著者:大崎梢 2020年5月に光文社から出版
さよなら願いごとの主要登場人物
琴美(ことみ)
10歳。農繁期に手伝いに来る佐野隆に懐いている。
佐野隆(さのたかし)
琴美の父の知り合い。フリーの雑誌記者で、琴美の家の手伝いに何度か訪れている。
祥子(しょうこ)
中学3年生。片思いの相手である拓人の父親と、自分のの母親が密会していたことを知り、真相を探ろうとする。
紗也香(さやか)
高校2年生。新聞部の取材で地元の廃ホテルを調べるうち、ある殺人事件との関連に気づき、謎を追う。
さよなら願いごと の簡単なあらすじ
琴美は、農繁期に手伝いに来る佐野の不審な行動に気づき、後をつけたところで見つかってしまいました…祥子は母親の不倫疑惑を追及するうちに30年前の殺人事件について知ります。
被害者は母親の友達で、その事件についてある人と会うことになったとの電話が途切れてしまいます…新聞部の紗也香も地元の廃ホテルについての取材で同じ殺人事件を知り、新聞部員たちと祥子たちも合流し、事件の真犯人に迫り事件解決へと導きました。
さよなら願いごと の起承転結
【起】さよなら願いごと のあらすじ①
小学生の琴美は父の知り合いである佐野隆が農繁期に祖父の手伝いに来るのを楽しみにしていました。
初めて佐野が来たとき、琴美の友達の光弘とチカが遭遇した幽霊事件を見事な推理で解決してくれたからです。
夏休み、光弘の家で盗難騒動がありました。
祖母の指輪と手紙がなくったのです。
琴美たちはちょうどその頃また手伝いに来た佐野に相談しました。
佐野の推理によって、祖母の友人の夫の浮気疑惑が関連していることが分かり、なくなった指輪と手紙も発見、佐野は友人夫妻のいざこざまですべてを丸く収めてくれたのでした。
ところがある日琴美は佐野が見知らぬ男ともめているところを目撃してしまい、佐野の正体について疑念を抱き始めます。
そして別の日、佐野が昔作業者の寮として使われていた廃屋に入っていくところを見かけ、後をつけます。
うっかり奥まで入り込んでしまった琴美は戻ってきた佐野に見つかってしまいました。
琴美の肩に佐野の手がのびました。
【承】さよなら願いごと のあらすじ②
中3の祥子は同じクラスの土屋拓人に片思いしていました。
ある日拓人から「話がある」と呼び出されますが、いつも応援してくれていた親友の美奈に「やめた方がいい」と言われます。
美奈の言葉を振り切って会いに行くと自分の父親と祥子の母親が不倫しているかもしれないと打ち明けられたのです。
母が不倫などするはずがないと思った祥子が母親を問い詰めると、30年前の殺人事件について話し始めました。
殺されたのは10歳の女の子、自分の一番の仲良しだったと。
拓人の父親も同級生で、新聞社に勤めていることから事件の真相が聞けると思い連絡を取って会っていたのだと。
当時、大島保という人物が容疑者として逮捕されたが、無実を訴え続け、裁判の途中で病死してしまったらしいのです。
祥子の母親は親友を亡くしたショックで郷里を避けて過ごしてきたが、縁あって町に戻って暮らすようになり、亡くなった親友のためにやり残したことがあると感じているようでした。
後日祥子が帰りの遅い母親を心配していると母親から電話があり、「会いたい人と会えることになった」と言われた後連絡が途絶えてしまいました。
【転】さよなら願いごと のあらすじ③
高校の新聞部の部長である紗也香は今年の文化祭で発表する新聞のテーマに地元の廃ホテルについて調べていました。
新道建設を見越して建設していた大型ホテルでしたが、町を挙げて誘致運動をした新道のルートが隣町に変更になってしまったため、途中で建設が中止されてしまったというのです。
新聞部のOBである土屋や知り合いのつてをたどって調べていくうちに不自然な事実が次々に明らかになりました。
選挙では新道誘致を公約にそぞれの町から候補者が出て、紗也香の町の候補者が当選したにもかかわらずルートが変わってしまったこと、廃ホテルの施主は負債を抱えてしまい経営していた老舗旅館が倒産したのにその後裕福な暮らしをしていること、反対に施主の妻は老人ホームで寂しく生涯を閉じたこと。
さらに、実はルート変更は選挙の1年前に決まっていたことも判明しました。
そしてホテル計画に対して施主夫妻それぞれに正反対の助言をしていた占い師がいたことが分かりました。
その占い師とは、紗也香の祖母でした。
事情を聴きに祖母の経営する喫茶店を訪れた紗也香たちは、そこで30年前の児童殺害事件の容疑者大島保の息子と遭遇します。
【結】さよなら願いごと のあらすじ④
30年前の事件についても調べずにはいられなくなった紗也香たちは、事件現場付近を実際に訪れてみました。
これといった収穫もないまま引き上げる途中、新聞部OBの土屋の家を訪ね、土屋の中学生の息子である拓人と出会います。
拓人とそのクラスメイトの祥子に会って、30年前の事件について情報を得ることができました。
被害者は、土屋と祥子の母親の同級生で、近くの川に捨てられた遺体は下流の橋付近で発見されたということでした。
ほどなく逮捕されたのは近くの農園で働いていた季節労働者の大島保で、寝泊まりしていた寮にあった大島の荷物から女の子のもちものが発見されたことが逮捕の決め手となったのでした。
ちなみに同じ寮にいた労働者は大島の他に2人いましたが、どちらもアリバイがあり容疑者からは外されたということでした。
祥子の母親の帰りが遅かったあの日会っていたのは大島保の息子で、事件の詳細を聞いていたのです。
紗也香たちは廃ホテルの取材中に耳にした、事件の目撃者の話を思い出し、会いに行きます。
倒産した老舗旅館の仲居だったその女性は当時女の子と若い男が一緒に歩いているのを目撃し、その様子を絵に描いて残していました。
その絵の男は当時農園でアルバイトをしていた高校生で、のちの選挙で新道誘致をうたって当選した議員、糸崎であることが分かります。
紗也香が農園の主に話を聞きたいというと、祥子が農園の孫娘と連絡が取れると言い、電話をかけると、祖父が男に呼び出されて車で出かけるところをいぶかしく思い友達と一緒に車に忍び込んだと言います。
彼女らの身の危険を感じた紗也香たちは必死に後を追い、農園の主の命を狙っていた糸崎のしっぽをつかむことに成功し、孫娘のチカとその友達の琴美も救出できました。
琴美が懐いていた佐野は、母親の旧姓を名乗っていた大島保の息子で、あの日琴美が佐野に見つかった後、佐野から真実を明かされていたのでした。
さよなら願いごと を読んだ読書感想
4話からなるこの作品は、1話、2話、3・4話で登場人物がガラリと変わり、時系列も曖昧に描かれています。
そのため、1話の琴美が殺されてしまい、2話はその30年後であるかのように読者のミスリードを誘います。
3・4話も「30年前」というキーワードにより、2話と同じ時間軸であることが分かりますが、そこここに違和感を感じさせる設定の描写があり、読者は一度混乱に陥り、そこから全話がが同じ時間軸であることに徐々に気づかされていくのです。
巧妙な設定と周到に張り巡らされた罠に心地よく引っかかり、最後にすべての罠から抜け出せた解放感がたまらない作品です。
コメント