著者:若竹七海 2011年1月に光文社から出版
ポリス猫DCの事件簿の主要登場人物
七瀬晃(ななせあきら)
主人公。島の派出所に朝9時から夕方5時まで勤務。組織内の面倒な人間関係とは距離を置く。
橘(たちばな)
警察を退職後に警備会社に再就職。かつては強行犯に所属していて鋭い勘は衰えていない。
綿貫(わたぬき)
代々と続く神社の宮司。島の開発にも積極的。
森下美砂(もりしたみさ)
綿貫の孫娘。修行中の身だがよく寝る。
花園譲五(はなぞのじょうご)
金で動く何でも屋。やることなすこと失敗ばかりで前科も多い。
ポリス猫DCの事件簿 の簡単なあらすじ
神奈川県沖の小さな島に赴任してきた七瀬晃は、警官バッジを付けた猫・DCとコンビを組んで次々と事件を解決へと導いていきます。
春のお祭りでは盗難事件、夏には不発弾の発見と空き巣未遂、秋には海外からやってきた猫の誘拐、冬になると出現する雪男。
観光客が増えるに連れて人員の不足が懸念されていきますが、当分のあいだは1人と1匹での勤務体制が続いていくのでした。
ポリス猫DCの事件簿 の起承転結
【起】ポリス猫DCの事件簿 のあらすじ①
神奈川県葉崎半島の西に位置する砂渡島は、人口よりもたくさんの猫が住んでいることから「猫島」と評判でした。
観光客が押し寄せることによってトラブルも多くなり、葉崎警察署は臨時の派出所を設置して七瀬晃を送り込みます。
イメージアップのために署長から星章を与えられて七瀬の相棒に任命されたのは、たまたまこの派出所に出入りしていた野良猫のDCです。
毎年春になると開催される猫島神社の大祭では、参拝客に無料で小さな草色のもちが配られます。
虎柄のセータを着た年配の女性がのどに詰まらせて大騒ぎをしていましたが、警備員の橘が応急処置をしたために命に別条はありません。
その最中に社務所の売店で店番をしていた森下美砂が、居眠りをしているあいだに24金製の猫像を盗まれてしまいました。
元刑事の橘は虎柄セーターがもらった草もちを食べずに、境内でこねくり回していたことに不信感を抱きます。
彼女が口から出したもちの入ったポリ袋をくわえてきたのはDCで、中身を確認してみると黄金に輝く猫像です。
病院に搬送された虎柄セーターを捕まえるために七瀬は飛び出していきますが、DCは派出所の座布団の上でぬくぬくと丸まって動きません。
【承】ポリス猫DCの事件簿 のあらすじ②
猫島神社で宮司をしている綿貫は観光資源のために温泉を掘る事業を始めましたが、第二次大戦中にアメリカ軍が落とした1トン爆弾が出てきました。
葉崎市の市役所に不発弾の処理をするための対策本部が設置されますが、対岸に避難させるべき島民は30人ほどです。
問題は100匹以上も生息している猫をいかにして保護するかですが、1匹ずつ首輪を付けてキャリーケースで運ぶしかありません。
決行日は夏の気配をふくみ始めてきた6月の中旬過ぎで、午前10時10分前には猫が残っていようと船は出発してしまいます。
捕獲部隊は島の名産品をエサにしてケースに誘い込み、閉じ込められて暴れていた猫たちもDCににらまれた途端に大人しくなりました。
「ゾウアザラシ引っ越しセンター」という聞き慣れない業者が、ダンボールを組み立てているのを目撃したのはパトロール中の七瀬です。
その正体は数日前から猫島が無人になるのを待っていたという空き巣のグループでしたが、顔中が猫の引っかき傷だらけになって倒れていたところを発見されて神奈川県警に引き渡されます。
【転】ポリス猫DCの事件簿 のあらすじ③
9月最後の日曜日に行われる猫の品評会は猫島の恒例行事ですが、どれだけ家族として愛されているかが審査では重視されていて品種や血統は問われません。
ペットグッズ販売店「G線上のキャット」のマダムは、今年はイギリスのマン島から女王さまと呼ばれるビクトリアを連れてくると張り切っていました。
飼い主はジェラルド・エヴァラードというエッセイストで、ペットとの共同生活を本にしてベストセラー作家になっています。
当日にマダムはビクトリアを七瀬に預けるとそそくさと帰っていき、エヴァラードは急用で帰国したそうです。
イギリスの猫にしては日本語に反応すること、スルメやかつお節を喜んで食べること、腹部が白いことを除けばDCにそっくりなこと。
七瀬がビクトリアを疑わし気に眺めていると誘拐事件が発生しましたが、犯人が連れ去ったのはマン島の女王ではなくDCの方です。
逮捕されたのは犯罪者を数多く輩出している花園一家の譲五ですが、裏で糸を引いていたのはお店の経営で苦しんでいたマダムでした。
違約金目的の狂言誘拐はあっさりと幕を閉じて、後日七瀬が英文雑誌を取り寄せてみるとエヴァラードは猫ではなくフェレットを抱いています。
【結】ポリス猫DCの事件簿 のあらすじ④
不発弾が撤去され冬には温泉が湧き、民間に委託してオープンしたスパ施設は大盛況です。
周辺の見回りをしていた七瀬は、路上で頭を押さえている女性に声をかけました。
名前は平井泉美、住所は世田谷区、頭部を強打され奪われた額は友だちにごちそうするための3万円。
犯人は全身が汚れて雪男のようだという話ですが、目撃者は出てきません。
七瀬は平井の帽子が真っ白だったこと、財布の中にキャッシュカードがなかったことに着目します。
不潔な大男に頭を殴られたのに帽子がきれいはずはなく、カードを持たずに家を出たのは足りない分を銀行で下ろす気がなかったからです。
お金もないのに食事をおごると言って引っ込みが付かなくなった平井が強盗をでっち上げたのが真相ですが、七瀬は友人たちの前で恥をかかせるつもりはありません。
早々とフェリーに乗せて平井を帰した七瀬は、着任した頃に比べて猫島を訪れる人が増えていることを実感します。
本署の方では交代制が持ち上がっていて、今のような自由な公務員生活はやがで終わりとなるでしょう。
七瀬が何を不安なのかお見通しなDCは、鋭く首を振って「にゃっ」とだけ鳴くのでした。
ポリス猫DCの事件簿 を読んだ読書感想
ストーリーの舞台となる猫の楽園のような離島で、季節の移り変わりとともに巻き起こっていくドタバタ騒動の数多くがユーモラスです。
江ノ島を思わせるような豊かな土地柄と、愛くるしい猫たちが醸し出すのんびりとしたムードがうまくマッチしていました。
警察組織の出世コースには早々と見切りを付けて、住民や頼れるパートナー・DCとマイペースに島の暮らしを満喫する主人公の七瀬晃にも共感できます。
猫の駅長が現実の世界で活躍している今のご時世を考えてみると、キャットポリスが誕生するのもそう遠いことではないのかもしれません。
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