著者:横山悠太 2014年7月に講談社から出版
吾輩ハ猫ニナルの主要登場人物
五十田駿(いそたかける)
主人公。 「カケル」や「しゅん」などあだ名で呼ばれる。分からないことはすぐにネットで調べる1990年代生まれ。
K(ケー)
カケルの女友だち。メイドインジャパンの商品にこだわる。
朴沢男 (ぴやおずあなん)
カケルの小学校からの友人。アニメやゲームに詳しい。
五十田升 (いそたのぼる)
カケルの父。年下の中国人女性と結婚して息子を授かった。趣味は野球と読書。
吾輩ハ猫ニナル の簡単なあらすじ
「カケル」こと五十田駿の母親は上海に住んでいる中国人で、亡くなった父親は日本人です。
国籍が日本人のカケルは20歳を迎えるまでは、定期的に日本へ行ってビザの更新をしなければなりません。
大学進学を控えた18歳に最後の手続きを終えたカケルは、秋葉原観光を楽しみ完成が目前のスカイツリーを眺めつつ帰路につくのでした。
吾輩ハ猫ニナル の起承転結
【起】吾輩ハ猫ニナル のあらすじ①
上海の中高一貫校を卒業したカケルは、今年の9月から蘇州市の科技学院に通うことを決めました。
蘇州駅からタクシーに乗って大学のある西の方へと向かい、途中で立ち寄った不動産屋に紹介してもらったのは団地の一画にあるアパートです。
デパートで生活用品一式を購入して、インターネットも設置してもらいます。
団地の中にはラーメン館や湖南料理のお店や、シシカバブーの屋台まであるので食事には困りません。
ライオンがうつぶせになったような奇妙な形をした「獅子山」、呉王の夫差が父親の魂を静めるために建立したという「虎丘。」
入学式が始まるまでは時間は幾らでも有り余っているので、市内の観光スポットを巡ってみたり歴史的な名所を訪ねて歩きました。
カケルが見つけたのはずいぶんと静かな公園で、白い壁に赤いペンキで書かれているのは2年前の北京オリンピックのスローガン「同一個世界、同一個夢想」です。
グラブをはめたカケルは「同」の文字を的にして、延々と壁に向かってボールを投げます。
【承】吾輩ハ猫ニナル のあらすじ②
毎年学校が長期休暇に入るとカケルは父親のいる日本に行って、ふたりでキャッチボールをしました。
成長するにつれてカケルは日本語を忘れていきますが、無心でボールを投げ合う父と息子に会話は要りません。
カケルが日本の大学で学んでみたいと考え始めたきっかけは、父の本棚にあった夏目漱石の「吾輩ハ猫デアル」を読んでからです。
もうひとつの理由としては、日本製の服や雑貨が大好きなKという女性の影響もあります。
もともとKはカケルの小学校時代のクラスメート、朴沢男と一緒に上海の絵画トレーニングセンターで絵を習っていました。
レッスンの終わりにふたりはカケルの家に顔を出していましたが、沢男はすぐに絵画に飽きてしまいます。
ふたりっきりで遊ぶ機会が多くなったカケルとKは一緒に東京に行くことを約束しますが、娘を溺愛するKの両親には許してもらえません。
カケルの方も父が高校2年の春に亡くなったために留学話はうやむやになり、それっきりKとも会っていません。
【転】吾輩ハ猫ニナル のあらすじ③
蘇州に来てから20日くらいたったころ、上海の実家にいる母親から電話がかかってきました。
5歳の頃から中国で暮らしているカケルですが、国籍はれっきとした日本人で戸籍上の名前は「五十田駿」です。
いつもは母がカケルのビザの更新手続きを代理で済ませていましたが、今回はパスポートの期限が切れているために自分で1週間以内に日本まで出向かなければなりません。
母からはファッション雑誌とこしあん5袋を、沢男からは日本でしか手に入らないフィギュアと最新のゲーム機を。
しっかりとお土産まで頼まれてしまったカケルは、浦東国際空港から成田空港へと向かう飛行機に乗り込みます。
機内では隣の席に座っている日本人の旅行客から、韓国人と間違われてしまいました。
カケルのように混血の子供たちは、上海では「ハーフ」ではなく「ダブル」と呼ばれています。
国境の上にあぐらを組んでひとりで釣り糸を垂らして魚を獲って生きていくのがカケルの夢で、自分が日本人であろうと中国人であろうと構いません。
【結】吾輩ハ猫ニナル のあらすじ④
予約していた秋葉原のホテルでチェックインしたカケルは荷物だけを部屋に預けて電気街を散策しました。
免税ショップでこしあん、家電量販店でゲーム。
ファッション雑誌はすでに飛行機で隣に座っていた例の旅行客から譲ってもらっていますので、残りはフィギュアだけです。
専門店が密集している裏通りを探し回っていたカケルは、歩き疲れたために喫茶店に入ります。
獣のような耳を装着した若い女性店員に、いきなり「ご主人さま」と話しかけられたカケルは困惑してしまいました。
揚げ句の果てには店員が客に対して猫に成りきることを要求してきたために、会計を済ませて早々と外に逃げ出します。
土産もそろって手続きも無事に終えたカケルが、成田行きの列車の窓から見たのは2年後に完成予定のスカイツリーです。
2年たつとカケルは20歳になるために、ビザの更新のために日本に来る義務はありません。
「食いたければ食い、寝たければ寝る、それが猫」という漱石の言葉通りに、カケルは来たくなったらいつでも東京に来るつもりです。
吾輩ハ猫ニナル を読んだ読書感想
「ハーフ」ではなく「ダブル」という独特な言葉の響きが、国際都市・上海の開放的な風土を象徴していました。
学校の仲間たちからは「しゅん」、日本通の朴沢男やKからは「はやお」、母親や祖父母からは「ジュンジュン。」
相手や場所によってコロコロと変わっていく、主人公・カケルの名前とも相性がバッチリです。
そんなカケルが久しぶりの日本訪問で、メイドカフェにカルチャー・ショックを受ける場面に笑わされます。
車窓を流れるスカイツリーがちょっぴり切なく、敬愛する夏目漱石の言葉を胸に刻んで日本を後にするラストは心温まりました。
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