【ネタバレ有り】七号病室 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:見沢知廉 2005年12月に作品社から出版
七号病室の主要登場人物
私(わたし)
精神科医。
T(てぃー)
政治犯。
七号病室 の簡単なあらすじ
有名大学の医学部を優秀な成績を収めて卒業した「私」は、9年以上の懲役刑を受けた囚人たちを収容する重罪刑務所を訪れます。ひと癖もふた癖もある収容者の中でもひと際目を引く政治犯のTと出会いカウンセリングを続けていくうちに、何時しか彼の高い知性と深い孤独感に心惹かれていくのでした。
七号病室 の起承転結
【起】七号病室 のあらすじ①
私は名門T大学の医学部を卒業しますが、医者になることなく精神病理学の研究室に進みました。
20年来積み重ねてきた自らの研究にもここ最近では行き詰まりを感じていたために、知り合いの教授にアドバイスを貰いに行きます。
投薬治療よりカウンセリングを信条とする教授から紹介された新たな職場は、9年以上の刑期が確定した受刑者たちを収用する重罪刑務所です。興味本位から引き受けた私は毎週月曜日と木曜日の2回の約束で、何冊かのカルテを前任者から受け取って引き継ぎを済ませます。
鉄格子と曇りガラスがある他は小学校の保健室と何ら代わり映えのしない簡素な診察室で、明日から始まる海千山千の患者たちとの戦いに思いを巡らせていました。
【承】七号病室 のあらすじ②
幻覚に悩まされている拘禁症患者、自分のことをヒトラーだと思い込む分裂妄想病者、ここが刑務所であることを忘れてしまう赦免妄想者。
次々と目の前に現れる患者たちの饒舌な語り口と奇妙な症状に圧倒されていた私でしたが、特に気になったのがTです。身分帳と呼ばれている個人データベースを見る限りでは「殺人」「火炎瓶」と2つの罪状が記されていましたが、神経質な振る舞いとメガネが似合う知的な顔立ちには到底結び付きません。
Tは現在収監されている集団生活用の獄舎から、昼夜独居を送ることになる七号舎への移送を申し出ます。
このままだと暴力事件を起こすか自殺してしまうかを危惧した私は、保安課に口を利き彼の望みを叶えて上げました。
【転】七号病室 のあらすじ③
慣れない環境に変わったせいか、再びTの診察が回ってきた時には随分とやつれた表情でした。七号舎では入浴時間から運動まで全て1人で、塀の中での数少ない楽しみである映画鑑賞や野球大会に代表されるようなレクリエーションにも一切参加出来ません。
その一方では彼の計算高く孤独を愛するその性格から、敢えて演技をして独居房に留まっている可能性もあります。
Tとのカウンセリングは週に1度は欠かかせなくなり、他のクランケが5分から10分くらいの短時間に対して1時間半みっちり行います。
次第にTに不思議な親近感と執着心を抱いていく私が受け取ったのは、彼がここに来る原因となった右翼系の政治団体が発行している機関紙やリーフレットでした。
【結】七号病室 のあらすじ④
私はTの母親に話を聞いてみようと思いつきますが、外で会うのは法律違反のため保安課長の許可を得て所内で面会します。
彼が革命を決意は、若干小学4年生の頃からだそうです。高校時代は成績優秀ながらもやがては登校拒否から暴走族、新右翼による民族派運動への加担から遂にはスパイ粛清事件。
懲役12年の刑を宣告されながらも、未だにTは獄中で革命を叫び続けています。
帰りがけに私は囚人たちに配られる、今夜の食事を覗いてみました。
麦飯に味噌汁と鶏肉の質素なメニューになりますが、Tの話によると全世界の10億人以上がこれよりも酷い食生活を送っているようです。私は刑務所の中がおかしいのか外の世界がおかしいのか疑問を抱いてしまうのでした。
七号病室 を読んだ読書感想
訳ありの患者と天才的な精神科医との間で繰り広げられていく、息詰まる心理戦に圧倒されました。
「君の心のブラックボックスの中には苦痛がつまっている。」
というセリフにも痺れます。
本来であれば理系の研究者であるはずの、哲学者のようであり文学者のようでもある掴み処のない主人公のキャラクターを上手く捉えている言葉です。
優等生から暴走族へのドロップアウト、新左翼セクトへの加担、火炎瓶焼き討ちの果てにスパイ粛清。
本作品に登場するTが歩んできた道のりには、若き日の著者自身を彷彿とさせるものがあります。
外から来た主人公が施設の中に閉じ込められているTに感化されていき、自らの住む世界そのものに疑問を抱いていくクライマックスが圧巻です。
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