著者:江戸川乱歩 1987年9月に講談社から出版
怪人二十面相の主要登場人物
小林芳雄(こばやしよしお)
少年探偵である主人公。若いながらもどんな危機にも動じない冷静で勇敢な性格であり、明智からの信頼も厚い。探偵の七つ道具を駆使し、事件を解決していく。
明智小五郎(あけちこごろう)
天才的な頭脳を誇る名探偵。冷静ながらも挑戦的な性格であり、柔道三段の実力者でもある。本作では外国への出張のため後半を過ぎてから登場する。
羽柴壮二(はしばそうじ)
羽柴家の次男である小学生。二十面相を追い詰めた小林少年に憧れ、学校の生徒十人を集めて少年探偵団を結成する。
怪人二十面相(かいじんにじゅうめんそう)
数々の財宝と美術品を盗んできた大怪盗。犯行前に必ず予告状を送るという挑戦的な性格だが、人は一切傷つけないというこだわりがある。巧みな変装が最大の武器であり、二十面相の部下でさえその素顔は知らない。
怪人二十面相 の簡単なあらすじ
ある夜、羽柴家の大邸宅から怪人二十面相が六個のダイヤモンドを盗み去ってしまったという事件が起こりました。
それをきっかけに少年探偵・小林芳雄、そしてその師である名探偵・明智小五郎は、その巧みな変装と策略に惑わされながらも二十面相を追い詰めていきます。
そして、国立美術館に狙いを定めた二十面相はついに明智の誘拐を画策するのでした。
怪人二十面相 の起承転結
【起】怪人二十面相 のあらすじ①
麻布にある大邸宅に住んでいた羽柴壮太郎の元に二つの知らせが届きました。
一つは十年以上前に家出したままの長男・壮一からの帰るという手紙であり、もう一つはロマノフ王家由来の六個の大きなダイヤモンドを譲り受けるという怪人二十面相の予告状です。
壮太郎は厳重な警備を敷いていましたが、小学生の次男・壮二は二十面相が奪い去ってしまうという悪夢を見て、現実になるかもしれないと夢の中の二十面相が逃げた先に勝手に罠を仕掛けてしまいました。
その日の午後には壮一が帰ってきたので、壮太郎が壮一とともに書斎でダイヤモンドが入った箱を見張っていたところ、予告された時間になっても二十面相は現れませんでした。
しかし確認してみると箱の中にはすでにダイヤモンドがなく、さらに壮一が突然笑い出したかと思うと自分は壮一ではなく二十面相だと正体を明かし、ダイヤモンドとともに書斎前の廊下の窓から逃げ去っていきました。
ところが、二十面相はその先に仕掛けられたあの壮二の罠に足を取られてしまったうえ、罠を外せた頃にはもう警備員たちに囲まれる寸前でした。
とはいえ、二十面相は弾丸のように警備員たちの間を駆け抜けていき、ついにそのまま姿を消してしまいました。
さらに、その次の昼には壮二が行方不明であるとわかり、壮二を返してほしければ罠で負った傷への賠償として観世音像を要求するという二十面相からの封書が届きました。
【承】怪人二十面相 のあらすじ②
壮太郎は家族と話し合った結果、警察ではなく私立探偵の明智小五郎に相談すると決断しました。
ただ、明智本人は外国へ出張中であり、代わりに訪ねてきた助手の少年・小林芳雄に壮太郎が事件について詳しく語って聞かせたところ、しばらくして小林少年はある手段を考えついたと言いました。
その日の夜、約束の時間に二十面相の部下たちがやってきて仏像の入ったガラス箱をトラックに積み込んだのち、壮太郎たちは門の前に壮二の無事な姿を見つけました。
一方、戸山ヶ原へ行くと杉林の中の古い洋館では二十面相が仏像と対面していましたが、実はその仏像は小林少年の変装であり、小林少年は何も知らずに近づいてきた二十面相をピストルで脅してダイヤモンドを見事に取り返します。
さらに二十面相に隙をつかれて落とし穴から扉のない部屋に監禁されてしまっても、落ち着いて探偵の七つ道具の一つ伝書鳩を小さな格子窓から放って助けを求めました。
そして、小林少年はしばらくして駆けつけた中村係長率いる警官隊の助けを借りて無事脱出したのですが、二十面相自身は警察官に変装し、雇っていたコックを身代わりに突き出したのちその姿をくらましてしまいました。
【転】怪人二十面相 のあらすじ③
伊豆半島の村はずれの森にある「日下部のお城」と呼ばれる建物に住んでいた日下部左門の元に、その日の夜に秘蔵の名画をいただくという二十面相からの予告状が届きました。
そこで左門はたまたま近くの温泉旅館に訪れていた明智に依頼すると、しばらくして明智は三人の刑事とともに訪れ、刑事たちは名画室に入れて明智自身は左門とその部屋の板戸の前に座り込みました。
しかし明智と左門はすっかり眠ってしまい、そして目覚めた次の日の朝、すでに名画は一つ残らずなくなっていました。
実は、左門が依頼した明智は二十面相の変装であり、三人の刑事もその部下だったのです。
そのことを明かされて怒り狂う左門を縛りつけて残し、二十面相たちは去っていくのでした。
それから半月ほど経った日の午後、東京駅にはついに帰国する明智を出迎えに来た小林少年と外務省の辻野がいました。
二人が朝刊にあった国立博物館への二十面相の犯行予告について話しているうち明智の乗った列車が到着し、明智は降りるなり辻野に誘われて鉄道ホテルへ向かいましたが、実はその辻野は二十面相の変装だとわかっており、部屋に入るとすぐに言い当ててみせます。
そして博物館の所蔵品を盗ませはしないものの今は捕まえもしないと告げると脅しも足留めも切り抜け、外に出ていた二十面相に追いついたうえで逃がしてみせるのでした。
一方それを観ていた今西刑事はなぜ二十面相を逃がしたのかと明智を問いただしますが、二十面相が乗り込んだ自動車のナンバーを明智が覚えており、すぐにその自動車は発見されました。
しかし、車内にいたのは二十面相が変装の元にした松下庄兵衛本人であり、またも二十面相は姿をくらましてしまいました。
【結】怪人二十面相 のあらすじ④
明智は港区に住んでおり、妻・文代や小林少年たちと暮らしていました。
明智はホテルの一件以来外に二十面相の部下がいると知り、小林少年に二十面相の隠れ家を見つけるための考えがあると言いました。
次の日の夕方、明智家の前に座り込んだ物乞いは一人の男が明智ともめている様子を見て、帰ろうとするその男・赤井寅三に自分は二十面相の部下だと正体を明かしたうえ仲間にならないかと誘いをかけました。
赤井はその誘いを受けるとその夜には青山墓地へ騙されて来た明智の誘拐を他の部下たちとともに果たし、そのまま隠れ家へ招かれ、二十面相からも認められるのでした。
次の日の朝、小林少年はあの羽柴家の次男・壮二に誘われ、壮二が作った少年探偵団とともに明智を一緒に探し始めました。
ただ何もつかめないままとうとう予告された日になってしまい、国立博物館には警官隊に加えて警視総監と刑事部長までも訪れました。
総監と刑事部長は館長の北小路博士とともに館長室で予告の時間を待っていましたが、そこに突然あの明智が現れもうすべて盗み出されてしまったと告げると、陳列室に並ぶ所蔵品がすべて偽者だと示してみせました。
実は自分は赤井に変装して仲間になったうえで二十面相の部下たちに身代わりを誘拐させ、その隠れ家に潜入していたので今回の犯行方法がわかったのだと経緯を明かし、さらに明智はこの館長こそが二十面相の変装だとその手をねじあげました。
それでも二十面相は警察に引き渡されたのちまたも隙をついて逃げ出そうとしたのですが、小林少年たち少年探偵団が現れるなり一斉に飛び出し、二十面相を捕まえてしまいました。
そして、少年探偵団は皆両手を挙げて喜ぶのでした。
怪人二十面相 を読んだ読書感想
読んでみての一番の感想は明智小五郎の登場がかなり遅いということでしょう。
やっと出てきたと思ったら怪人二十面相の変装で、すっかり意表を突かれてしまいました。
ただ、度重なる二十面相の変装に対し、最後の最後で明智が変装をし返して二十面相を追い詰めるあたりは実にワクワクする展開でした。
また、小林少年も登場時のかわいらしい描写とは裏腹に明智が信頼するのも納得できる頼もしさで、二十面相に閉じ込められたときの落ち着きっぷりは憧れさえ抱いてしまいます。
怪人二十面相といえば読む前からその名前は聞いたことがあったのですが、やっぱりすばらしい作品で、読み応えたっぷりでした。
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