著者:鶴川健吉 2013年8月に文藝春秋から出版
すなまわりの主要登場人物
自分(じぶん)
物語の語り手。物覚えが早く忍耐強い新米行司。中卒だが新聞や本をよく読む。
白鳥一之輔(しろとりいちのすけ)
自分の後輩。人なつっこいが根気がない。
鈴井(すずい)
自分の中学時代のクラスメート。口数が多く遊び好き。
木下(きのした)
ベテラン力士。半月板に損傷を抱えている。
雲海(うんかい)
木下のライバル。平幕力士で階級は上から5番目。
すなまわり の簡単なあらすじ
幼い頃から相撲取りになることに憧れていた「自分」が、行司として角界に足を踏み入れたのは体格に恵まれなかったからです。
厳格な上下関係に悩まされながらも少しずつ仕来たりに慣れていき、土俵際での経験を積んでいきます。
序二段に昇進して千秋楽の取り組みを任された自分の胸の奥底には、自信とやりがいが湧いてくるのでした。
すなまわり の起承転結
【起】すなまわり のあらすじ①
中学校に通っていた自分は、授業中にいつもノートの余白に古い時代の力士の四股名を書いていました。
下校のチャイムが鳴ると同時に校門を飛び出して、自宅へと急ぎます。
家に着くとラジオを引っ張り出してイヤホンを装着すると、聞こえてくるのは興奮した実況や歓声です。
相撲中継が終わると机に向かいますが、宿題を片付ける訳でもテスト勉強をするつもりもありません。
年6場所15日間の勝ち負けはもちろんのこと、ありとあらゆる相撲に関するゴシップ記事を新聞紙から切り抜いてスクラップブックにまとめるのが日課になっていました。
お風呂に入った後は決まって体重を測定しますが、50キロをこえたことは1度もありません。
中学を卒業してすぐに相撲部屋に入門するのは難しく、高校の3年間で新弟子検査の規定に達するのは難しいでしょう。
力士になれないまま年齢だけを重ねていき、切り抜きに囲まれたまま相撲マニアのおじさんになってしまうのは残念です。
どんな形でもいいから相撲の世界に飛び込んでみたかった自分は、行司の新規採用に応募してみます。
【承】すなまわり のあらすじ②
両国国技館の敷地内にある相撲教習所では、入門してまもない行司が稽古に励んでいました。
本場所が終わったばかりの土俵を使って、数人の兄弟子行司たちが力士役として相撲を取ってみせます。
軍配を握る右手は帯の位置に当てて動かさない、左手は握りこぶしにして腰に当てる、小指は帯のすき間に引っ掛けて親指を隠す。
細かい動きは鏡の前で繰り返し練習してすぐに身に付けましたが、1番の不安要素は取り組み中の掛け声です。
生まれてから1度も大きな声をあげたことがなく、つい最近まで中学生だった自分の声にプロのお相撲さんが反応してくれるとも思えません。
夏巡業でもあり自分にとっても行司デビューとなる長野場所を控えているために、前日の夕方までには長野駅の裏にあるビジネスホテルにチェックインしました。
部屋割りは番付がひとつ上の兄弟子行司との相部屋で、付き人として身の回りの雑事もこなさなければなりません。
ついに迎えた翌日の初土俵ではテレビで見た力士と同じ場所にいることが夢のようで、見とれているうちに6番の取り組みが終わってしまいました。
【転】すなまわり のあらすじ③
相撲部屋の2階にある大部屋に住み込み、力士たちに混ざって寝起きをしたり使い走りをする暮らしは入門以来変わっていません。
今朝早くには特に思い当たる理由もなく兄弟子から拳骨を腹部にくらわされて、その現場を入門したばかりの新弟子の行司に目撃されてしまいました。
学生服を着て正座している少年は白鳥一之輔という名前で、自分にとっては初めての弟分です。
白鳥は「はーちゃん」などという相性で親しまれていましたが、すぐに厳しい指導に音を上げてしまいます。
名古屋場所が終わった直後に脱走して、商売道具の軍配や大切な装束を実家に近い大きな川に投げ捨ててしまいそのまま部屋には戻りません。
最後に自分が白鳥と言葉を交わしたのは入門3年目のことで、海外で仕事をするためにお別れにきたそうです。
辞めて相撲界の外で生活をするようになった人たちは「よたか」と呼ばれているために、国技館の緑色の屋根の上を飛んでいく鳥を見上げるたびに白鳥のことを思い出してしまいます。
【結】すなまわり のあらすじ④
入門してもうすぐ5年目に突入する自分は序ノ口からワンランク昇進していて、来年になると定年でふたりの行司が退職するために三段目の位も見えてくるでしょう。
序二段でも最終日の優勝決定戦だけは満員御礼の土俵で行われるために、いつもの取り組みとは明らかに雰囲気が違いました。
東方で土俵の縁に手をついて万全の体制で控えているのは雲海、西方で膝のサポーターを気にしているの木下。
ともに7戦全勝同士のぶつかり合いは自分の発した「はっけよい」で始まり、2分をこえる激戦の末に両者は土俵の下へと落ちていきました。
わずかの差で先に雲海の巨体に土がついたのを見逃さなかった自分に、兄弟子は「よく見たな」と肩をたたいて誉めてくれます。
中学生の頃に一緒のクラスだった鈴井も興奮しながら電話をかけてきて、女子大学生との合コンをセッティングしてお祝いしてくれるそうです。
すでに400万円の貯金があってキャバクラで8万円ほど豪遊することもある自分は、いまだに学生で実家暮らしの鈴井のことを遠くに感じてしまいます。
売店で購入したすもうあんパンを食べてひと息ついていると、自分の名前を呼ぶ大きな声がしたために慌てて戻るのでした。
すなまわり を読んだ読書感想
Jリーグにもプロ野球にもまるで興味はなく、大相撲中継が何よりもの楽しみだという男子中学生のチョイスが渋いです。
世間からはあまり知られていない角界の舞台裏を、力士ではなく行司の視点から描かれているのもユニークでした。
「かわいがり」や「無理ヘンにゲンコツで兄弟子」といった理不尽な暴力は、力士に限った話ではありません。
同期入門が次々と脱落していく中で、時には壁にぶつかりながらも確実にステップアップしていく主人公が頼もしく感じます。
土俵のサークルが刻まれた「すもうあんパン」なる両国名物も、機会があれば食べてみたいです。
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