著者:東野圭吾 2019年7月に講談社から出版
希望の糸の主要登場人物
松宮修平(まつみやしゅうへい)
本作の主人公、警視庁に勤める刑事
加賀恭一郎(かがきょういちろう)
松宮のいとこで先輩刑事。他の加賀シリーズ作品では基本的に彼が主人公である。
花塚弥生(はなつかやよい)
今回の事件の被害者。自由が丘でカフェを経営しており、誰からも好かれる女性だった。
綿貫哲彦(わたぬきてつひこ)
弥生の元夫。現在は多由子という女性と暮らしている。
汐見行伸(しおみゆきのぶ)
かつて地震により二人の子どもを亡くした過去を持つ。その後娘の萌奈が生まれるが、近年妻も病気で亡くしている。
希望の糸 の簡単なあらすじ
自由が丘のカフェで起こった殺人事件。
被害者は誰からも好かれる人柄のよい女性で、容疑者がわからず捜査は難航します。
この事件の担当になった松宮は、こちらの事件の真相を探りながら、一方で彼の出生に関する意外な出来事に直面するのでした。
希望の糸 の起承転結
【起】希望の糸 のあらすじ①
警視庁に勤務する松宮修平は、自由が丘で起こったカフェの店主殺人事件の担当になります。
被害者の花塚弥生は50代の女性。
カフェの経営者であり金銭トラブルもなく、人柄も温厚で誰からも愛される女性だったため、なぜ殺されたのか、動機がわかりませんでした。
同時期に松宮は、金沢で旅館を営む女性、芳原亜矢子から不動産会社を通じて個人的に会いたい、という連絡をもらうようになります。
会いたいと言われる理由に全く身に覚えがないため、訝る松宮でしたが、従妹で警察の先輩でもある加賀恭一郎に相談したのち、芳原亜矢子と会うことを決めます。
事件の件では、被害者には離婚歴があり、別れた元夫と殺害される数日前に会っていたことがわかりました。
元夫である綿貫と、彼の現在の内縁の妻である多由子と会うために、松宮は彼らの住むマンションを訪れました。
しかし綿貫は、被害者の弥生とは世間話をしただけだと言い、事件に関する有益な手掛かりは得られませんでした。
【承】希望の糸 のあらすじ②
事件について被害者の近辺の聞き込みを続けていた松宮。
すると被害者の弥生は、最近ジムに通ったりエステに入会したりと、自分を磨くような行動をしていたことがわかります。
そこで松宮達は弥生に親密な関係になった男性が存在するのではないかと推理するのでした。
一方で、松宮は自分に会いたいと言ってきた女性、亜矢子と会うことになりました。
そこで彼は亜矢子から、余命いくばくもない自分の父親は、あなたの父親でもあるらしい、という驚きの事実を聞かされます。
ずっと自分の父親は幼い頃に亡くなった、と聞かされていた松宮は驚きますが、亜矢子の父が用意していた遺書の内容を知り、そこにはっきりと、亜矢子の父、真次と松宮の母の名前、そして松宮がその二人の子どもであることについて記載されており、また、松宮の母親がこの件について説明をしたがらないことなどから、この話は信ぴょう性のあるものだと感じるのでした。
その後、事件について動きがありました。
汐見という常連客が最近弥生の店に頻繁に通うようになったというのです。
彼が弥生の恋の相手であり、事件についての鍵を握っているのかもしれないと考えた松宮達は、汐見や彼の近辺に聞き込みをしに行きますが、彼は弥生に恋心は抱いていたが、交際するような親しい関係ではなかったと言われ、それ以上の関わりは見つけられなかったのでした。
【転】希望の糸 のあらすじ③
事件についての状況を松宮から聞いていた加賀は、弥生の元夫、綿貫が弥生の死後処理を一手に引き受けたという話を耳にします。
いくら縁のあった相手とは言えそこまでするだろうかと、綿貫の行動に引っ掛かりを感じた加賀は、もう一度綿貫の家を訪問し、内縁の妻、多由子と話すことにします。
綿貫の最近の行動に疑念を感じていること、それについて妻としてどう感じるかを多由子に問いかけているうち、多由子は驚きの供述を始めるのでした。
一方で、汐見の周辺を調べていた松宮は、汐見の娘である萌奈の学校を訪れ、彼女と話をします。
そこで、なぜか萌奈の部活中に、弥生が練習を遠巻きに見に来ていたということがわかるのでした。
加賀の聞き込み中に突然自分が殺したとの自供を始めた多由子。
綿貫が元妻の弥生の元に戻ってしまうかもしれない、そう恐れる気持ちから犯行に至ったと動機を語ります。
弥生の店に行き、話している最中に衝動的に刺したという内容で、事件を裏付ける事実もあり、信用できる証言でしたが、何か引っ掛かる、この事件にはまだ裏がある・・・そう松宮は感じるのでした。
【結】希望の糸 のあらすじ④
汐見は、娘の萌奈を妊娠するまで彼の亡くなった妻が不妊治療をしていたという過去がありました。
そして彼の妻は体外受精で萌奈を授かりますが、通院していたクリニックの院長から、受精卵の取り違えが起きたかもしれないという告白をされてしまいます。
そして彼女が通っていたクリニックに、綿貫と結婚していたころの弥生も通っていました。
彼女は妊娠に至らず子どもを諦めていたのですが、実は取り違えで汐見のもとに着床された受精卵は弥生のものでした。
クリニックからその事実を聞き出した後、妻が亡くなった後、娘との関係がうまくいかなくなった汐見は、萌奈の心を開く手立てになればと、萌奈と本当の母親である弥生を引き合わせようという計画を立てていたのでした。
弥生は、実の娘に会うのに恥ずかしくないような姿になるために自分磨きをしていた。
綿貫は、自分たちの子どもが自分の知らないところで育っていたらしい、そのことを弥生から聞かされており、その詳細を調べるために弥生の死後処理を引き受けていた。
その事実を知った松宮は、親にとって離れていても血を分けた子ども存在がいかに大きいかを感じ、自分の存在をずっと明かさなかったのにも関わらず、死の直前に遺書に書いて遺産を分けたいとの意思を示した自分の父親のもとへ会いに行くのでした。
希望の糸 を読んだ読書感想
近年増え続けている不妊治療法である体外受精。
不妊に悩む多くの夫婦を救っている反面、この作品で描かれたように卵子の取り違えが起きかねないというデメリットもあります。
今まで赤ちゃんの取り違えは何度か映画などで取り扱われてきましたが、受精卵の取り違えというのは今の時代ならではで新しい切り口だと思いました。
そして自分の子どもが自分の知らないところで存在しているかもしれないということにがわかった時に、親にとってその事実がどれだけ思いか、どれだけその子に執着してしまうかというのも考えさせられる点だと思います。
被害者の弥生はそれに振り回され殺されてしまう事態になったという見方もできるので、知らない方が良かったのかもしれないとも思いました。
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