著者:三国美千子 2021年6月に新潮社から出版
骨を撫でるの主要登場人物
倉木ふき子(くらきふきこ)
ヒロイン。短大学保育の資格を取得しているがブランクがある。常に楽な方を選んで流されてきた。
倉木敏子(くらきとしこ)
ふき子の母。元来がそそっかしくこの頃では物忘れが多い。
倉木善造(くらきよしぞう)
ふき子の父。裕福な地主だが農作業に汗を流す。
倉木明夫(くらきあきお)
ふき子の弟。高校時代から不良で金遣いが荒い。
田中めぐみ(たなかめぐみ)
ふき子の同僚。生活力のない兄を養うために働き詰め。
骨を撫でる の簡単なあらすじ
就職にも結婚にも妥協した人生を送ってきた倉木ふき子、久しぶりに実家に帰ってみると年老いた両親がそれぞれがやっかいな病気を抱えています。
さらには弟の明夫が一家の財産を流用していることに気がつきますが、先手を打ったのは母・敏子です。
すべてをウヤムヤにして丸く収めるために、入院先を脱走して騒ぎを起こすのでした。
骨を撫でる の起承転結
【起】骨を撫でる のあらすじ①
大阪から急行で2時間程度の羽日ヶ丘に短期大学ができると、倉木ふき子は母親の敏子のアドバイスのままに進路を決定しました。
2年間で幼児教育を修了した際に四年制に編入して教員免許を取ろうかと迷いましたが、父親の善造からお見合いを勧められます。
倉木家に養子として迎え入れたのは役所の堅い部署に勤めているという守、新居を近所に建ててもらったために共働きの必要はありません。
娘の日南子を授かってからは専業主婦を続けていて、ようやく職場復帰をしたのは間もなく50歳を迎える春先のことです。
公立保育園のパートタイムで2時間ほどの勤務、待機児童が多いのか形だけの面接ですぐに採用されました。
園長、正職員、臨時職員、非常勤職員、保険の先生、給食さん… 同じ園の中でも立場は込み入っていて、ヒエラルキーの末端にいるふき子は何かにつけて時間外の雑用を押し付けられていました。
やけに右手の指先がうずくために医者に見せると、人差し指の間接の骨が変形するヘバーデン結節と診断されます。
【承】骨を撫でる のあらすじ②
長男の明夫が結婚すると善造たちは息子夫婦と夕食をともにするようになったために、ふき子は実家のやっかい事を見て見ぬふりをするようになりました。
その明夫から電話がかかってきたのは真夏の日差しが照り付ける8月、つい先日にも敏子が鍋を火にかけたまま近所に出掛けてしまい危うく火事になるところです。
その敏子が再生不良性貧血を発症、骨の中の血液を造る組織が弱っていく病気で明日にも入院しなければなりません。
さすがのふき子も知らん顔はできなくなり、保育園の早番が終わると昼までには無菌室に入った敏子の様子を見に行きます。
一度も台所に立ったことのない父のために、食事の支度と洗い物をこなして自分の家に帰る頃にはすでに夕暮れ時に。
70歳をこえても日中は畑に出ている善造も、このところは直射日光を浴びる度に目をしょぼしょぼとさせていました。
ふき子の指の骨の痛みは少しずつ悪化していきますが、仕事が忙しい守も大学生になった日南子も家事に協力してくれません。
善造たちの住む本家とふき子夫婦の分家、両方にがたがくるのは時間の問題でしょう。
【転】骨を撫でる のあらすじ③
本家の北側には古びた家屋が密集していて、その中の1軒で田中めぐみは無職の兄と一緒に暮らしていました。
昼はふき子と同じ保育園、夜は倉木家の所有地で営業しているスナック「りいべ。」
今月の駐車場代をふき子が集金にいくと、ママに代わってめぐみがカウンターから出てきます。
じゃらじゃらとした音を聞きながら玉を打っていると嫌なことを忘れられるというめぐみは、先日にパチンコ店で明夫に5000円を貸したそうです。
1度ならず2度もギャンブルで多額の借金を作った明夫、新婚時代から月々8万円の援助を受けていますが田植えも収穫も手伝っていません。
病室にはお見舞いと称して顔を出しているようでしたが、本当の目的は母親の財布から1000円札を何枚か抜き取ることです。
どこの家にも汚点となる人間はいるもので、敏子のようにお人よしで優しい人ばかりが割を食わされています。
ふき子としては1円も貸すつもりはありませんが、この狭い村では親きょうだいの縁までは切ることができません。
【結】骨を撫でる のあらすじ④
善造が母屋のタンスに隠している現金を調べてみる気になったのは、白内障と診断されて来月にまとまった手術費用が必要だったからです。
指をなめながら1枚1枚紙幣を数えていきますが170万円ほど、本来の1000万円には到底足りません。
軽自動車に飛び乗ったふき子が明夫のもとに駆け付けると、携帯電話には敏子の主治医からの着信が。
当直医と看護師たちが気が付かないあいだに、荷物をまとめて裏口から出ていってしまったそうです。
ふたりで敷地内を探し回っていると、フェンスをこえた下り道の先にあるゴルフ場ですぐに敏子は見つかります。
指をヒョイヒョイと明夫の方に向かって動かしているのは、悪事は何もかもうまく隠してあげるという合図でしょう。
さすがに疲れて動けない様子の敏子は明夫が背負って運ぶことになり、タクシーを待っているあいだに眠りこけてしまいます。
節くれだって曲がった指のことも気にならなくなったふき子は、そっと母の背骨をなでてあげるのでした。
骨を撫でる を読んだ読書感想
生まれ育ったのは大きなお屋敷、婿養子を迎えて「分家」を名乗る主人公の倉木ふき子は時代が時代ならお姫さまだったでしょう。
働き者の父・善造とは似ても似つかない一族の異端児、明夫の登場から何やら不吉なムードが漂い始めていきます。
母娘が同時期に「骨」の持病を抱えているのも運命的ですね。
自らを傍観者という立場に位置付けているふき子でさえも、土地や血縁に縛られて動けないのが皮肉です。
体を張った敏子の大芝居によってひとまずは一件落着と見るべきなのか、さらなる波乱の幕開けなのかは読者が想像力を働かせるしかありません。
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