「ねこ物件 猫がいるシェアハウス」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|柳雪花

「ねこ物件 猫がいるシェアハウス」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|柳雪花

著者:柳雪花 2022年7月に中央公論新社から出版

ねこ物件 猫がいるシェアハウスの主要登場人物

二星優斗(ふたぼしゆうと)
主人公。外で働いたことはなく今後の展望もない。礼儀ただしくフンワリとした雰囲気を漂わせる。

二星幸三(ふたぼしこうぞう)
優斗の後見人で故人。福祉の仕事とボランティアに生涯をささげた。

広瀬有美(ひろせゆみ)
地域密着型の不動産屋に勤務。顧客対応も人間関係も円滑に進める。

立花修(たちばなおさむ)
二星家の店子。弁護士を目指して司法浪人中。困った人を放っておけない。

雅斗(まさと)
優斗の弟で過酷な幼少期を送る。現在の消息は不明。

ねこ物件 猫がいるシェアハウス の簡単なあらすじ

社会に出ることもなく30歳を迎えた二星優斗の毎日が一変したきっかけは、祖父のように慕っていた幸三が突如として病死してからです。

愛猫家のために自宅を提供して共同生活をスタートすることによって、少しずつ交友関係が広がっていきます。

本来の目的である生き別れになった弟の捜索は難航しますが、優斗は誰かとつながる喜びに目覚めていくのでした。

ねこ物件 猫がいるシェアハウス の起承転結

【起】ねこ物件 猫がいるシェアハウス のあらすじ①

閉ざしていた門戸を開く

二星優斗は学校を卒業してからも就職せずに、幸三と2匹の猫と一緒に暮らしていました。

幸三のことは「おじいちゃん」、メスの三毛のことは「チャー」、オスのハチワレのことは「クロ。」

その幸三が脳こうそくで亡くなったのが8月のお盆前で、49日になると「四つ葉不動産」から広瀬有美がお線香をあげにきます。

二星家の土地と家屋を管理している小さな会社で、歩いて2〜3分程度の商店街に店舗がありチェーン展開などはしていません。

相続税だけでもかなりの額になるそうで、有美が提案してきたのは猫付きシェアハウスです。

優斗にとってのメリットは今の暮らしを維持しながら収入が得られること、デメリットは赤の他人を家に招き入れること。

リフォーム事業が朝早くからやって来たのは10月に入ったある日、有美がテキパキと指示を出してくれたためにスムーズに作業が終了しました。

ノートパソコンが得意な優斗はチャーとクロの写真を取り込んで、「二星ハイツ」というチラシをプリントします。

【承】ねこ物件 猫がいるシェアハウス のあらすじ②

ひとつ屋根の下で夢を応援する

入居するに当たってはチャーとクロが気に入るかどうか、「猫審査」を設けたためになかなか決まりません。

そんな最中に面接を受けにきたのが立花修、司法試験に合格するために法律事務所でアルバイトをしているとのこと。

ソファで丸まっていたシャーが立花のほうへ音もなくすり寄ってきたことを確認して、優斗は合格の判定を下しました。

舞台俳優をしていてゆくゆくは映画やドラマに出演したいという島袋毅、プロボクサーのライセンスを取得するためにトレーニングをしているという矢澤丈、台湾から留学してきたファン… いずれも猫たちに警戒心を抱かせない好青年ばかりで、新しいメンバーとして歓迎されていきます。

入居者同士のささいなトラブルはあるものの、その度に間に入ってうまく収めてくれるのは有美。

調和を保ちながらも必要以上にお互いに干渉しないというお約束は、人見知りが激しい優斗にもピッタリです。

自分にはない大きな目標に向かっている彼らを見ているうちに、優斗にもやりたいことが見つかりました。

【転】ねこ物件 猫がいるシェアハウス のあらすじ③

猫動画がバズるもののまぶたの弟は見えず

早くに交通事故で両親を亡くした優斗が施設で預け入れられていた時に、養子縁組制度を申し入れてくれたのが幸三でした。

配偶者がいないために養い親にはなれないのが本来の規定ですが、特別に認められたのは児童福祉司として優秀だったからでしょう。

優斗には雅斗という名前の弟がいましたが、別の家庭に引き取られたためにいまでも行方は分かっていません。

記憶にあるのは5つ年下だったことと、いつも猫をかわいがっていたことくらい。

年齢的にも立花や島袋と同世代のはずですが、一緒にすごしてみて血がつながっていないことはすでに確認済みです。

事情をきいた立花は広報活動にひと役を買ってくれることになり、チャーやクロの動画をネット上にアップロードしてくれました。

SNSのフォロワー数は増えていき「ねこ物件」としてトレンドになったために、四つ葉不動産には新規入居の申し込みが殺到します。

エントリーシートをチェックしてみるものの興味本意での応募ばかりで、優斗がピンとくる人は現れません。

【結】ねこ物件 猫がいるシェアハウス のあらすじ④

いつか家族で食卓を囲む日

オーディションで主役を射止めた島袋、プロテストを突破した矢澤、帰国して父親の事業を継ぐことになったファン… 進路が決まったメンバーは、ひとりまたひとりと二星ハイツを旅立っていくことになりました。

最後まで残っていた立花にも海外のロー・スクールで学ぶ機会が転がり込んできたために、涙ながらに退去していきます。

空き室が目立つようになった8月、荷物をかかえて引っ越してきたのは有美。

チャーとクロも嬉しそうに駆け寄ってきたために、猫審査も一発でクリアです。

小学生の時にいじめに悩んでいて昼休みはいつも独りぼっちだった有美、校庭で野良猫の世話をしていた優斗。

ふたりはクラスメートでしたが、優斗の方は例の事故の影響で逆行性健忘症にかかっているために覚えていません。

有美としては無理に思い出させるつもりはなく、これからも幸三の遺言通りにこの家を見守り続けるだけです。

リビングに勢ぞろいした猫と人間たちは、優斗の「いただきます」のかけ声とともにみんなで朝食を取り始めるのでした。

ねこ物件 猫がいるシェアハウス を読んだ読書感想

世間の荒波にさらされることもなく30代に突入して、大きなお屋敷で猫と遊びふけるお気楽な主人公の二星優斗。

ある日突然に財産が転がり込んできてシェアハウスのオーナーになってしまうとは、うらやましいご身分ですね。

法律家を志す生真面目な青年から売れない役者、アマチュアボクサーに海外からのお客さんまで。

個性的な面々との日々に戸惑いながらも、少しずつ心を開いていく姿には目を見張るものがあります。

単なる不動産屋さんにしてはやたらとプライベートにまで踏み込んでくる、広瀬有美のようなキャラクターも気になるでしょう。

中盤以降に明かされていく優斗の生い立ちには切なくなるものの、感動的な兄弟の再会が実現することを願うばかりです。

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