著者:井上真偽 2016年7月に講談社から出版
聖女の毒杯 その可能性はすでに考えたの主要登場人物
姚扶琳(ヤオ フーリン)
中国人女性。中国黒社会組織の元幹部。
八ツ星聯(やつほし れん)
少年探偵。上苙の元弟子。
上苙丞(うえおろ じょう)
青髪の探偵。奇蹟がこの世に存在することを証明しようとしている。
山崎双葉(やまざき ふたば)
花嫁の付き添い、御酌役。佳織の娘。ムギという名の小型犬を飼っている。
和田一平(わだ いっぺい)
花嫁である和田瀬那の父。
聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた の簡単なあらすじ
結婚式で同じ盃を回し飲みした8人中3人だけが毒殺されるという事件が発生します。
参列した主人公たちは推理に乗り出します。
物語は3部構成で、第1部では事件を検証して何人も容疑者が出ますが、すべて否定されます。
第2部では犯人の自白という意外な展開になりますが、主人公が自白している犯人を否定して真犯人を暴きます。
しかし第3部でまたも覆され、花嫁の父親による犯行で自殺が目的だったという結論に達するのです。
聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた の起承転結
【起】聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた のあらすじ①
ある地方の町を訪れた元中国ヤクザの幹部である美女ヤオフーリンと、少年探偵の八ツ星が、以前からの知り合いである山崎佳織と出会います。
フーリンと八ツ星は山崎佳織の娘である、山崎双葉が町の大地主である俵屋家で行われる結婚式の付き添い人兼御酌役を務めることを知って俵屋家の屋敷で行われる結婚式を見学しに行くことになりました。
その道中で俵屋家の評判が良くないことやこの地方に伝わる女性の守り神であるカズミという聖女伝説などを聞かされます。
フーリンと八ツ星は、佳織とともに結婚式に参列することになりました。
結婚式は順当に進み、この地方に伝わる婚礼の儀をこなしていき昔からの伝統である大盃の回し飲みが始まります。
双葉が酒を注いだ国宝である大盃を、花嫁と花婿と関係者が順番に飲み干していきます。
花婿の俵屋広翔、花嫁の和田瀬那、花婿の親族、花嫁の親族の順に順番に回し飲みを行いました。
その途中で双葉の愛犬ムギが盃を舐めてしまう騒ぎが起こります。
そして回し飲みが終わった直後に俵屋広翔、花婿の父である俵屋正造、花嫁の父親である和田一平の3人に加えて、双葉の愛犬ムギが絶命します。
死因はヒ素中毒だと判明し、和田瀬那の鞄の中からヒ素が入った小瓶が発見されました。
【承】聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた のあらすじ②
第1部ではこの殺人事件の容疑者にされた人物が、自分は無実であり犯人は他にいると容疑を他人に擦り付けるために様々な仮説を言い募っていきます。
5つの仮説が検討されますが、上苙丞の元弟子である少年探偵八ツ星がそのすべてを否定していきます。
和田瀬那は父親の和田一郎の借金のため、あくどい金儲けをしている俵屋家の長男の広翔に、嫌々嫁ぐことになった経緯がありました。
そのことを知っていた双葉による、酒が好きな犬であったムギを双葉が故意に乱入させて酒に毒を入れた犬乱入説や回し飲みをする際に、飲み口が変わることを利用した奇数番殺害説や、広翔の妹である愛美珂が疑われたときに言い逃れるために提示した時間差殺人説など5つの仮説が提示されます。
しかしその仮説は全て、自分が容疑者から外れるために濡れ衣を着せるを探して言ってるだけだと八ツ星に看破され否定されてしまいます。
そして第一部ラストは「犯人は、このヤオ・フーリンなのだから」という衝撃の独白で幕を閉じ、第2部へと突入していきます。
【転】聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた のあらすじ③
フーリンの独白という驚きのラストで幕を閉じた第1部ですが、第2部ではいよいよ満を持して上苙丞が登場します。
そしてフーリンがかつて所属していた組織のボスであるシェンの司令によって犯行を実行したという、フーリン自らの自白を否定します。
上苙丞がフーリンをかばうため「この事件は奇蹟だ。
カズミ様というこの地に伝わる女性の守り神である守護聖人が、起こした奇蹟だ。
望まない結婚を強いられようとしていた瀬那を守るために奇蹟が顕現したのだ」という驚きの仮説を展開していきます。
シリーズを通じてとある事情で奇蹟を証明したい上苙丞は、フーリンは殺人は行っておらず、計画のみで未遂だったに過ぎず真犯人はカズミ様が起こした奇蹟のような偶然の積み重ねで、殺人事件が起こってしまったのだとフーリン犯人説を否定します。
奇蹟を証明しようとする上苙丞がどのようにフーリン犯人説を否定して、奇蹟の立証をするのかが、この第2部の最大の見どころとなっています。
【結】聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた のあらすじ④
第三部では、第二部で提示され立証されたかに見えた奇蹟さえも反証されて否定されてしまいます。
奇蹟の実在を信じたかった上苙丞でしたが、花嫁の叔母である和田時子の一言をきっかけに、自らの見落としに気づいて奇蹟など起こっていなかったことを受け入れざるを得なくなります。
自らが証明しようとした奇蹟さえも、上苙丞が自ら否定して花嫁の父親が犯人という真相にたどりつき、事件の真相とその手口を解明します。
事件の真相は、実行犯である和田一平が回し飲みをする大盃にヒ素を混入するために、花嫁の叔母である和田時子が共犯者となって一人二役トリックや花嫁道中での替え玉トリックなどを協力して行い、一平のヒ素混入の手助けをしたという結論に達したのです。
そして事件が混乱して二転三転したのは、和田一平が俵屋愛美珂に罪をかぶせるために、様々な細工をしていたせいで俵屋家全体に対する復讐であり自殺だったという真相にたどりついたのでした。
聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた を読んだ読書感想
奇蹟の存在を証明するこを目的に探偵をやっている上苙丞という主人公が魅力的でした。
女神伝説が伝わる地方での結婚式で、悪どい一家に嫁がざるを得ない花嫁や、その式中に発生した殺人事件の内容が同じ盃を回し飲みした8人のうち3人と、犬だけが殺されるという奇妙な導入にまず惹きつけられます。
そしてこの小説のメインテーマとなる推理の否定というのがかなり凝った作りになっていて、推理を否定するという通常の探偵ではありえないような否定から入るという推理劇は今まで読んだことがありませんでした。
真相に近いのではというような現実的な推理から現実的に実行は不可能そうな無理筋な推理まで色々提示されていく様子は、ここまでいろんな推理を考えつける作者の発想力に圧倒されます。
現実的な推理や無理やりな推理がどんどん出てきて、壮大な推理合戦は刺激的で面白くてそれらの推理を数学の数式のように論理的に物理的に否定して、仮説を壊して論破する過程は読んでてすごく楽しいです。
最初は探偵がトリックを否定するという異色ミステリーなのに、終盤はきっちり本格ミステリーといえる内容になっているという本作の読み応えは凄まじく、おすすめできる一冊です。
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