著者:李琴峰 2019年7月に文藝春秋から出版
五つ数えれば三日月がの主要登場人物
林�、梅(りんよばい)
ヒロイン。台湾の彰化県・陝西村出身。東京で語学と金融の知識を生かして営業職として働く。15歳で同性とキスをして以来男性を受け入れられない。
浅羽実桜(あさばみお)
�、梅の大学時代の友人。台中の日本語教室で講師をしながら夫とその家族と暮らす。化粧っ気がなく服装も地味。
五つ数えれば三日月が の簡単なあらすじ
台湾で生まれ育った林�、梅が2011年にW大学に留学して仲良くなったのが、日本人女性の浅羽実桜です。
�、梅は東京で就職し仕事ひと筋で30歳を迎えますが、実桜は台湾に渡って現地で家庭を持ちます。
ふたりが再会を果たしたのは2018年の夏で、�、梅は実桜に友情以上の感情を抱いていたことを伝えるべきか迷うのでした。
五つ数えれば三日月が の起承転結
【起】五つ数えれば三日月が のあらすじ①
台北市の大学を卒業した林�、梅は、4月からW大学院修士課程で日本語教育学を専攻するために東京行きの航空券を予約していました。
出発する10日前に東日本大震災が発生したために、入学式は取り止めになりオリエンテーションと春学期開始日の1カ月延期が決まります。
両親の反対を押し切って予定通りに渡日して、所属研究科の事務所で入館証をもらう時に声をかけてきたのが浅羽実桜です。
西安市に交換留学していたこともあって実桜は中国語にも堪能で、�、梅とのコミュニケーションにも支障はありません。
2年後に�、梅も実桜も論文を提出して修士課程を無事に修了し、ふたりで一緒に卒業式と謝恩会に出席しました。
普段は素っぴんで講義を受けていた実桜が、この時だけはフルメイクで桜と梅の模様を組み合わせた振袖を着ています。
ピンクの口紅とリップグロスが塗られてみずみずしく光った実桜の唇と、派手な振袖姿は�、梅の脳裏に焼き付いて離れません。
台中で日本語教師の仕事を見つけた実桜は台湾へ、信託銀行に新卒採用された�、梅はそのまま東京に。
離ればなれになったふたりはメールで連絡を取り合っていましたが、なかなか会う機会が作れません。
【承】五つ数えれば三日月が のあらすじ②
入社2年目の�、梅は毎日午前9時には出社して、午前中はオフィスで打ち合わせをしたり提案資料の作成に追われていました。
午後からは先輩と一緒にお得意先を回って、法人向けの新規投資信託商品を提案していきます。
理不尽なリクエストを押し付けられるのはいつものことで、横柄な態度を示す担当者の前でも愛想笑いを絶やすことは許されません。
案件を所属部署に持ち帰って対策を検討しているうちに、午後9時を過ぎるのは毎日のことです。
�、梅が実桜の骨折のことを知ったのは彼女のフェイスブックを閲覧していた時で、すでに3カ月が過ぎていました。
台中市内には地下鉄がないためにほとんどがオートバイでの通勤で、実桜も年間に5万件をこえる交通事故のうちの1件に巻き込まれます。
入院中によくお見舞いに来てくれて身の回りの世話をしてくれたのは日本語学校の生徒のひとりで、退院後に同せいを始めて2016年には披露宴を挙げますが�、梅は呼ばれていません。
【転】五つ数えれば三日月が のあらすじ③
相変わらず激務が続いていた�、梅ですが5年ぶりの実桜の帰国が決まったために、池袋駅の北口で待ち合わせをして食事に行きました。
有料駐車場を横切って雑居ビルの群れを抜けた先にある、ラム肉の串焼きで有名なレストランに入り近況を報告し合います。
独身の�、梅は勤め先の飲み会に出席すると、日本人と結婚して国籍を取得することを上司から勧められることが多いです。
中学3年生に上がったばかりの冬、�、梅のファーストキスの場所は放課後の教室で相手は男の子ではなく女の子でした。
廊下を巡回していた先生に見つかり連絡を受けた両親からステッキや拳で殴られ以来、男性とはお付き合いをするつもりも結婚するつもりもありません。
一方の実桜の夫の実家は台中市南屯区にあり昔ながらの地主階級で、義理の祖父から前妻とのあいだに授かったふたりの子どもまで4世代が暮らす大家族です。
優しすぎる夫とやや封建的な義母に挟まれて気を遣いながら、それでも幸せそうに過ごしている実桜を見ていると少し�、梅は寂しさを覚えてしまいます。
【結】五つ数えれば三日月が のあらすじ④
時間を忘れて話し込んでいるうちに店内にはお客さんが増えてきて、これ以上長居をするのは申し訳なさそうです。
6月の日射しは夕暮れ時になっても弱まることはなく、花火が見たいという実桜のために池袋から電車で赤羽に行き荒川の河川敷に向かいました。
近くの量販店で購入した花火セットに片っ端から火を付けていき、三日月のかかる夜空の下でダンスをするふたりは30歳には見えません。
明日になれば実桜は成田空港から直行便に乗って家族の待つ台中、�、梅は満員電車に揺られて出社。
�、梅のカバンの中には昨日の夜遅くに数時間かけて書いた1枚のメッセージカードが入っていましたが、実桜に渡すべきか別れ際になっても迷っています。
2000キロ離れた海の向こうで実桜が大ケガをしたと知った時にどれだけ心配したかということ、その後に結婚したことを聞いた時に何とも言い難い気持ちになったこと、これからは簡単には会えそうもないためにこの思いを月に託すこと。
実桜が改札口をくぐり反対側のホームへと歩き出した瞬間に、�、梅は目を閉じて5秒のカウントダウンを開始します。
数え終わっても彼女の姿が見えていたら、カードを渡してまっすぐに気持ちを伝えるつもりです。
五つ数えれば三日月が を読んだ読書感想
それぞれの名前に「梅」と「桜」を持つ、同世代で正反対の生い立ちを持つふたりの女性の人生に引き込まれます。
台湾の小さないなか町に息苦しさを覚えていた主人公の林�、梅が、自由を求めてたどり着いたのが日本だったのが運命的です。
就職した先でもお節介な同僚や上司から、お見合いや日本国籍の取得を押し付けられてしまうなど自分らしい生き方を貫くのは難しいのかもしれません。
女性同士の熱い友情で結ばれたはずの浅羽実桜も、嫁ぎ先の台湾で日本統治下を生きた世代からチクりと嫌みを言われてしまう場面もあって考えさせられます。
5年の時を経て顔を合わせた�、梅と実桜の、ふたりっきりの花火大会には名残惜しさが湧いてくることでしょう。
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