「蒲団」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|田山花袋

「蒲団」

著者:田山花袋 1952年3月15日発行に新潮社から出版

蒲団の主要登場人物

竹中時雄(たけなかときお)
主人公。妻と三人の子を持つ小説家。新婚の熱も冷めていた時芳子と出会い、恋をする。

横山芳子()
小説家志望の美しい女学生。時雄に弟子入りを申し込み、神戸から上京した。奔放でハイカラな性格。

田中秀夫(たなかひでお)
同志社の学生。横山芳子の恋人で、芳子を追って京都から上京する。

細君(さいくん)
時雄の妻。子供が三人いる。従順で古風な女性。

姉(あね)
細君の姉。未亡人。芳子の下宿先。

蒲団 の簡単なあらすじ

妻子がいる身でありながら、小説家・竹中時雄は恋に落ちました。

相手は横山芳子。

小説家を志望して神戸から上京し、時雄に弟子入りした女学生です。

古風な妻とは正反対に、ハイカラで自分の仕事にも理解がある芳子に、時雄は夢中になります。

しかし、世間体があるため想いを伝える事も叶いません。

時雄は煩悶とした日々を送ります。

そんな中、芳子に田中秀夫という恋人ができました。

時雄は師匠として芳子の恋を応援しつつも、彼女を監視するため、自宅に住まわせました。

芳子は時雄に、秀夫とは清い関係である事、将来のためにお互い勉学に励むつもりだと説明していました。

しかし、二人が東京で一緒に住む計画を立てている事を知り、時雄は激怒します。

時雄は芳子の父に事の次第を報告し、芳子を神戸へ返しました。

時雄は芳子が使っていた蒲団に顔を埋め、懐かしい匂いを嗅ぎながら、失恋のショックに泣きました。

蒲団 の起承転結

【起】蒲団 のあらすじ①

芳子との出会い

小説家・竹中時雄はマンネリ化した日々に飽きていました。

妻とは三人の子供を設けていましたが、新婚時代の熱は最早ありません。

妻は従順で貞淑でしたが、子育てが第一で、時雄の仕事に興味を持っていません。

時雄は新しい恋に飢え、道行く美女との恋を妄想しては、心を慰める日々を過ごしていました。

そんな中、時雄の元に弟子入り志望の手紙が届きます。

差出人は神戸の女学生でした。

女ながら、小説家になる夢・文学への情熱を語る芳子の情熱を受け、時雄は芳子の弟子入りを認めました。

上京してきた芳子は、時雄の予想に反して美しい女性でした。

容姿は勿論、立ち居振舞いも華やかで、考え方もハイカラです。

その上、師匠として自分を慕ってくれる芳子に、時雄は夢中になりました。

始めは時雄の家に住まわせていましたが、若く美しい女性との同居に、妻側の親戚が難色を示しました。

芳子は下宿先を妻の姉宅へ移し、そこから女塾に通う事となりました。

芳子は優秀で、文学の勉強に励みながらも、次々と作品を生み出していきました。

手紙も沢山書く芳子は男友達も多く、夜遅くまで男と遊び歩くなど奔放な面もありました。

そういう面も、時雄にとってはハイカラで好ましいと思えました。

感情表現豊かで、時に思わせぶりな態度をとる芳子に、時雄はどんどん恋心を募らせていきました。

時雄と芳子の、単なる師弟の間柄というには親密すぎる関係に、その仲を疑って妻に忠告する者も現れる有様でした。

【承】蒲団 のあらすじ②

芳子の恋人

時雄は芳子の気持ちもわからないまま、その言動に揺さぶられ、久方振りの恋を楽しんでいました。

しかし、事件が起きます。

芳子に恋人ができたのです。

病気のため一度神戸に戻った際に、同志社の学生・田中秀夫と出会い、恋に落ちたのでした。

芳子は時雄に、秀夫とは清い交際である事、将来を真剣に考えている事を訴えます。

そして、時雄に師匠として、秀夫との仲を取り持ってほしいと懇願しました。

時雄は胸に恋慕の情を抱いたまま、芳子の恋を応援せざるを得なくなりました。

時雄は苦悩します。

愛する者を奪われた苦しみ、妬み、後悔、師匠としての正しい振舞い、愛する者を幸せにするための自己犠牲。

恋でも文筆業でも、奥手であるかゆえに、いつもチャンスを逃してしまう損な性格。

時雄は仕事すら手に付かなくなり、気を紛らわせるために酒に溺れました。

三日間時雄は悩み抜き、愛する芳子の幸せのために尽力する決心をします。

そんな中、時雄は芳子の手紙で、秀夫が芳子の後を追って上京した事を知りました。

芳子は重ねて不純な関係ではないと主張しましたが、時雄は芳子を監視するために、自宅の二階に引っ越しさせる事にしました。

遅くまで遊び歩く事に抵抗がない芳子の事です。

今まで通り、芳子を自由にさせてしまったら、宿住まいの秀夫と関係を持ってしまうかもしれません。

時雄は芳子と秀夫の仲を案じてみせつつ、今は勉学に励む方がいいと芳子に言い聞かせました。

芳子も時雄に同意し、将来は親の許しを得て秀夫と結婚したいと夢を語ります。

既に秀夫の婚約者気取りである芳子の事を、時雄は苦々しく思うのでした。

【転】蒲団 のあらすじ③

秀夫の上京

時雄は満足していました。

自宅二階に芳子が住んでいて、呼べばすぐに来てくれます。

美しい笑顔も見れて、食事も共にし、夜は色々な話をする事ができます。

秀夫も京都に帰り、東京にはいません。

時雄と芳子の仲を訝しんでいた妻も、芳子に恋人ができたがために安心しています。

時雄は芳子を占領できる事を喜びました。

そして、文学の話、小説の話、恋の話をしながら、芳子に将来についての注意をし続けました。

芳子は時雄を師匠として信頼し、将来秀夫と結婚する時に一悶着が起きても、時雄の承認さえ得られれば沢山だとさえ思っていました。

芳子は秀夫は離れ離れになってしまいましたが、二人の恋が冷める事はありませんでした。

芳子は小説を読む度に秀夫を想い、共に過ごした日々を思い出し、頻繁に文通を交わしました。

時雄は芳子の留守を狙って部屋を漁り、秀夫からの手紙の内容を盗み見していました。

二人が不埒な関係になってはいないかと、確認せずにはいられなかったのです。

ある時、時雄は芳子宛の葉書を受け取りました。

英語の葉書には、秀夫が上京して東京で生計を立てるつもりである事が書かれていました。

早速、時雄は芳子に問い質します。

芳子は何度も止めたと言いつつ、秀夫が東京で小説家になろうとしているようだ、と答えました。

時雄は怒りました。

小説で身を立てようなど無謀だ、芳子の面倒も見られなくなると言いましたが、どうしようもありません。

秀夫は既に京都を出発した後でした。

【結】蒲団 のあらすじ④

恋の残り香

秀夫が上京してきました。

東京で自活していくという秀夫の決意は固く、京都に帰るつもりはないようです。

上京の件で喧嘩もしたと、芳子は話します。

時雄は思い悩みました。

芳子と秀夫の恋を応援しようと思ったり、いっそ全てを芳子の両親に報告して破談にさせようか、とも思いました。

時雄は思い切って、秀夫を訪ねました。

そして、芳子の両親に報告をして交際の許可を得るか、芳子を帰郷させるべきだと話しました。

しかし、秀夫は煮え切らない態度で、容量の得ない会話を繰り返すばかりです。

時雄には、秀夫が優れた人物だとは思えませんでした。

どうして芳子が、多くの男たちの中から秀夫を選んだのか、理解ができませんでした。

次の日、芳子は時雄に頭を下げて懇願しました。

秀夫の件を両親に話せば、きっと破談にされてしまうから、しばらく様子を見てほしいと言うのです。

不純な仲ではない、清い交際をしているのだと誓う芳子を、時雄は信じ、二人を見守る事にしました。

それでも嫉妬心は抑え切れません。

秀夫と逢瀬を重ねる芳子を見て、再び酒に溺れるようになりました。

遂に時雄は、芳子の両親に二人の交際を報告してしまいました。

両親の許可を得られぬまま、困窮する秀夫を支えて二人で暮らすため、芳子は働くつもりでしたが、結局両親に連れられて神戸に帰っていきました。

芳子がいなくなり、再び寂しい生活が訪れました。

そのままにしていた芳子の部屋には、芳子の残り香を纏う品々が残されていました。

時雄は愛した女の懐かしい香りを嗅ぎ、蒲団に顔を埋めて泣きました。

蒲団 を読んだ読書感想

片思いした女性の蒲団の匂いを嗅ぐ、という衝撃的なラストはご存知の方も多いのではないでしょうか。

女弟子に対する背徳的で情熱的な恋心を語る本作は、田山花袋自身の実体験が元になっています。

当時、友人である島崎藤村らが作家としての地位を確立していく中、花袋は中々芽が出ず、取り残される焦りを感じていました。

そのような中で執筆されたのが本作です。

それを踏まえると、恋も文学も社会でも上手くいかないと悩み、秀才と噂に聞く男が小説家を目指すと聞いて、上手くいくはずがないと怒る時雄の気持ちもわかる気がします。

上手くいかない焦り、理解されないという孤独感。

そんな自分を認め慕ってくれる人物に、心癒され惹かれていく気持ちは共感しかありません。

そうして愛した女性の言動に一喜一憂し、苦悩しながらも女性の幸せを願い、それでも嫉妬は隠す事ができず、それさえも苦悩の種になってしまう。

曝け出された感情は人間味に溢れ、実体験ならではの現実感が実に魅力的に思えます。

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