著者:泉ゆたか 2017年1月に講談社から出版
お師匠さま、整いました!の主要登場人物
上野桃(うえのもも)
ヒロイン。寺子屋で子どもたちに生きる術を教える。誰にでも分け隔てなく接する。
春(はる)
桃の新弟子。裏表がなくサッパリとした性格。
鈴(すず)
桃の一番弟子。物覚えは早いがプライドが高い。
平助(へいすけ)
桃の幼なじみ。強じんな体力と勘が鋭い職人。
田中丘隅(たなかきゅうぐ)
桃の夫・清道の学友。大岡家に仕えて農政学者としても有名。
お師匠さま、整いました! の簡単なあらすじ
夫が残した寺子屋を守ってきた上野桃に弟子入りを志願してきたのは、自然災害によって家族と死別した春という少女です。
桃を上回るほどの算術の才能を秘めていた春は、時の江戸町奉行・大岡忠相の私塾に入門を許されます。
寺子屋の閉館の危機を教え子と力を合わせて乗りこえた桃も、幼なじみの平助と第2の人生を歩んでいくことを決意するのでした。
お師匠さま、整いました! の起承転結
【起】お師匠さま、整いました! のあらすじ①
15歳で相模国の堤村に嫁いだ桃ですが、お相手の上野清道はすでに60歳に近く結婚生活は8年間しか続きませんでした。
教育者として親しまれていた清道は晩年になると家の奥に閉じこもって難しい本を広げているばかりで、桃は寺子屋を受け継いで子どもたちに読み書きを教えていきます。
ある時に幼い頃から近所で一緒に育った大工の平助が連れてきたのは、小田原からやって来た春です。
春の両親は七輪屋を切り盛りしていましたが、先日に酒匂川のほとりで発生した鉄砲水に流されて遺体は発見されていません。
身寄りもなく帰るところもないという春は桃のもとで学びたいそうですが、14歳から15歳くらいでしょう。
寺子屋で学ぶ筆子の年齢は下が5歳から6歳、上でも10歳前後が慣例ですが清道の寺子屋は大岡家の保護を受けた浄見寺の敷地内にありました。
どんな境遇であろうと受け入れるのが江戸町南奉行を務める大岡忠相の意向であるために、桃は春の入門を許可します。
【承】お師匠さま、整いました! のあらすじ②
新参者の春に興味津々でやたらと絡んでくるのが、この寺子屋で誰よりも出来がよくてお金持ちの商人の家に生まれた鈴です。
実家の商売を手伝っていた経験があり銭勘定を自然と覚えた春も、算術に関しては驚くほど飲み込みが早くて負けてはいません。
そんな最中に小田原に測量専門の塾の設立を計画している大岡忠相が候補を探していることが、家臣の田中丘隅を通じて桃の寺子屋に伝えてきました。
夏の終わりには忠相の一向を招いてお祭りを盛大に行うのが堤村での毎年恒例になっていましたが、広場に組んであるやぐらを見て丘隅は足を止めます。
平助がたったひとりで測量から組み立てまでをこなしたと聞いて、隠された才能に気がついたようです。
小田原の私塾に通うことが決まったのは平助と春で、選ばれなかった鈴は納得していません。
生前の清道と親交があったという丘隅から、桃も「算額」の奉納を命じられてしまいました。
難問の解答を大きな板に書いた絵馬で、これが出来なければ寺子屋を閉めるしかありません。
【転】お師匠さま、整いました! のあらすじ③
堤村に置いてきぼりをくらって落ち込んでいる鈴に、桃はやるべきことに励むようにアドバイスを送りました。
自分の才能を認めてほしいという彼女のために、ふたりで協力して算額を仕上げた後に鈴の名で納めることを了解します。
平助の話によると小田原では朝から晩まで泥の中に入っての測地作業に追われているそうで、机に向かっての読み書きは行われていません。
春の両親をはじめ多くの人命が失われた酒匂川の事故には大岡忠相も胸を痛めていて、治水工事のための測量だそうです。
「俺の算術は命懸け」と誇らしげに語る平助は、かつて桃が見下していたがさつな大工とは似ても似つきません。
久しぶりに桃のところに顔を出した春も、オランダから輸入された計測器の使い方を難なく習得していました。
鈴が算額のテーマを考える助けになるために、浄見寺の住職に金銭的な援助をお願いして桃の寺子屋にもコンパスや定規を導入してもらいます。
算額の出来栄えが良かった場合には、小田原の塾長に就任した丘隅に鈴のことを紹介してみるつもりです。
【結】お師匠さま、整いました! のあらすじ④
清道が葬られたのは教え子たちがお金を出しあって建てた筆子墓で、お墓参りにきた鈴は同じ敷地内にあった大岡家の家紋を見てひらめきました。
大きな円の中にひとまわり小さな円、内側の円の中にはたわんだ四角形、ふたつの円とひとつの四角形が重なり合い16個の三角形。
大岡七宝という特徴的な図柄の面積を、鈴は独自の計算式によって導き出し算額に書き写します。
完成した算額に感心した丘隅は鈴の弟子入りを認め、春と姉妹のように算術を探求する毎日です。
酒匂川の治水工事がひと段落すると、桃と平助は結婚のお祝いをあげます。
桃は職人用の長屋に引っ越しますが存続が決まった寺子屋の授業で忙しく、平助も当分は堤村と小田原を往復することになるでしょう。
それぞれが充実した日々を送っていた4人が集まったのは、鈴の名前を大きく書いた算額を浄見寺の本堂に掲げる日です。
かも居のいちばん目立つところには墓所で眠る清道の算額が取り付けられていたために、桃は静かに手を合わせるのでした。
お師匠さま、整いました! を読んだ読書感想
物語の時代設定は享保年間の1716年から36年あたりで、当時の寺子屋の様子が綿密に再現されていて興味深いです。
お金持ちのご子息がお座敷に机を並べているのに対して、月謝の払えない子どもたちが庭先で地面に棒で字を書いているのが印象的でした。
経済的な理由によって教育を受けるチャンスが奪われてしまう理不尽さは、江戸時代であれ現代であれ同じなのかもしれません。
多額の寄付金を施して貧しい子どもたちのための学問所を作ったという、大岡越前の逸話が物語の根底に流れています。
貧富の差や性別にとらわれずに勉学に励む時代がくるはずだという、主人公・桃の未来へのメッセージにも相通ずるものがあります。
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