著者:岡本学 2017年2月に講談社から出版
再起動の主要登場人物
僕(ぼく)
物語の語り手。企業につまずいた後で「リブート教」を立ち上げる。人の下で働くのが嫌い。
クォーター(くぉーたー)
僕のパートナー。大学まで野球ひと筋で世間知らず。
パープル(ぱーぷる)
リブート教の事務員。仕事の飲み込みが早い。
イエスタデイ(いえすたでい)
リブート教の信者。競争社会に溶け込めない。
柏崎(かしわざき)
新事業のコンサルタントを手がける。情報収集が得意。
再起動 の簡単なあらすじ
ベンチャービジネスに失敗した「僕」とクォーターは、宗教法人「リブート」教を立ち上げて信者の獲得に乗り出しました。
増え過ぎた信者の中には堂々と「再起動」を宣言する者が現れ始め、教団本部の不法占拠も問題になっていきます。
強制執行の当日にクォーターは逃走して、逮捕された僕は独房の中で修行を開始するのでした。
再起動 の起承転結
【起】再起動 のあらすじ①
就職活動がスタートするとキャンパス内はリクルートスーツに身を包んだ人間であふれかえり、僕の人間関係は途端にぎこちなくなりました。
変わらない友人として付き合っていたのは、野球推薦で入学したもののケガで引退してプロの道を絶たれていたクォーターだけです。
大きな組織の中に入ってサラリーマンとして働くことに抵抗があった僕、大企業ばかり選んでエントリーしているもののまるで相手にされないクォーター。
意気投合したふたりがシステム・エンジニアリングの請負業務を初めると、ITバブルの波に乗って利益を上げます。
業界でも広く名前が知れ渡った僕とクォーターの会社に買収の標的として目を付けたのは、大手の検索ポータル企業です。
すべてを失ったふたりには、買収される直前に帳簿をごまかして個人資産にしておいた隠しオフィスしかありません。
公務員の中途採用試験を受けるというクォーターを思い止まらせて、僕は墓石販売業者の代表権を数100万円で購入して「神を作る」ことにしました。
【承】再起動 のあらすじ②
地域社会との摩擦を避けながら独自の活動を始めるために、僕とクォーターが設定した約束ごとは3つだけです。
第1に信者との金銭のやり取りは月額会費3000円の徴収に限ること、第2に入会と退会を完全に自由にすること、第3に強引な勧誘を禁止すること。
肉体に備わった余計な機能をすべてシャットアウトとし、人間本体の再始動(リブート)を目指す「リブート教」として無料セミナーを開きました。
JR中央線の沿線から1駅ずつ広めていく作戦は、12回のセミナーで700人以上を集めます。
入団登録の事務作業のために雇ったアルバイトは、身に付けているものがほとんど紫色なため「パープル」と呼ばれている若い女性です。
子どもの頃からいつか大きな不幸が訪れるのではと悩み続けている彼女は、想像力の機能をオフにするために「再起動」に憧れていました。
パープルがてきぱきと事務処理をこなしてくれたおかげで信者の数は膨れ上がりましたが、今のオフィスでは全員を収容できません。
【転】再起動 のあらすじ③
会員誌を通じて修行場所を求めていることを告白すると、還暦を過ぎた品のよい老婦人が八王子の山の中にある元有名企業の宿泊施設を提供してくれました。
都心の騒がしさから離れた教団本部でのんびりと収益を増やしていくつもりでしたが、ひとりの信者が「再起動」を宣言します。
ビートルズの歌が好きな「イエスタデイ」は、自己主張の機能をオフにするために1日20時間の修行をするほどの熱心な信者です。
再起動者が出たことで一気に信者同士の競争心が高まり、教団内だけではなく近隣住民とのトラブルも絶えません。
再起動できなかったパープルは教団を去っていき事務は滞り、再起動者は会費を払わないためにリブート教は資金難に立たされました。
見知らぬ団体から突然に融資を持ちかけられた僕は、新宿の都庁を抜けた先にある雑居ビルを訪れます。
代表者の柏崎は教団の内情をすっかり調べあげているようで、僕に取引を持ちかけてきます。
再起動者を柏崎の団体で社員として受け入れる、紹介料として一定のお金。
リブート教に払う。
あらゆる意志が枯れ果てた再起動者は決して反抗しないために、一般企業にとっては低賃金労働力として打ってつけでしょう。
柏崎はクォーターが名前だけの共同代表者で、すでに教団に貢献していないこともお見通しです。
【結】再起動 のあらすじ④
リブート教団本部を無償で提供してくれた老婦人は前々から親族から脱会を説得されていたようで、突如として行政による立ちのき命令が舞い込んできます。
柏崎にメールで相談したところ、教団を維持するためには代表者の逮捕もやむを得ずとの冷たい返事しかありません。
Xデー当日には盾を構えてヘルメットを被った機動隊がバリケードを破って突入してきましたが、不思議と僕は穏やかな気持ちで迎え入れました。
突入直前に施設内のブレーカーを落としたクォーターは、僕と握手をすると闇に紛れて静かに出ていきます。
僕が入れられたのは独房と呼ばれている小部屋で、柏崎が手配してくれた弁護士によると留置期間は長期に渡るそうです。
三度の食事はパープルが紫色の風呂敷で包んだお弁当箱を差し入れてくれて、狭い空間で食べて寝るだけの繰り返しはリブート教の修行と変わりません。
覚悟を決めた僕は頭の中を空っぽにして、自分自身の人生を「再起動」することを決意するのでした。
再起動 を読んだ読書感想
ふたりの大学生がマネーゲームの感覚でIT分野に進出するオープニングには、六本木ヒルズで起きたあの事件を思い出してしまうでしょう。
懲りない主人公と純朴すぎる相方のクォーターが、カルト宗教に傾倒していく様子にもリアリティーがありました。
自分たちが生み出したはずのシステムが少しずつ制御できなくなっていくのは、会社であれ宗教法人であれ同じなのかもしれません。
気づかいからプライドに嫉妬までと、現代人には余計な機能が働きすぎていることは確かです。
パソコンのように人間も簡単にアプリケーションを削除できれば、などと考えてしまうのは危険ですね。
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