「銀色の国」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|逸木裕

銀色の国

著者:逸木裕 2020年5月に東京創元社から出版

銀色の国の主要登場人物

田宮晃佑(たみやこうすけ)
本作の主人公。自殺対策NPO法人<レーテ>の代表を務める青年。

井口美弥子(いぐちみやこ)
<レーテ>のメンバー。母が自殺した過去を持つ女性。

城間宙(しろまちゅう)
<レーテ>が運用するアプリの開発者。元ゲームクリエイター。

外丸くるみ(とまるくるみ)
VRゲーム「銀色の国」プレイヤーの少女。

アンナ
「銀色の国」の案内人の女性。

銀色の国 の簡単なあらすじ

自殺対策NPO法人の<レーテ>の代表として奔走する晃佑は、相談者の自殺という悲報が届きました。

自殺者の姉から渡されたものは、VRゴーグルでした。

晃佑はVRゴーグルと自殺者の因果関係について探る中で、恐ろしい計画について知ります。

一方、人間関係に悩み自傷行為を繰り返すくるみは、SNSで知り合ったフォローの紹介でVRゲーム「銀色の国」を始めます。

横溝正史ミステリ大賞受賞作家の最新作です。

銀色の国 の起承転結

【起】銀色の国 のあらすじ①

 

現実逃避

自殺相談に奔走する晃佑のもとに1人の女性が訪れます。

女性からかつての相談者だった弟の自殺を知らされ、弟が死ぬ間際まで使用していたVRゴーグルを手渡されました。

女性はVRゴーグルを使用し始めてから弟が可笑しくなったと話します。

VRゴーグルに自殺の原因が隠されていると考えた晃佑は、フリーのアプリ開発者で親友の城間に相談を持ち掛けます。

VRゴーグルを城間に調べてもらうと遠隔で操作によって全てのデータが消されていると報告を受けました。

それでも、VRゲームのソフトがインストールされていたことを突き止めます。

一方で、学校や家庭での対人関係に苦悩するくるみは、SNSへの病みツイートと自傷行為を繰り返していました。

数少ないフォロワーの1人からVRゲームを勧められます。

学生時代の嫌な思い出と母を失い粉われた軽い現実逃避のつもりでくるみはVRゲーム「銀色の国」を始めます。

アンナは「銀色の国」の案内人で、くるみに国のシステムや他のプレイヤーとの関わり方を教わりました。

レトロなゲームや可愛いペットがある「銀色の国」はまさにくるみにとって唯一の安らぎとなりました。

【承】銀色の国 のあらすじ②

 

ゲーム世界

案内人のアンナの丁寧な手解きによりくるみはすぐに「銀色の国」に馴染みます。

他のプレイヤーもくるみ同様に現実世界に疲弊した人々だと教えられ、親近感を抱きます。

美しい世界の魅了されたくるみは、VRゲーム「銀色の国」に入り浸るようになります。

会話こそできないもののそんなある日、「銀色の国」の王からミッションを与えられます。

内容は、身近で高い建築物の写真というものでした。

ミッションを達成するために久しぶりに外出した先で、くるみはかつての恋人、牧野翔太と再会します。

翔太と他愛もない会話を交わす中で、くるみは希望を抱きました。

今の現実から脱却できると微かな希望を抱いだとき、「俺のこと、追いかけてる」と言われてします。

希望は砕かれ寒気を感じたくるみは翔太の前から逃げたしました。

城間と共にVRゴーグルの謎の探る晃佑は、同じNPO法人に所属する美弥子との関係がギクシャクしています。

理由は過去に児童ポルノ所持による逮捕歴のある城間に協力を仰いでいることでした。

一方で城間の積極的な協力もあり、ゲーム開発者を四人に絞れました。

調査を重ね、自宅から消え家族との連絡が途絶えている人物の特定に成功します。

早速、開発者の自宅に向かい、パソコンを調べるとメールの中に和久清二という画家とのやり取りが残っていました。

【転】銀色の国 のあらすじ③

 

ミッションを達成する喜び

VRゲームの調査が進むにつれて、美弥子との溝が深まるばかりでした。

それでも和久清二のホームページからコンタクトを試みた晃佑のもとに会って話がしたいと連絡がありました。

待ち合わせ場所にいたのは和久清二本人でした。

ある男から絵の注文を受けたと話す和久から似顔を受け取ります。

知り合いのNPO法人に似顔絵に似た人物を知らないか聞き込みます。

大阪のNPO法人の代表、今田が似た人物を知っていると連絡がありました。

教える条件として、美弥子と仲直りすることが条件でした。

VRゲーム「銀色の国」のミッションは日に日に難易度があがり、時間も深夜や明朝が多くなってきました。

飼っているペットが病気になり、薬を手に入れるためにくるみは積極的にミッションに挑みます。

その日のミッションは、【高い塔の上から見た景色を捧げよ】です。

近所で一番高いビルの屋上から地面を見下ろした時、恐怖も抵抗感もないことに気付きます。

くるみの中で死に対する恐怖が薄らいでいました。

同時期に晃佑のもとに、毎度可笑しな相談をする角中が現れました。

彼は、すまないと謝罪し本当の名は外丸だと頭を下げました。

外丸の相談は引きこもり自傷行為を繰り返す娘のことでした。

時折り外出するものの、言葉遣いや態度が日に日に荒くなっていると相談を受けます。

晃佑は、娘がVRゴーグルをしていないかと訊ねると、外丸は驚きながらも肯定しました。

外丸の案内で、晃佑は城間を引き連れて彼の娘に会いに行き、彼女から半ば無理やりVRゴーグルを引き剥がします。

VRゴーグルを除くとそこには赤や青で濁った世界が映し出されていたのです。

【結】銀色の国 のあらすじ④

 

辛いからこそから逃げる場所が必要

【結のあらすじ】美しかったはずの「銀色の国」は、淀んでいてこの世の終わりみたいな世界に見えます。

くるみから「銀色の国」についての聞き取り調査の中で、ゲームの目的が分かります。

それは、集団自殺です。

ミッションを重ねることで死へ恐怖を取り除き、自殺へ誘うゲームだったのです。

しかし、犯人の目的は分かっても、犯人への手掛かりは見つからないままです。

くるみになりすましゲームを探ろうとする晃佑でしたが、案内人のアンナにはすぐに暴かれてしまいました。

アンナはゲームのアナウンスで、プレイヤーに自殺するよう促します。

居場所を捜す晃佑にくるみはかつてアンナから言われたことを思いだします。

アンナのゲーム内の自宅への道順です。

アンナの案内はあまりにも不自然で、助けを求めるものだったのではないかと離します。

くるみの言葉を紐解き、知り合いのボランティアの手を借りて、晃佑は居場所を突き止めます。

城間と美弥子を引き連れて指定の場所に向かいますが、戸建ての家の中には、男性が倒れていました。

その男性は、晃佑達が探し求めていた犯人です。

すでに犯人は息を引き取り死んでいました。

「銀色の国」の王である犯人が死んでなお、ミッションは継続しています。

アンナの説得に試みますが、失敗します。

彼女と話す中で、犯人とアンナは辛い人々に逃避できる居場所を与えようとしていると知ります。

残り時間が迫った中で、くるみは自分がアンナに、そしてプレイヤーに語りかけます。

自分の境遇や「銀色の国」での出来事を話します。

「銀色の国」はプレイヤーの居場所だったのです。

くるみが話し終ると、他のプレイヤーは「いいね」を飛ばします。

薄暗く淀んでいた空に光が差し、青空が広がっていきます。

晃佑たちは集団自殺を食い止めることに成功します。

銀色の国 を読んだ読書感想

最新の技術でありまだ認知度の低いVRゲームと近年増加する自殺をテーマにしたミステリです。

本作は2017年にロシアで発祥の「青い鯨」が参考になっています。

VRゲームの謎を探る登場人物のそれぞれが過去に辛い経験を経ています。

美弥子は母が自殺し、城間は仲間に裏切られてゲーム業界を通報され、実家の柵から逃げたアンナとそれぞれが苦悩を抱えていました。

手の届く範囲しか救えないと考える美弥子は、全て救いたい晃佑が児童ポルノ所持での逮捕歴がある城間と交流を持つことを嫌っていました。

自殺者を扱う物語の中で、登場人物の正義感が全く異なる点に面白さを感じます。

この小説を読んだ後に、居場所について考えさせてくれる作品です

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