「アカガミ」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|窪美澄

アカガミ (河出文庫)

著者:窪美澄 2016年4月に河出書房新社から出版

アカガミの主要登場人物

ミツキ(みつき)
25歳の女性。介護施設の職員。寝たきりの母と二人で暮らしている。

ログ(ろぐ)
40代くらいの女性。性を抜く仕事ながら、国家公務員。

サツキ(さつき)
博物館の職員。つがいとしてミツキにあてがわれた男性。

ハルノ(はるの)
病院の准看護師。アカガミによってミツキと同じ団地に住むことになった女性。

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アカガミ の簡単なあらすじ

2030年、日本の若者はすっかり恋愛に無関心になっていました。

そんななか、介護施設で働くミツキは、国家によるつがい作りのプロジェクト、「アカガミ」に誘われて登録します。

講習のあと、アカガミが選んだ男性、サツキと同居生活が始まりました。

最初はぎこちなかったふたりも、少しずつ打ち解けていき、やがて無事にまぐわい、妊娠、出産と順調に進むのですが……。

アカガミ の起承転結

【起】アカガミ のあらすじ①

アカガミへの登録

2030年の日本が舞台です。

2000年以降に生まれた男女は、他人との交わりを避けるようになっていました。

恋愛もせず、友達ともあまり交わりません。

自殺する若者も多くいます。

ミツキ(女性)は、大学生のとき、バーで睡眠薬を飲んで自殺を図りますが、ログという女性に助けられました。

その縁で、介護の仕事をするようになってからも、ときどき、ログと会って話をしています。

そうして他人と交流するのは、今どきの若者には珍しいことでした。

ログの仕事は、男の性を抜いて、その後話を聞くことでした。

そんな仕事ではありますが、ログは国家公務員なのです。

あるとき、ログはミツキにアカガミを勧めました。

アカガミとは、男女がつがいになることを推し進める国家プロジェクトです。

勧められるまま登録したミツキは、教習所へ通って、つがいになるための教育を受けます。

その後、機関が選んだ男と同居することになりました。

指定された古い団地の部屋に入居し、待っていると、古いリュックを背負った若い男がやってきました。

男は、名前をサツキといいました。

【承】アカガミ のあらすじ②

サツキとの同居生活

ミツキとサツキの同居生活が始まりました。

最初ふたりはベッドとソファで、別れて寝ます。

ミツキは、サツキにチェンジされるのではないかと怯えています。

ふたりの距離は少しずつ縮まっていきます。

初め、サツキは走って駅へ行き、そこから遠くの博物館に通勤していました。

そこで、駅までミツキが車で送り迎えすることにします。

しばらくして、博物館が休みの日、ミツキはサツキの仕事場を見に行きました。

まだお互い慣れていなくて、ぎこちない感じです。

またしばらくして、ふたりの休みが合った日、ふたりは団地の外を散歩しました。

そのとき、サツキはアカガミに登録した動機を正直に言いました。

北にあるサツキの故郷は、とても貧しいのです。

アカガミに登録してつがいになると、父と弟ふたりの生活費を国から出してもらえます。

つまり、サツキはお金目的で登録したのでした。

だんだん打ち解けながらも、ふたりはまぐわいにいたりません。

そんなある日、ミツキは団地内に住むハルノという女性と知り合います。

彼女も、まぐわいがまだだと言い、仲間がいたことを喜んだのでした。

ある日、サツキが熱を出したので、ミツキは彼の服を脱がせ、体をふきました。

体をふいた刺激でペニスが勃起しているのを見たミツキは、なんだかほっとしたのでした。

翌日、サツキを休ませ、仕事に行ったミツキは、一日中サツキのことが気になってしようがありませんでした。

帰ると、部屋に明かりがついているのを見てほっとしました。

ミツキは、サツキといつもいたいと思う気持ちを打ち明けます。

サツキはそんな彼女を抱きしめます。

その晩から、ふたりはひとつのベッドで寝るようになりました。

でも、まだまぐわいはしていません。

サツキは、まぐわいをするのが怖いといいます。

初体験だから怖いのです。

これでは先へ進めないと考えたサツキは、まぐわいをする日を決めました。

それはふたりの休日が合う日の前夜でした。

【転】アカガミ のあらすじ③

まぐわいと妊娠

ミツキとサツキが、まぐわいをする夜になりました。

ふたりとも未経験のことなので、ぎこちなく、落ち着きません。

サツキは、初めてのことなので不安がっており、「笑わないでほしい」とミツキに言います。

初めてのまぐわいで、サツキはすぐに果ててしまい、ミツキに謝ります。

でも、ミツキは嬉しく思っていました。

その夜から次の日の夕方まで、ふたりは何度もまぐわいをしました。

それ以来、ミツキは幸福感と充実感を覚えます。

世界に光があふれていることを感じました。

そんな態度ですから、しばらくぶりで会ったハルノには、すぐにまぐわいをしたことを見抜かれたのでした。

さて、クリスマスの日、ふたりの休みが合いました。

サツキは、ミツキといっしょに、ミツキの母にあいさつに行きました。

寝たきりの母は不機嫌でした。

それでも、ミツキを幸せにしてほしい、ということだけは言ったのでした。

やがて、ミツキが妊娠すると、周りから、いたれりつくせりの待遇を受けるようになりました。

介護施設の施設長から、おめでとう、と言われ、軽作業へ移されました。

そんなとき、母が、精神科の薬を大量に呑んで、病院へ運び込まれました。

施設長は、母をミツキの勤めているこの施設に移すことを提案してくれます。

施設は満杯のはずなのに、アカガミで妊娠したから特別に大事にされるのか、とミツキは不信感を覚えます。

サツキもミツキも、しだいに、あまりにも大事にされることに漠とした不安をいだくようになります。

そんななか、唐突に、出産する場所への引っ越し命令が届いたのでした。

【結】アカガミ のあらすじ④

出産、そして……

ミツキの出産予定が近づき、出産にそなえた住居への転居命令が来ました。

未明に業者が来て、引っ越し作業をすべてやってくれました。

ミツキの持っている車さえも運んでくれるといいます。

ふたりは用意された高級車に乗って、新しい住居へ連れていかれます。

そこは、都心にありながら、緑に囲まれた低層マンションです。

敷地内に立派なメディカルセンターもあります。

先に来ていたハルノは、もう子供を産んで幸せそうです。

ミツキは産休に入るにあたり、休みの間も、母の様子を見に施設に来たいと願い出ますが、施設長に拒否されました。

感染症の危険があるから、というのがその理由です。

まわり中が、無事に子供を産むように、大事に大事にミツキを扱っています。

サツキはなんだか息苦しいと言います。

やがてミツキは破水し、メディカルセンターへ運ばれます。

そのとき、サツキは外でばらまかれたビラを入手していました。

そこには、アカガミで生まれた子は国に取り上げられる、と書かれていたのです。

ミツキは無事に出産しますが、心臓が少し弱いから、ということで赤ん坊は集中治療室へ入れられました。

二日後、その赤ん坊は突き返されました。

不適合な子供だから、親子ともども、施設から出ていけ、というのです。

子供が泣くので、ナースコールしても応答はなく、ナースセンターへ行っても無視されます。

マンションへ戻ろうとしても、もはや送ってくれる車はなく、雨に濡れて帰ってみると、受付の者たちは冷淡です。

そのときサツキは、子供の指が六本あることに気づきました。

このせいで不適合なのだと思いました。

部屋に戻ると、アカガミから提供された家具も道具も、すべて運び出されていました。

まさに掌を返したような冷淡さです。

親子三人がミツキの車で居住区を出ます。

天国のような暮らしから追い出されたことに、ミツキは嘆きます。

しかしサツキは、この指のおかげで助かったのだと、むしろ喜ぶのでした。

アカガミ を読んだ読書感想

若者が恋愛に興味をなくした時代を描いた近未来SFのような小説です。

なかなか目のつけどころが鋭いなあと思いました。

現在、若者の草食化とか晩婚化が言われています。

これについては、若者の経済状況の悪さが原因だとか、失敗して傷つきたくない気持ちが原因、というふうに説明されるのが普通です。

その考えの根本にあるのは、若者の本質的なところは昔と何も変わってはいないのだ、ということです。

しかし、もしかすると、若者は本質的なところで変わってしまったのかもしれません。

つまり、現実の若者は恋に臆病になったのではなく、もはや恋に無関心になったのかもしれないのです。

この小説では、その無関心さを、かなりデフォルメして、ひとつの物語に仕立てています。

そして、登場人物が恋に完全に無関心であるからこそ、恋のすばらしさを知っていく過程が、読者の目に新鮮に映る仕掛けとなっています。

それはまるでうぶな小学生が初恋をするような新鮮さなのです。

普通の恋愛小説とは一味違った恋愛を楽しめる小説だと思います。

また、衝撃的なラストも、読書人の興味を満足させてくれることでしょう。

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