著者:松岡圭祐 2020年10月にKADOKAWAから出版
高校事変IXの主要登場人物
優莉結衣(ゆうりゆい)
17歳、高校3年生。テロ事件を起こして死刑となった半グレ集団のボス優莉匡太の次女。幼いころからテロ集団に育てられ、武器の知識と戦闘能力を持つ。
田代勇次(たしろゆうじ)
17歳。一家そろってベトナムから帰化。バドミントン選手として有名になった。旧名、グエン・ヴァン・チェット。
三井和美(みついかずみ)
30歳。もと武蔵小杉高校の教師。離婚して敷島姓からもとの三井姓にもどった。
松崎美緒(まつざきみお)
22歳。川崎総合病院に勤務する女性看護師。
嶋倉(しまくら)
60代。川崎総合病院の外科医長。
高校事変IX の簡単なあらすじ
田代ファミリーの最後のひとりとなった勇次は、民家を襲い、支援する医師の手を借りて、復讐の機会を狙っていました。
一方、結衣は警察の監視下におかれ、ほぼ軟禁状態です。
ストレスが高じて高熱を発した結衣ですが、三井和美の夫が殺されたニュースを見て、和美に迫る危険を察知します。
和美をはさんで、結衣と勇次の対決が始まります……。
高校事変IX の起承転結
【起】高校事変IX のあらすじ①
田代ファミリーの最後のひとりとなった勇次は、かつての武蔵小杉高校事変被害者救済基金に寄付した名簿をたどって、川崎区の長谷部宅を訪れました。
同情をかってあがりこんだ彼は、長谷部夫妻を殺し、ひとり娘の琴奈を縛りあげます。
それから自分に協力してくれる主治医の嶋倉を呼びました。
嶋倉は地元の不良たちをつれてきました。
勇次は不良たちに指導して、3Dプリンタで作った拳銃のパーツを組み立てさせます。
この武器を使って、勇次はまず敷島和美を殺すつもりでいます。
その和美は夫と離婚し、旧姓の三井にもどっています。
その和美に、元の夫から電話がきました。
様子が変です。
元夫に代わって勇次が電話に出て、和美に公園へ来るように言います。
和美が公園へ行ってみると、元夫は焼き殺されていました。
一方、結衣は、警察による厳重な監視下に置かれていました。
そんななか、結衣は発熱して入院します。
医師はストレスが原因の発熱と診断し、結衣は退院することになります。
そのとき結衣は、テレビのニュースで、和美の元夫が焼き殺されたことを知って、和美に危機が迫っていると考えます。
病院から脱走した結衣は、和美に会って、高校事変被害者救済基金にアクセスするIDとパスワードを教えてもらったのでした。
【承】高校事変IX のあらすじ②
結衣は武蔵小杉高校被害者救済基金の名簿と、田代勇次ファンクラブの名簿を突き合わせ、その他の要素を考慮して、川崎区の長谷部恭子にあたりをつけました。
長谷部家を訪れると、はたして夫妻は殺されており、娘の琴奈が縛りあげられていました。
結衣が琴奈の縄を解くと、琴奈は勇次が潜ませていた果物ナイフで自殺してしまいました。
結衣は床に転がった弾丸の被甲から、勇次が、医療用の高性能の3Dプリンタを使って拳銃のパーツを作っていると推測します。
調べてみると、神奈川県下では川崎総合病院が3Dプリンタを持っていることがわかりました。
夜間、川崎総合病院へ忍び込むと、嶋倉が3Dプリンタを使って拳銃のパーツを作っていました。
結衣は嶋倉に拳銃を向けますが、やってきた松崎美緒看護士を人質にとられて、身動きがとれなくなります。
結衣は筋肉を麻痺させる注射を打たれ、美緒とともに公園へ運ばれます。
美緒はジャングルジムに縛りつけられ、結衣の体には電極がつけられます。
嶋倉は結衣の体に電流を流し、筋肉の動きをあやつって、美緒を射殺させようとするのでした。
しかし結衣は最後の力をふりしぼり、ねらいを外したのでした。
意識を失った結衣が気がついたところは病院でした。
美緒が証言してくれたおかげで、逮捕されずにすみました。
警察は結衣を個室につれていき、勇次とテレビ電話で話させます。
勇次は、和美の居場所を教えないと市民を殺す、と脅しますが、結衣は知らないとつっぱねます。
続いて美緒が連れてこられ、勇次と対峙することになりました。
勇次はいろいろ訊きますが、美緒は満足に答えられません。
勇次は、結衣を弁護する人権派弁護士の須永と、捜査一課の加納警部補をテレビに出し、加納を撃ち殺しました。
勇次は、当面は美緒としか話さないと言いつつ、結衣も近くに待機させておくように指示します。
勇次と美緒の不毛のやりとりに、結衣はしだいに疑問を抱きます。
【転】高校事変IX のあらすじ③
結衣はついに真実を見抜きました。
テレビ電話の勇次は、途中から録画になっていて、美緒が合わせているのです。
美緒は実は嶋倉の仲間だったのです。
勇次の目的は、和美の居場所をさぐり、そこを襲撃する時間をかせぐことだったのです。
また結衣を足止めしようという考えもありました。
結衣は美緒を人質にして病院を脱出します。
戦闘モードになって、高熱はふっとび、頭が冴えてきました。
結衣は和美のいるホテルのとなりにある建築現場からホテルに移ります。
ホテルで勇次の一隊と銃撃戦を行い、和美を救い出しました。
和美の情報から、勇次が田代ホールディングスの本社ビルをめざしていることがわかります。
和美はそこに入ったことがあるため、しかたなくいっしょに連れて行くことにしました。
本社ビルに入ると、真っ暗ななかに、二人の警官の死体が転がっていました。
拳銃は抜き取られています。
その場に、須永弁護士もいました。
彼もまた勇次側の人間だったのでした。
田代ホールディングスの隠し財産を含む全データを記したメンパスというのがここにあると須永は言います。
敵方が攻撃してきて、防戦するうちに、和美は敵の手に落ちました。
結衣は5階へ来るように言われます。
5階では、嶋倉が和美を人質にして待っていました。
嶋倉は、結衣にメンパスをさがすように言います。
結衣がみごとに探し出してきたSDカードを、嶋倉はパソコンにセットしました。
そこで結衣が脅します。
勇次はとっくにメンパスを手に入れていて、それは偽物、起動すると、このビルがふっとぶ、と。
怯える嶋倉たちが避難したところで、結衣はSDカードが本物であることを確認し、パソコンを破壊します。
そして、勇次に対し、SDカードと和美を交換しようと交渉するのでした。
【結】高校事変IX のあらすじ④
結衣は、人質とSDカードを交換するため、夜の武蔵小杉高校へ行きます。
そこには、勇次、嶋崎医師、彼らの配下と、人質にとられた和美がいました。
結衣は偽物をまぜた複数のSDカードを提示し、勇次とバドミントン勝負をして、勇次が負けるたびにSDカードを一枚ずつ壊していきます。
最後の一枚となったところで、ついに和美を殺せという命令が出されます。
結衣は勇次と格闘の末、和美を奪回し、グランドを逃走します。
しかしライフル銃で狙撃され、重症を負った和美をつれて、LL教室に逃げ込みました。
そこへ勇次の配下がやってきて戦っているすきに、勇次が和美をひきずっていきます。
追いついた結衣を、勇次は3Dプリンタ製の拳銃で撃ちます。
しかし本物とは違い、じきに撃てなくなりました。
その拳銃を奪った結衣は、うまく扱うことで銃弾が発射できるようにして、勇次を撃ち殺しました。
ようやく学校の外に救急車とパトカーがやってきました。
和美に逃げなさいと言われた結衣は、救急車に位置を知らせるために空に向けて一発撃ったあと、逃走します。
行先は、ベトナム人裏社会に君臨するディエン・チ・ナムのところ。
結衣は、前回のフェリーのお礼にと、隠し持っていた本物のSDカードを彼に渡しました。
ディエンから、生まれ変わる薬と称するものを飲まされて、結衣は眠ります。
目覚めたとき、結衣は武蔵小杉高校の排水溝に横たわり、警察に救助されるところでした。
ディエンに渡したSDカードは公開されており、それによって、田代ファミリーが結衣をおどして犯罪を犯させ、最後に武蔵小杉高校の排水路に結衣の死体を捨てる計画だったことがわかりました。
それらの偽情報は、ディエンが巧妙にSDカードを改ざんしたものでした。
これにより、結衣は警察に追われることはなくなったのでした。
高校事変IX を読んだ読書感想
第1巻からずっと続いてきた結衣対田代ファミリーの対決は、今回で終了しました。
人気があるせいか、著者は、次は優莉家の長男との対決を描いて、シリーズを続けていくつもりのようですが、いわば「高校事変・シーズン1」はこれにて終了です。
17歳の一介の女子高生が、銃をぶっぱなし、手近の物を使って武器を作り、襲ってくる敵と戦う、という荒唐無稽かもしれませんが、ハラハラドキドキさせられる、非常におもしろいお話でした。
しかめっ面をして読む小説も、それはそれでアリですが、こういう理屈抜きで楽しめる小説というのも、小説界には必要だと思うのです。
これに刺激されて、たくさんの作家さんが、めちゃくちゃ面白い小説を世に出してくれたらなあ、と願うのです。
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