子は、帰りの電車の改札口で蛭間に腕を掴まれる。
当時の裁判の弁護人山路から自分のことを調べていると知った蛭間が改札口で待っていたのだ。
調べないで欲しいという蛭間に対して、学園から育児を放棄された子供たちを見た礼子は、自らが母親に捨てられた過去がフラッシュバックし、「自分の判決は間違ってはいけない、間違っているなら、正して欲しい」と蛭間に懇願し、再審要求をするよう要求する。
そして、「私の口を塞いでほしい。
そうすれば黙っていられるかもしれない」と蛭間に伝え、過去を払拭するように蛭間と体を重ね、一夜だけの情事を過ごす。
裁判官という感情、本能をある意味欠落させて行う場に身を置き、過去の記憶から距離をとって生きてきた礼子にとって、母親が失踪した記憶と感情は今ある自分の存在さえも危うくさせてしまう。
そんな過去を背負う彼女にとって、蛭間という男の存在は、学園で妹と二人生きてきた過去を知ってなお、特別な存在として礼子の中で大きくなっていく。
【転】二人の嘘 のあらすじ③
11月、雨音に食事に誘われた礼子。
そん場には自民党の稲葉代議士が同席しており、衆議院議員に立候補しないかと勧誘されるが自分には合わないとその場は断る。
帰り道、忘れようとしていても思い出してしまう蛭間のことを思い、蛭間が事件を起こした現場に赴く礼子。
そこで事件現場を転々と歩く、蛭間がオーナーを殺した時計屋の店舗、その後川端で自身も傷を負いながら寄りかかった木、そこで、やはり蛭間の証言に隠された真実に気付く。
時計店のオーナーは地元では有名なろくでもない男だった。
養護施設から蛭間隆也を援助し、時計店は実質隆也が切り盛りしていた。
隆也が妹との思いでを作品として時計コンクールに応募したデザインは、見事優秀賞となるが、オーナーが自身の作品として応募していた。
このことを知った蛭間奈緒は時計店に抗議をしに行ったのだが、そこで、時計店オーナーの毒蛾にかかる。
そして、それからは何度も蛭間奈緒はオーナーのおもちゃとされていたのだった。
真実を知った礼子は自分がサポートするから蛭間に再審を受けるように懇願する
【結】二人の嘘 のあらすじ④
夫の両親と食事にいくことになった礼子だが、途中によった百貨店の駐車場の工事作業に蛭間 隆也を見付けてしまう。
買い物を終えた礼子は、百貨店を夫とともに車ででるが、渋滞の途中クルマを飛び降り、百貨店の駐車場に戻ってきてしまう。
蛭間を探す礼子。
ついに電車の中で蛭間を見付けるとそのまま、蛭間の家で一夜を共にする。
翌朝、わずかな時間、礼子と蛭間は時間を共にするが、幸せな時間長くは続かない。
帰宅すると夫の貴志は激怒していた。
もともと、上手くいっていた訳ではないが、それでも安住の場所は礼子にとって必要な場所ではあった。
それでも礼子は、蛭間に新たな生活を歩んで欲しいと最新の手続きを進める。
それは、雨音の計画する衆議院議員に立候補することを条件にした賭けでもあった。
再審が近くなってくると、礼子は蛭間に旅に出られないかとメールする。
二泊三日の金沢旅行だった。
初めて恋人のように、二人過ごす礼子と蛭間だった。
金沢を楽しむ二人が最後に立ち寄ったのは能登半島、最果ての町だった。
最果ての町の民宿で夜の月を見上げながら、ここで蛭間と新たな人生を歩むと誓う礼子。
翌朝、礼子は目覚めると蛭間の姿がないことに気付く。
部屋には、最後まで礼子を思いやる気持ちと時計店オーナーの新たな証拠となるUSBメモリが添えられていた。
そして、消えた蛭間は足に船の碇をつけて防波堤から沖に出た先で、漁船の網に遺体となって引き上げられていた。
二人の嘘 を読んだ読書感想
正義感あふれる判事の礼子、最後までどこか寂し気な空気を纏う元服役囚の蛭間 隆也との決して触れ合うことにないはずの二人が落ちてしまう恋。
出自のエピソードからどこか共通する部分がある二人が惹かれていく部分から、徐々に物語の色合いが増してくるのが面白い作品となっている。
判事として活躍する裏側で人として何か失ってしまったものと取り戻すための礼子の葛藤が描かれ、そこに蛭間という男の強さと優しさが最後まで息づいている。
ラストの悲しさと切なさは衝撃だが、礼子の心の霧がはっきりと晴れた、そんな爽快感も感じさせるお勧めの一冊です。
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