「スノーブロッサム コーヒー専門店へようこそ」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|松波季子

「スノーブロッサム コーヒー専門店へようこそ」

著者:松波季子 2013年9月に文芸社から出版

スノーブロッサム コーヒー専門店へようこその主要登場人物

彼(かれ)
主人公。見た目が良く言い寄ってくる異性も多い。結婚後は理想の父親を守ってきた。

マスター(ますたー)
彼の師匠。コーヒー専門店「スノーブロッサム」のオーナー。ジャズレコードを集めるのが趣味。

高杉(たかすぎ)
スノーブロッサムの常連。温和で品があるが義理の娘とうまくいっていない。

陽介(ようすけ)
スノーブロッサムの新客。親からの過剰な期待が重荷になっている。

麻友(まゆ)
陽介の妻。不妊症の治療で心身ともに疲れている。

スノーブロッサム コーヒー専門店へようこそ の簡単なあらすじ

家族の死によって生きる希望を失っていた「彼」を救ったのは、フラりと立ち寄った喫茶店「スノーブロッサム」です。

40年以上もこのお店の経営を続けてきたマスターですが、身寄りがいないために閉店を考えています。

マスターからこの店を任されるようになった彼は、お客さんが抱えているさまざまな悩み事をコーヒーによって癒やしていくのでした。

スノーブロッサム コーヒー専門店へようこそ の起承転結

【起】スノーブロッサム コーヒー専門店へようこそ のあらすじ①

絶望から救いあげる至福の香り

若い頃はハンサムでプレイボーイだった彼ですが、結婚をして人並みに家庭を築いたことによって落ち着いていました。

平日は朝早くから深夜まで仕事、休日は子どもたちの学校行事に参加したり遊園地で家族サービス、結婚記念日には妻にワインをプレゼント。

そんな幸せでいっぱいな彼の生活も、ある日突然にすべてが台無しになってしまいます。

大都会のど真ん中で自分の人生を終わらせる場所を探していると、漂ってきたのはほろ苦いコーヒーのにおいです。

大通りから離れた細い道にたたずむ「スノーブロッサム」のマスターは、カウンター席に座った彼にコーヒーを注いでくれました。

たったひとりでこの店を45年も切り盛りしてきたマスターですが、家族もいないために継いでくれる人がいません。

フィルターの種類から始まり精製技術、豆のひき具合、使用する水・砂糖・ミルクとの相性。

おいしいコーヒーを1人でも多くの人に届けたいという志を聞いて、彼はマスターが知っているすべてのことを教えてもらいます。

【承】スノーブロッサム コーヒー専門店へようこそ のあらすじ②

指定席のお客様にほほえみを

スノーブロッサムの1番奥にあるテーブル席のソファーには、毎日のように同じ時刻に高杉という名前の老婦人が座っていました。

住まいはこの近所で身に付けている洋服やアクセサリーは高級品ばかりなために、生活には困っていないでしょう。

近頃では同居している息子の妻に関する不満を、さんざん並べ立てて帰っていくのが日課になっています。

仕事が忙しくて普段の食事はスーパーの総菜、たまにキッチンに立っても作るのはお肉料理や揚げ物。

焼き魚や煮物などあさっりとした和食が好みな高杉の口には合わずに、お互いに気を使ってばかりで距離が縮まりません。

そんな彼女のために彼が用意したのは、ウガンダ産のコーヒー豆をエスプレッソマシンで泡立てたカプチーノです。

カップの中にはシナモンパウダーでハートマークが浮かび上がっていて、店内にはマスターのレコードコレクションのひとつでチャップリン作曲「スマイル」が流れていました。

上品にカプチーノを飲み干した高杉は、息子の妻と笑顔で向き合うために、いつもの時刻に外へと消えていきます。

【転】スノーブロッサム コーヒー専門店へようこそ のあらすじ③

実り豊かな人生を生きるふたり

ナット・キング・コールの代表曲「L-O-V-E」をアナログプレーヤーにセットしていると、扉に近い席に見かけないふたり連れがいました。

30代の後半らしき男女で他に客もいないために、カウンターの中にいる彼にも聞くともなしに会話が届いてきます。

男性の方は陽介で女性は麻友、長いあいだ不妊治療を続けてきた夫婦、跡継ぎを待ち望むそれぞれの両親、年齢的にもそろそろ迫るタイムリミット。

陽介たちのテーブルに重い沈黙が訪れた頃、彼がトレーに載せて運んできたのはピーベリーという豆を元にしたプチ・ヌアージュです。

実の中にふたつの豆が含まれているのが通常、ひとつしか入っていないピーベリーは希少。

とても産出量が少なく価値の高いこのコーヒー豆のように、陽介と麻友のカップルも特別な存在で誰にも否定する権利はありません。

子どもがいなくても幸せに生きていけると悟ったふたりは、コーヒー代金と「ありがとう」と走り書きしたコースターを置いていきます。

【結】スノーブロッサム コーヒー専門店へようこそ のあらすじ④

明日への活力を生み出すスペシャルメニュー

最後の客を送り出して電灯を消した頃、フランク・シナトラのボーカルで有名な「僕のたった1人の愛しい人」のメロディが静かに響き渡りました。

今日1日に出会った個性的な客人たちの顔をひとりずつ思い出しながら、彼は自分へのご褒美のためのオリジナルブレンドを考えます。

コロンビア・ハイを3割、ブラジルミディアムを2割、マンデリンフルシティを2割… 新鮮な豆を個性的に仕上げたニュークロップがこの頃の主流ですが、彼が好きなのは熟成期間によって独特な風味が出てくるオールドクロップの方です。

コーヒーカップの残りを一気に飲み干すと、洗い物から器具の手入れまでをひとりでこなさなければなりません。

すっかり年を取ってしまったというマスターは隠居生活の準備を始めているようですが、スノーブロッサムはまだまだ彼の名義ではありません。

それでもかつて道に迷っていた自分が救われたのように、この店が誰かの出発地点になることだけを信じて明日の準備に取りかかるのでした。

スノーブロッサム コーヒー専門店へようこそ を読んだ読書感想

この世界にたったひとりで取り残されたかのような主人公が、夢遊病のように街中をさ迷い歩く幻想的なオープニングです。

無言のままカウンターに座った彼に、サイフォンで沸かしたコーヒーをそっと差し出すマスターの心意気がすてきですね。

ありがちなご家庭のお悩み相談だけでなく、人生のターニングポイントを迎えた人たちへの鋭いアドバイスも説得があります。

ラテアートがかわいらしいエスプレッソから、大人の渋みを感じさせるブラックコーヒーまで。

こんなすてきなカフェが慌ただしい都会の片隅にあるのならば、1度は訪れてほっとひと息ついてみたくなりました。

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