著者:中島さなえ 2010年8月に双葉社から出版
いちにち8ミリの。 の主要登場人物
阪本美澄(さかもとみすみ)
ヒロイン。絵を描くのが好きで美術教師になる。田舎暮らしに物足りなさがある。
壮太(そうた)
阪本家のペット。人語を解して無機物とも会話ができる。
阪本恭子(さかもときょうこ)
美澄の母。村おこしに熱心な公務員。
太田源信(おおたげんしん)
やり手の神主だが女癖が悪い。奇跡を起こすと豪語する。
柏谷周平(かしわたにしゅうへい)
全国紙の新聞記者。正義感が強く上層部からは疎まれている。
いちにち8ミリの。 の簡単なあらすじ
美澄が飼っている猿の壮太には不思議な力があって、柄内村で御神体としてまつられている石と意志疎通ができます。
この石を利用して神がかり演出で成り上がってきたのが太田源信、彼の悪事を明るみにして失脚させたのが新聞記者の柏谷周平です。
村が昔のような平穏な暮らしを取り戻した頃、美澄は壮太を置いてひとりで東京へと向かうのでした。
いちにち8ミリの。 の起承転結
【起】いちにち8ミリの。
のあらすじ①
日本列島のど真ん中にあるのが柄内村、ここのシンボルでもある西の丘のふもとに阪本一家が暮らす家が建っていました。
丘の北側を切り払って作られたのが願石神社、お堂に安置されている1メートルほどの岩石は「お石様」として有名でしたがある日突然に動き出します。
1日で8ミリ、1年で3メートルほどの距離ですがこの騒動を収めたのが神社の跡継ぎである太田源信。
毎年8月1日に開かれている催事でお石様の怒りを静め、お堂に封印したとして瞬く間に時の人です。
「お石さままつり」として全国からマスコミを呼び寄せつつ、村の13〜18歳の少女を巫女という名目で身の回りの世話をさせるほどやりたい放題に。
母親が観光農林課でイベント企画の運営をしている縁があって、高校2年生の美澄が源信から指名を受けます。
後ろから抱きかかえられた、キスを迫られた、女体盛りを要求された… 前々から悪いうわさが多く源信を信頼してなかった美澄は、飼い猿の壮太を移動ケージに入れて社務所へ向かいます。
ふたりっきりになった途端にケージの中で壮太が高い声を発するために、さすがの源信も手が出せません。
【承】いちにち8ミリの。
のあらすじ②
美澄が街にある美術大学への進学を決めたために、4年のあいだ壮太を散歩に連れ出すのは恭子の役割です。
家を出て少しぐるりと北側へ回って、丘の上にのぼって森を囲むように木の実を探して、西の広場で休憩してから森の中を抜けて神社へ。
いつものコースをたどっていましたが境内は観光客であふれかえっていたために、恭子とつないでいた手を離してしまいました。
取り残された壮太がヒンヤリとした祠の中で休んでいると、どこからともなくかすれた低い声が。
おそるおそるお石様に近づいてみると、3年前にここで美澄にひとめぼれをしてしまったことを打ち明けてきます。
彼女の家を臨むことができる丘の端を目指していること、1日8ミリしか前進できないこと、1年かけて進んでも定位置に戻されてしまうこと。
「ひとめぼれ」という点に関しては10年前に阪本親子に保護された壮太も同じでしたが、その気持ちを伝える術はありません。
大学を卒業してこの村唯一の中学校で臨時教員として採用された美澄は、東京産業新聞に勤めている柏谷周平と頻繁に会っているようです。
【転】いちにち8ミリの。
のあらすじ③
髪の毛はサラサラでおっとりとした顔つきの柏谷でしたが、かつては一面記事を担当していたエリートでした。
彼が政治担当から地方文化面へと左遷させられたのは、巨大油田開発に絡んだヤミ献金を取材していた時。
ルックスに似合わず妥協を許さない姿勢が、かえって編集局長の鼻についたのでしょう。
まもなく開催予定のお石さままつりを週末のPR紙に掲載するという柏谷でしたが、村役場の出納係とも熱心に話し込んでいます。
お祭りが近づくと駅前の民宿に滞在していた女性客の部屋に何者かが侵入する事件が発生していて、いつの間にかついたあだ名は「夜ばい入道」です。
今年は記念すべき10年目の本祭りに当たるために、絶対に無事に執り行わなければなりません。
柏谷と一緒に記者席で見物している美澄、恭子に連れられて実行委員のいるテントの中に座っている壮太。
カメラがずらりと並んで巨大なモニターまで設置された当日、みんなが息をつめて源信が来るのを待っていました。
【結】いちにち8ミリの。
のあらすじ④
先頭を歩くのは30人の祭りばやし、続いて10数人の新官、若さとかわいさだけで選ばれた巫女、最後方からは満面の笑みを浮かべた源信の姿が。
各局のアナウンサーが中継を開始する中、壮太はお堂の裏側に埋められていた巻き取り機のコードを一気に引きちぎりました。
機械が止まったためにお石様はピクリともしなくなり、一連の詐欺行為は全国ネットで生配信。
さらには村の運営資金を着服していたこと、夜ばい入道までもが源信の仕業であったことが柏谷の調査で判明します。
祭り自体がまがい物であることが暴露された柄内村、今後は過疎が進んで活気もなくなっていくでしょう。
勤め先の教員削減によって職を失った美澄に、文京区にある進学校を紹介してくれたのは柏谷です。
出発の朝に美澄が壮太を連れて向かった先は自宅を見下ろせる丘、ご利益がなくなった途端に野ざらしにされているお石様が。
美澄が丸みを帯びたおしりをのせた瞬間、石はほんのりと赤くなって数ミリ程度だけ前進するのでした。
いちにち8ミリの。 を読んだ読書感想
高い知能を秘めたペットモンキーの壮太、ほふく前進のごとく目的地にまっしぐらなお石様。
この1匹と1個から熱烈なアプローチを受けている阪本美澄が、都会からやって来た柏谷周平にゾッコンだというから恋心は複雑ですね。
お猿にありがたい石が話し掛けてくるというおとぎ話のような設定と並行して、さびれた過疎地域が突如として活性化する怪しげな祭典の秘密にも迫っていきます。
大げさなパフォーマンスでカリスマ神主を気取りつつ、裏では欲望のおもむくままに悪行に手を染めていく太田源信はまさに偽りのお祭り男と言えるでしょう。
そんな源信に正義の裁きがくだされる終盤にスカッとしつつも、取り残されていく村と壮太たちを思うとちょっぴり切ないです。
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