「メガネと放蕩娘」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|山内マリコ

メガネと放蕩娘 山内マリコ

著者:山内マリコ 2017年11月に文藝春秋から出版

メガネと放蕩娘の主要登場人物

内田貴子(うちだたかこ)
ヒロイン。家業を継がず安定した公務員を選ぶ。眼鏡をかけていて地味なルックス。

内田ショーコ(うちだしょーこ)
貴子の妹。放浪癖があり定職に就いていない。いくつになってもギャル系のファッションを好む。

原まゆみ(はらまゆみ)
フィールドワークに力を入れる社会学部の講師。年齢は不詳だが美人。

片桐努(かたぎりつとむ)
まゆみの教え子。外見はひょろひょろだが中身は打たれ強い。

片桐聡(かたぎりさとし)
努の兄。お堅い警察官で恋愛には奥手。

メガネと放蕩娘 の簡単なあらすじ

市役所職員をしている内田貴子が中心市街地商店街を盛り上げるために、手を組んだのは大学講師の原まゆみです。

出奔していた妹のショーコも戻ってきて、シングルマザーとして頑張りながら自分の趣味を仕事に変えていきます。

結婚が決まった貴子は婚約者の都合で生活の拠点を海外に置きますが、数年後にすっかり様変わりをした商店街を訪れるのでした。

メガネと放蕩娘 の起承転結

【起】メガネと放蕩娘 のあらすじ①

地域の要に消滅の危機が迫る

内田貴子の父はかつて県下でいちばんの繁華街として栄えていた、中心市街地商店街に「ウチダ書店」を構えていました。

2000年に大規模小売店舗法が廃止されたことで、郊外にショッピングセンターや全国チェーンの大型店が増えたために苦戦を強いられています。

全長300メートルのアーケードの下に最盛期には100以上の商店が軒を連ねていましたが、いま店として機能しているのは10軒もありません。

市役所の広報課に配属されて3年目の貴子としても何とかしたいと思っていたところ、訪ねてきたのが原まゆみです。

地元の国立大学の社会学部で地方活性化を研究している彼女と一緒に、商店街組合「商栄会」に直談判に行きますがまるで相手にされません。

一般企業を定年退職してから15年近く事務局長をしている初老の男性は、家に居場所がないために暇潰しのような感覚で引き受けているのでしょう。

そんな最中に10年前に家出をしてから音信不通だった貴子の妹、ショーコが大きなおなかを抱えて帰ってきました。

お相手の男性とは縁を切って自分だけで子育てをするつもりで、生まれてきた赤ちゃんに「街子」と名付けます。

【承】メガネと放蕩娘 のあらすじ②

寂れたアーケードが華やかなステージに早変わり

公立保育園に一時保育の申請を出したショーコは、ウチダ書店の向かいにできたセレクトショップ「リスキージョイ」でアルバイトを始めました。

商店街で買い物をしてスタンプカードに判子を押してもらうと、保育所の利用料金が1時間だけ無料になる特典があります。

多種多様のコーディネートを思いつき接客もお手のものなショーコにとって、ショップ店員はまさに天職転です。

初対面のお客さんとも一瞬で友だちになりつつ、ありとあらゆるSNSに新商品をアップする宣伝活動も忘れません。

市役所の中心市街地活性課と提携した屋外イベントが、サマーセール・ファッションショーです。

開催地は大通りに敷いたレッドカーペット、音響は盆踊りで使っているスピーカー、衣装はリスキージョイが無償で提供、メイクは専門学生や美容師がボランティアで協力。

低コストで大盛況のうちにショーがフィナーレを迎えた頃、パトロール中の警察官が事情を聞きにきます。

騒音被害を訴える匿名の通報があったそうで、新参者のやることが気に食わない古株もいるのでしょう。

【転】メガネと放蕩娘 のあらすじ③

シャッター商店街に新風を吹き込む

すっかり気持ちが折れてしまい打ち上げへの参加も辞退した貴子を、まゆみが励ましにやって来ました。

彼女から都市計画やコミュニティデザインを教わっている大学生たちにも協力してもらい、「商店街シェアハウス計画」を立ち上げます。

空き店舗を格安で苦学生に提供したり、ひとり暮らしのお年寄りの家にホームステイをする試みです。

商店街にも活気が戻ってきたと独居老人からは喜ばれ、学生たちもレポートや卒論のテーマに困りません。

ウチダ書店をステイ先に選んだのは片桐努という青年で、まゆみのゼミの中でも特に熱心なメンバーです。

先日のイベントの時にも組合と粘り強く交渉してくれて、古参の幹部から冷たくあしらわれてもへこたれません。

すぐに内田家に溶け込んで店番や家事をこなしている努から、貴子は兄の聡を紹介されました。

千葉県警に勤めている聡とはお互いの仕事のこともあり、遠距離でお付き合いを続けていきます。

貴子が聡と運命をともにすることを決意したのは、彼が希望していたヨーロッパの大使館への赴任が決まった時です。

【結】メガネと放蕩娘 のあらすじ④

大人になった街の子どもたちが恩返し

5年ぶりに帰国して中心市街地商店街に足を踏み入れた貴子でしたが、自治体の再開発事業が進んだために以前の面影はありません。

ウチダ書店の100年の歴史に幕を下ろした父は、土地と建物を売却したお金でマンションに入居していました。

再開発でできたビルには商業テナントのフロアが用意されていて、市民による街づくりの拠点として開放されています。

猫雑貨のお店を開きたい50代の女性、アクセサリー作家として活動する40代、石窯でパンを焼いている30代の夫婦、革小物を作っている20代女子ふたり組… 地価と家賃が高かったこれまでとはハードルが下がり、アイデアとやる気さえあれば年齢も経験も不問です。

大学を辞めてここで花屋をオープンしたまゆみと、独立して自分の店を持ったショーコもいちから人生を勝負することを楽しんでいます。

高齢者向けのデイサービスと託児所を兼ねたサポートセンターも併設されていて、すっかり大きくなった街子が元気に走り回っているのでした。

メガネと放蕩娘 を読んだ読書感想

見た目もパッとせずにお役所仕事もそれほど苦にならなそうなお姉ちゃん、外見も中身も派手でひとつの場所にじっとしていられない妹。

まるっきり正反対な姉妹が合わせて、開店休業中の商店街のてこ入れに奮闘する姿にはスカッとしました。

若者たちや余所者が何か新しいことをしようとする度に、頭の固い旧世代が横やりを入れてくるシーンもあって考えさせられます。

堅実派かと思われていた貴子が大冒険をして、無鉄砲者の代表者であるショーコが地に足をつけた選択をするラストにも驚かされるでしょう。

日本全国で同じような問題がささやかれているだけに、自営業の方や生まれ育った土地で働いている皆さんは是非とも読んでみてください。

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