著者:櫛木理宇 2019年5月に新潮文庫から出版
少女葬の主要登場人物
伊沢綾希(いざわあやき)
本作の主人公。高校1年生で家出少女となり、「シェアハウス・グリーンヴィラ」で暮らしている。
関井眞実(せきいまみ)
綾希と同じシェアハウスで暮らす少女。人懐っこく明るい。
宇田川海里(うたがわかいり)
「グリーンヴィラ」のオーナーの知人。綾希・眞実と同年代の少女で、様々な「ビジネス」をしている。
長谷川季枝(はせがわきえ)
シェアハウス近所のカフェ「LA STRADA」の店長。
長谷川陸(はせがわりく)
季枝の息子。カフェ「LA STRADA」で働いている。
少女葬 の簡単なあらすじ
ある家出少女が壮絶なリンチの末に殺害され、その死体画像はインターネット上で「グロ画像」として拡散されました。
そして、あるアパートではその画像を見つめる元・家出少女の姿が。
彼女たちはかつてシェアハウスの同室で生活を共にしていた友人同士でした。
劣悪な環境のシェアハウスで出会い、友情を育んだ彼女たちは、些細なきっかけによって大きく違った運命を辿ってしまうのでした。
少女葬 の起承転結
【起】少女葬 のあらすじ①
あるアパートの一室で、スマートフォンを握る元・家出少女がいました。
そしてスマートフォンの画面にはかつて彼女と生活を共にしていたもう一人の家出少女の姿が表示されています。
しかしその画像は笑顔の写真などではなく、酷いリンチの末、亡くなったあとの遺体の写真でした。
彼女たちは、「シェアハウス・グリーンヴィラ」で出会った元ルームメイトでした。
かつて彼女たちがシェアハウス・グリーンヴィラ(以降、ヴィラ)で暮らしていた頃、家出少女のうち一人、伊沢綾希は共用スペースで週刊誌に目を落としていました。
その週刊誌はゴミ箱に捨てられていたものでした。
ヴィラは所謂ホームレス寸前の貧困者ばかりで、金銭感覚が狂っている者が多く住んでいました。
そのため、ゴミ箱には彼らがコンビニでビールや弁当と一緒に買ってきた週刊誌等雑誌が無造作に捨てられていたのです。
家出少女となる前は優等生であった綾希は、ただでさえ娯楽のないシェアハウスで活字に飢え、それらを拾い読んでいたのです。
ヴィラの中には週刊誌をほぼ読まずに捨てる者だけでなく、「週刊誌に載っている凄惨な事件は俺の地元で起こったこと」と、綾希の前で見栄を張り、まるで武勇伝のように語る小泉淳平のような者もいました。
ヴィラは衛生環境も人的環境も劣悪なシェアハウスでした。
そんな中、週刊誌のページをめくる綾希にひとりの少女が話しかけます。
少女は「ここ、いい?」と言って綾希の対面の椅子を引き、深いえくぼを作って微笑みました。
そして、元々別の部屋で暮らしていたが、今日から綾希と同じ203号室で生活をすること、自分の名前が関井眞実ということを話しました。
203号室に移ってきた眞実はあっという間に綾希、そして他の同室の住人と打ち解けます。
眞実は人懐っこく明るい少女でした。
【承】少女葬 のあらすじ②
綾希と眞実の仲が深まったある日、ふたりはヴィラのリビングで履歴書にペンを走らせていました。
眞実の提案で、就職活動をすることになったのです。
しかし、親元を離れ高校にも通っていない、未成年のふたりはことごとく断られてしまうのでした。
ヴィラへの帰り道、ティッシュ配りの男性からふたりはたくさんのポケットティッシュを受け取ります。
そして綾希は「実家は1日3枚までしか使えなかった」と、身の上話をはじめます。
綾希の父は、綾希と綾希の母を言いなりにする所謂モラハラ男でした。
綾希が小さな頃から、怒ると「それはおれの金で買ったもんだ」「服も靴も全部返せ。
素っ裸になっていますぐ出ていけ!」などと怒鳴る人物だったのでした。
そして母もまた、綾希を守ることはなく、綾希の影に隠れるような人物でした。
綾希は厳しい家庭から逃げ、ヴィラにたどり着いたのです。
そんな綾希の告白に、眞実は底抜けに明るく「綾希ちゃんのパパ、超ケチだね!」と笑って見せるのでした。
ふたりが帰ると、ヴィラの中には奇妙な空気が漂っていました。
未成年の家出少年である淳平に目をつけていた警察がシェアハウスの中に押し入ってきたというのです。
ふたりが帰る前に警察はヴィラを去っていましたが、その代わりにリビングには見慣れない少女がいました。
それは「ヴィラ」のオーナーの知り合いを名乗る宇田川海里でした。
海里は日焼けをし、金茶のロングヘアーの美人でした。
眞実は海里にもまた人懐っこく話しかけます。
海里は悠然とした笑みを浮かべその話を聞いていました。
そして、また警察がうるさければ連絡を寄越すよう言い残し、エルメスのバッグを肩にかけ去っていくのでした。
【転】少女葬 のあらすじ③
ある日綾希がハローワークに向かっていると声をかけられました。
それは以前ヴィラに押し入った警察官でした。
警察官は綾希に対して見下すような言葉をかけながら肩に手伸ばします。
警察官に指導され、厳しい父のいる実家に戻されることを恐れた綾希は咄嗟に走って逃げ、せまい小路でわずかに扉が開いていた店に逃げ込みます。
そこはカフェ「LA STRADA」でした。
店主の女性・長谷川季枝は、「一杯だけ」と綾希にコーヒーを差し出しました。
それは顔色を真っ青にして駆け込んできた綾希を心配しての行動でした。
その日以降季枝は綾希に本を貸したり、息子である陸にヴィラの近くまで送らせたりと、綾希を気にかけるようになりました。
眞実は海里と出会ってから変わっていきました。
彼女は海里と連絡を交換してから1日の大半を液晶画面と向き合って連絡をとるようになりました。
そして眞実は海里から亮という見た目のよい男を紹介され、付き合うことになりました。
ブランドものや流行りの化粧、モデルのような男の子。
眞実は海里によって引き合わせられたきらびやかな世界にのめりこんでいきました。
しかし、それは海里が売春の斡旋やぼったくりイベントなど、違法行為をしていることによって作られた世界でした。
そんなことを知りもしない眞実は海里のマンションに入り浸り、段々とヴィラに帰ってはこなくなりました。
綾希が「LA STRADA」で1日の大半を過ごすようになった頃、眞実が久しぶりにヴィラに帰ってきました。
綾希は眞実を心配する言葉をかけましたが、海里にすっかり入れ込んでいる眞実にそれはやっかみとして届きました。
そして綾希が翌朝起きると、眞実の姿はありませんでした。
【結】少女葬 のあらすじ④
やがて綾希と陸の仲は縮まり、交際することになりました。
しかしそれを良く思わない人物がいました。
それは綾希に好意を寄せていた淳平でした。
綾希が一人で帰路についていた日、淳平は綾希を呼び止め、腕を掴み連れ去ろうとします。
綾希は振り払い、逃げることに成功します。
そしてヴィラから出て、季枝の協力のもとアパートで一人暮らしを始めました。
綾希が荷物をまとめていると眞実が帰ってきます。
そして、荷物の中にある、陸のお下がりのパーカーを見ると「彼氏いるんだ」と咎めるような口調で言いました。
綾希が「眞実だって彼氏いるでしょう」と言うと、眞実は沈黙ののち、「うん。
うまくいっているよ」と言いました。
これが二人の最後の会話でした。
本当はうまくいってはいませんでした。
心優しいが貧しい思いをしてきた眞実は違法行為をし金払いの良い海里たちに馴染むことはできていませんでした。
また亮は暴力をふるうこともあり、眞実の心身はボロボロでした。
ある日眞実が海里のマンションに帰ると、眞実の金品が無くなっていました。
亮がすべて持ち去っていたのでした。
そしてリビングには海里がいました。
海里はあることないこと言いがかりをつけ、眞実を罵倒します。
そして「あんたの一番の親友って、誰?」と聞かれた眞実は、海里ではない少女の名前を口にしました。
時を同じくして綾希のアパートには、陸が訪れていました。
この日は綾希の誕生日で、二人でささやかなパーティをすることになっていました。
小さなケーキと烏龍茶で乾杯をし、やがてふたりは初めて体を重ねるのでした。
その時眞実は河川敷にいました。
海里の怒りを買った眞実は海里の仲間たちから酷く暴行を受けていたのでした。
そして数時間に渡るリンチの末、命を落としました。
その後、眞実の遺体の画像は海里の仲間内で共有されたのち、インターネット上に拡散されました。
冒頭で画像を眺めていた元・家出少女は綾希だったのです。
少女葬 を読んだ読書感想
貧困、母子家庭、毒親など現代社会にはびこる問題と、そんな問題に翻弄された少女たちの姿をとても鋭く描かれています。
家出少女という同じ境遇でありながらも、些細な選択の違いから全く異なった運命を歩むことになる彼女たちの姿は、もどかしく胸に響きました。
本作は酷い暴力描写がありますが、貧しい環境下で懸命に生き友情を育む少女たちの姿も描かれており、青春小説的な側面もある作品だと思います。
そして綾希と眞実だけでなく、違法なビジネスに手を染めなければ生きられなかった海里たちもまた、社会問題に苦しめられた被害者なのではないでしょうか。
物語としてとても面白いだけでなく、社会問題についても深く考えさせられる一冊です。
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