「ミライヲウム」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|水沢秋生

ミライヲウム

著者:水沢秋生 2020年8月に小学館から出版

ミライヲウムの主要登場人物

睦川凛太郎(むつかわりんたろう)
物語の上では、20歳から始まる。大学生。母親は1歳のときに亡くなった。好きな女の子の肌に触れると、不吉な未来が見えるという特殊体質の持ち主。

立花朋(たちばなとも)
凛太郎と同学年の大学生。女性。背が高くて脚が長く、成績抜群。凛太郎のことが好き。

樹(いつき)
凛太郎と同学年の大学生。女性。

堺井(さかい)
凛太郎と同学年の大学生。1浪して入学した。実家が家具屋。

正広(まさひろ)
亡くなった母の弟。弁護士。凛太郎の父と仲がよい。

ミライヲウム の簡単なあらすじ

睦川凛太郎は、好きな女性の肌に触れると、その人の嫌な未来が見える、という特殊な体質をしています。

その体質のために、女の子からの告白を全部ことわってきました。

ところが、20歳の大学生となり、同学年の立花朋に告白されます。

キスをすると、やはり彼女の嫌な未来が見えました。

それは彼女が死んでいる姿でした。

立花のことを好きになった凛太郎は、いっしょにいることで、彼女の未来を変えようとするのですが……。

ミライヲウム の起承転結

【起】ミライヲウム のあらすじ①

 

凛太郎の特殊体質

(注:全編が〈僕〉と〈私〉の二人の視点で交互に描かれています。

)〈僕〉睦川凛太郎は、一歳のときに母親を亡くし、父とふたりで暮らしています。

〈僕〉は不思議な体質をしています。

それは、好きな女の子の肌に触れると、その子の嫌な未来が見える、という体質です。

高校生のとき、〈僕〉はひとりの女の子を好きになり、キスしました。

そのとき、彼女が二股交際していた大学生とドライブして、事故に会う、という姿が見えました。

まもなくその通りの事故が起こりました。

〈僕〉は女性不信に陥り、それ以来、女の子から告白されても断っていました。

そんな〈僕〉も二十歳の大学生となり、同学年の友人たちから、ムッちゃんと呼ばれて、楽しく過ごしています。

姓が睦川だからムッちゃんです。

友達のなかに、やけに〈僕〉に突っかかってくる美人さんがいました。

立花朋です。

その年の暮れ、ひょんなことから、〈僕〉と立花はふたりでカウントダウンイベントに参加します。

実は立花には好きな人がいました。

それはムッちゃんだというのです。

〈僕〉たちはキスしました。

とたんに、立花が死んでいる姿が見えてしまったのでした。

一方、〈私〉の話です。

〈私〉はムッちゃんを好きになってしまいました。

告白すべきかどうか迷って、悶々とします。

でも、勇気をふりしぼることにしたのでした。

さて、再び〈僕〉ですが、正月があけ、〈僕〉は立花と会いました。

立花は、暮れに告白したことへの返事を求めてきました。

でも、今すぐでなくていい、と逃げだしました。

〈僕〉は立花のことが好きでも嫌いでもありません。

断ろうかとも思いますが、あのときに見えた立花の死んだ姿を思い出します。

そして、自分がかかわることで、彼女の未来を変えられないだろうか、と考えるのでした。

【承】ミライヲウム のあらすじ②

 

彼女を守る決意

ムッちゃんから「僕も君と同じ気持ちだ」と返事があり、〈私〉たちは付き合い始めました。

バレンタインデーに〈私〉はぶかっこうな手作りチョコレートをプレゼントしました。

キスすると、ムッちゃんは、やけに真剣な顔をしたのでした。

さて、三月になり〈僕〉のまわりでいろいろ動きがありました。

友人の堺井は、大学をやめて家具職人に弟子入りしました。

立花は、大学院へ進学して、研究職をめざすと言います。

〈僕〉は、しだいに立花のことを大切に思うようになっていました。

そして四月、立花と花見をしに行ったとき「立花のことをもっと知りたい」と、自分の気持ちを話します。

このときから、〈僕〉は、どうやってでも立花の未来を変える、と心に誓ったのでした。

さて、夏が近づいてきて、ムッちゃんが〈私〉の部屋ですごすことも増えてきました。

しかし、彼は〈私〉の肌に触れようとしません。

お盆が来て実家に帰った〈私〉は、久しぶりに同級生の女の子と会いました。

彼女は妊娠して、大きなおなかをかかえていました。

ムッちゃんが消極的なことに悩んでいると打ち明けると、彼女は、あなたのほうから積極的に行くように、とアドバイスしてくれました。

帰省からもどった〈私〉は、さっそくムッちゃんを呼び出し、ラブホテルへ誘います。

でも、ムッちゃんに拒否されてしまったのでした。

一方、〈僕〉は九月に入って、父といっしょに亡き母のお墓参りに行きました。

父は、ぼくに恋人ができたことに勘づいており、家につれてくるようにと言います。

〈僕〉が立花を家に呼ぶと、父はとても感激してくれました。

〈僕〉の部屋に来た立花とキスすると、やはり不吉な未来が見えました。

〈僕〉は自分の体質を呪う一方で、大切な人を失わないチャンスを与えられているのだと、解釈するのでした。

【転】ミライヲウム のあらすじ③

 

父の秘密

祖母が危篤だという連絡を受けて、〈私〉は急きょ帰省します。

帰ってみると、祖母はすでに亡くなっていました。

葬儀が行われ、すべてが終わってほっとしているときに、モテる弟が〈私〉に、カレシができたかと訊きました。

〈私〉は大いばりで「できたよ」と答えたのでした。

さて、〈僕〉は、立花の誕生日に、青い石のはまったピアスをプレゼントしました。

というのも、〈僕〉が見た未来では、立花は羽根型のピアスをして死んでいたからです。

違う形のピアスをしていれば、彼女の未来が変わるのではないか、と〈僕〉は考えたのです。

ところが、次に立花にキスして見えた未来では、彼女は、〈僕〉が贈ったピアスをして死んでいたのでした。

どうやっても未来は変えられないのか、と〈僕〉は悩みます。

そのとき気がつきました。

見えた未来で、立花は〈僕〉に微笑んでから死んでいます。

もし〈僕〉が離れれば、立花は〈僕〉に微笑むことはなくなり、死なずにすむのではないだろうか。

一方、〈私〉はムッちゃんといっしょにボートに乗りました。

ムッちゃんは自分には未来が見えるのだと話してくれます。

その人がいつ死ぬのかが見えるそうです。

〈私〉の未来も見えると言います。

そして「ぼくたちはいっしょにいたらダメなんだ」と言って去っていったのでした。

さて、〈僕〉は、父からガンのために入院すると告げられます。

さらに、父にも好きな人の未来を見る力があったことを教えられました。

昔、父は母と知り合い、母が子供を産むときに亡くなる未来を見て、いったんは身を引きました。

しかし、母はあきらめず、ふたりはいっしょになりました。

ふたりは未来を変えるために努力をし、母は子供(凛太郎)を産んでも、死ななかったのです。

それでも、ガンのため、一年後には亡くなってしましました。

父は言います。

立花さんが大切なら、あきらめずに立ち向かうのだ、と。

【結】ミライヲウム のあらすじ④

 

未来は変えられるのか?

〈僕〉は、久しぶりに立花に電話し、明日会いたい、と伝えます。

立花はいろいろ用があるため、夜の九時に、駅前の喫茶店で待ち合わせることになりました。

翌日、昼のうちに、〈僕〉と叔父さんが付き添って、父を入院させました。

叔父さんは〈僕〉を励ましてくれます。

「きっと空の上から姉ちゃんが力をくれるはずだ」と。

喫茶店で立花を待ちましたが、九時になっても来ません。

外は雪になりました。

そのとき〈僕〉は気がつきました。

以前見た未来の映像で、立花の体から出た血が鮮やかだったのは、背景が雪で白かったからだ、と。

そのとき、立花からメッセージがきました。

電車が遅れていることと、自分の今日の服装の写真です。

それは、〈僕〉が見た立花が死ぬときの恰好です。

彼女が死ぬのは今日なのだと〈僕〉は悟ります。

スマホは電池切れで使えなくなりました。

〈僕〉は外へ飛び出しました。

足をくじきながら駅へ行くと、スリップした車が、立花を含めた群衆に突っ込んでいきます。

〈僕〉は地面をけって、車の前へと飛び出しました。

一方〈私〉はムッちゃんとのことを思い出します。

結婚して、妊娠したこと。

死にたくない、と〈私〉は祈ります。

どうか神様、この子とムッちゃんといっしょにすごせる時間をください、と。

そうして、〈私〉は子供を——凛太郎を産んだのでした。

さて、〈僕〉は、車にはねられて入院しました。

父と同じ病院でした。

立花が毎日お見舞いに来てくれます。

〈僕〉は立花に結婚を申しこみます。

立花の手を握ったとき、もう、あの不吉な未来は見えませんでした。

ミライヲウム を読んだ読書感想

非常に柔らかく、くせのない文章で、とっつきやすく、サクサクと読むことができます。

物語は、ひとことで言えば「愛する人の死を回避しようとあがく青年の物語」ということになるでしょうか。

そこに、視点をふたつにすることで、叙述トリックが巧みに仕掛けられています。

ラストにきて、そのトリックの正体に驚かされはするのですが、それはどちらかというと添え物でしかありません。

添え物と言って悪ければ、給料に加えて支給されるボーナスと言い直しましょう。

叙述トリック(ボーナス)は確かにすばらしいのですが、それよりなにより、給料に相当するメインストーリーがすばらしい。

泣かされます。

人のひたむきさとか、愛とか、人生とか、そういった、生きていく上で大切なものが、きわめてプラス思考でとらえられており、自分の手で人生をつかもうとするひたむきさが、読んでいるこちらの胸を打つのです。

もちろん、そのようにゴチャゴチャぬかしていないで、単純に「泣けるお話」として楽しんでも、一向にかまわないと思います。

まとめますと、「読みやすくて泣ける佳作」だということです。

コメント