著者:遠野遥 2020年7月に河出書房新社から出版
破局の主要登場人物
陽介(ようすけ)
私立大学法学部四年生。公務員志望。筋トレを欠かさない。作中では〈私〉として語っている。
佐々木(ささき)
陽介の出身高校のラグビー部顧問。陽介の親ぐらいの年齢。
膝(ひざ)
陽介と同じ大学の文学部四年生。お笑い系のサークル所属。
灯(あかり)
陽介と同じ大学の商学部一年生。
麻衣子(まいこ)
陽介と同じ大学の四年生。政治塾に通う。
破局 の簡単なあらすじ
〈私〉は筋トレにはげみつつ、公務員試験をめざす大学四年生です。
母校のラグビー部からコーチ役を請われ、後輩たちをしごきます。
恋人はいますが、新しい候補がみつかり、別れます。
新しく付き合い始めた女子とも、セックスにはげみます。
〈私〉はセックスが大好きなのです。
そんな〈私〉に、やがて破局がおとずれます……。
破局 の起承転結
【起】破局 のあらすじ①
〈私〉は筋トレにはげむ大学四年生の男子です。
このたび、出身高校のラグビー部のコーチ役に任ぜられました。
練習に立ち会ってみると、みな、きびしい指導が必要なことがわかります。
練習後、顧問の佐々木先生のお宅で、肉をごちそうになりながら、〈私〉がラグビー部に入った頃のことなどを話題にします。
佐々木先生が顧問になってから、ラグビー部は強くなりました。
〈私〉は先生の期待に応えて、コーチ役をがんばろうと思います。
さて、ある朝、同学年の友人、膝から電話がかかってきました。
お笑いサークルで漫談をやっている彼は、今日のライブで引退するので、見に来てほしい、と言います。
〈私〉は教養課程で使うキャンパスの、ライブを行う講義室へ行きました。
すでにかなり客が入っており、〈私〉は左右を女子にはさまれた席にすわりました。
膝のひとつ前の出演者がお笑いをやっているときに、隣の女子が気分が悪そうなので、外へ連れ出し、介抱してやりました。
女子は灯といい、カフェラテを飲んで気分が悪くなったようです。
しばらくして、ライブを終えた膝が出てきました。
灯相手に、いつものわけのわからぬ話を一方的に投げかけ、去っていきます。
〈私〉は、灯とカフェに移っておしゃべりして、さらに親しくなったのでした。
【承】破局 のあらすじ②
〈私〉には麻衣子という恋人がいます。
同じ大学生で、将来政治家になりたくて、政治塾に通い、ときどき議員の手伝いをしています。
麻衣子の誕生日のお祝いに、〈私〉は分不相応な高級ホテルとそのレストランを予約しました。
麻衣子は直接非難しないものの、バースデーケーキが口に合わず、部屋も好みではない様子でした。
〈私〉がセックスしようとすると、麻衣子は生理を理由に断って、シャワーを浴びます。
灯から届いたメッセージを読んだ〈私〉は、彼女の白い脚を思いうかべながら自慰しました。
後日、〈私〉は麻衣子と別れ、灯と付きあうようになりました。
週に数回互いの部屋に泊まってセックスします。
さて、母校でのラグビーのコーチとして、〈私〉はかなりハードなことを要求しました。
部員たちはへとへとになります。
顧問の佐々木先生に、大会を目指してびしびしとやるように進言しようと思います。
しかし、佐々木先生の家で、股焼き肉をごちそうになりながらビールを飲んでいるうちに、なんとなくうやむやにされたのでした。
ある夜、別れた麻衣子が終電を逃したと言って、やってきました。
議員に迫られて逃げてきたのです。
〈私〉は、いまは灯と付きあっているので拒否します。
しかし、麻衣子は上手に〈私〉を言いくるめて、上がりこんできます。
そして、女性上位でセックスしたあげく、自分のなかに出させないまま、出ていったのでした。
【転】破局 のあらすじ③
〈私〉は公務員試験の筆記試験に合格しました。
高校の部活時代の先輩が、お祝いにビールをおごってくれました。
彼はいま職員として病院で働いていて、〈私〉が最終合格したら、病院を希望するように、と誘ってきます。
先輩と別れると、麻衣子から電話が来ました。
試験結果を訊かれたので、合格と答えます。
麻衣子はお祝いにカフェでケーキをおごってくれました。
ケーキを食べながら、麻衣子は幼い頃の体験を話します。
小学校低学年のとき、知らない男が家に上がりこみ、逃げるとしつこく追いかけてきて、とても怖かったそうです。
その後、その日のことを何度も夢に見ると言います。
さて、その後面接試験まで終えた〈私〉は、灯を誘って、北海道を旅行しました。
面接試験では手ごたえを感じており、〈私〉はすでに就職活動を終えた気分です。
公園で童心に帰って滑り台で遊んだあと、ホテルに向かいました。
バスのなかで、灯がこっそりと手をのばして、〈私〉の性器を撫でます。
このごろ灯は、こうして外で〈私〉の性器に触れることが増えました。
ホテルに入った〈私〉たちは一度も外へ出ず、セックスにふけります。
夜、灯が裸で椅子に座り、ゾンビ映画に見入っていました。
灯は日に日に性欲が高まっていく自分を、怖いと感じているのでした。
【結】破局 のあらすじ④
〈私〉は母校のラグビー部で、相当にハードな練習をさせました。
さらに練習を続けようとしたのを、佐々木先生が止めます。
〈私〉は佐々木先生に不満を持ち、彼をにらみつけます。
練習後、佐々木先生はいつものようには家に招待せず、昼食代として二千円くれただけでした。
近くのファーストフード店に入ると、たまたま店内にいたラグビー部の部員が、〈私〉の悪口を言っています。
〈私〉は食欲をなくし、ムカつきながら外へ出たのでした。
一方、灯の性欲はどんどん強くなっていき、もう〈私〉は彼女を満足させられないところまできていました。
そんなある日、もっとセックスを続けたいという灯を、無理に外へ連れ出して、軽食をとりました。
その席で、灯は、先日麻衣子に偶然会ったことを打ち明けます。
以前、終電を逃した麻衣子が〈私〉の部屋に来たことも、聞いたそうです。
灯は性欲が高まって、もはや〈私〉以外の男とでもしたいのを我慢している、と言います。
なのに〈私〉は麻衣子とした、というのが許せないのでした。
逃げる灯を追いかけると、マッチョな通行人に止められました。
〈私〉は彼を殴りつけ、倒します。
警官が来て、〈私〉を取り押さえます。
仰向けに倒れた〈私〉は、雲ひとつない青空を見あげ、もっとよくこの空を見るべきだった、と思うのでした。
破局 を読んだ読書感想
第163回芥川賞受賞作です。
読んで感じるのは、主人公の男性のヘンテコさです。
いわゆるムキムキマッチョでセックスが大好き、なのですが、やたら礼儀正しい。
女と見たらヨダレをたらして襲いかかる、というタイプではありません。
まるでロボットのように礼儀を守ってセックスにはげむのです。
そういう彼と恋人関係になるふたりの女性も、ちょっと怖いです。
麻衣子はいわゆる高嶺の花タイプの女性ですが、別れたあと、主人公とよりを戻そうというのでもなく、部屋を訪れます。
もうひとりの恋人の灯は、これはもうセックス依存症と言うべき女性で、最初の主人公へのアプローチのしかたも、かなり計算高い。
これも、個人的には敬遠したくなるような女性ですね。
で、作品を読み終わってみると、なんともうすら寒くなるような、得体の知れない不気味さが、心のなかに残るのでした。
これが、現代を描いている、ということなのかもしれません。
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