著者:江戸川乱歩 昭和34年11月に桃源社から出版
ぺてん師と空気男の主要登場人物
空気男(くうきおとこ)
本名は野間。本作の語り手。職にはついていない。好奇心が旺盛。記憶力は良くない。探偵小説などを好む。
伊藤錬太郎(いとうれんたろう)
プラクティカルジョークの愛好者。列車の中で空気男と出会う。紳士的。
伊藤美耶子(いとうみやこ)
錬太郎の妻。非常に美しい女性。ピアノを巧みに弾く。27歳。利口でひとあたりが良い。
酒巻(さかまき)
ジョーカークラブの会長。料理屋を営んでいる。
ぺてん師と空気男 の簡単なあらすじ
空気男とあだなされる冴えない男・野間は、あるとき列車で不思議な男性と出会います。
好奇心からその男性・伊藤を尾行したことにより、空気男は「プラクティカルジョーク」の世界へ引きずり込まれていくのです。
見知らぬ他人を巻き込んだ真相の良く分からないプラクティカルジョークの面白さに夢中になる空気男は、伊藤のたくらみに巻き込まれていきます。
ぺてん師と空気男 の起承転結
【起】ぺてん師と空気男 のあらすじ①
「空気男」と呼ばれている主人公の「わたし」は、列車の中で白紙の本を読んでいる男に気付きます。
興味を引かれた空気男が近寄ると、彼は、耳からかけた黒い紐を口にくわえています。
好奇心を抑えられなくなった空気男が質問すると彼は「柑橘類の胃液に及ぼす実験をしていてキンカンしか食べていない。
あとから胃液を採取するのだ」と答えます。
そして先刻の本について聞くと、男は本を手渡してくれたのですが、そこにはきちんと文字が印刷されていました。
不思議な男に興味を抑えられなくなった空気男は彼のあとを尾行しますがバレてしまい、宿へと招待されます。
男の名前は、伊藤錬太郎。
プラクティカルジョークというものを愛好しており、黒い紐も、白紙の本も、周囲を驚かすための手品だったというのでした。
本は白紙のものと、印刷されたもの2冊が用意されていたのです。
好奇心旺盛な空気男は、すっかり「プラクティカルジョーク」というものに心を奪われるのでした。
【承】ぺてん師と空気男 のあらすじ②
伊藤と空気男は親交を深め、頻繁に会いはじめます。
探偵小説が好きで、お互い特に仕事もしていなかったことから、気も合ったのです。
それには空気男が伊藤の妻に淡い恋心を抱いたせいもありましたが、何よりも空気男はプラクティカルジョークの虜となったのです。
伊藤と一緒に出掛けては、街中で見知らぬ人にプラクティカルジョークを行い、愉快な気持ちを楽しんでいたのです。
例えば金物屋に行って「本がほしい」と店員に伝えます。
当然相手は困り、「ここは金物屋だ」と説明するのですが「それは分かっている」と引き続きほしい本の話をするのです。
困り果てた店員が店主を呼びに行ったところで「果物用の小さいフォークがほしいといっているのだが」と話を変えるのです。
もちろん店員は呆気にとられます。
店員は、その日のことを生涯忘れることはないでしょう。
このようにして、周囲の人を巻き込みながら、伊藤と空気男はプラクティカルジョークを楽しむ日々を過ごしたのです。
【転】ぺてん師と空気男 のあらすじ③
伊藤の友人を巻き込みプラクティカルジョークを行い、周囲の人を驚かせて楽しんでいた伊藤と空気男の2人は、どんどん親しくなっていきます。
そして空気男と美耶子もまた親しくなっていったのでした。
伊藤の目を盗み、空気男と美耶子は、恋愛の真似事のような日々を送ります。
ところがそんなとき、必ず2人は、どこかで伊藤の気配を感じるのでした。
そんなあるとき伊藤が神戸へと旅立つことになります。
そのタイミングで、美耶子は空気男の住む部屋を訪れ、互いの気持ちについてはっきりと話題にするのでした。
美耶子の体をようやく手に入れて幸せな気持ちに浸っていた空気男でしたが、その幸せは30分と持ちませんでした。
気付くと伊藤が部屋の中におり、美耶子を連れ帰ってしまったのです。
そこへジョーカークラブの会長である酒巻から電話が入り「美耶子には手を出さないように」と念を差されます。
さらに数日後、酒巻は「美耶子の姿が見えない、閉じ込められているらしい」と空気男に伝えます。
美耶子の身を案じた空気男が伊藤家を訪ねると、伊藤は地下室で何かをセメントで埋めています。
埋められているのが美耶子であると感じた空気男は焦って掘り返そうとするのですが、そこにあったのは、ただの人形でした。
美耶子は無事でした。
そう、これもプラクティカルジョークの1つだったのです。
【結】ぺてん師と空気男 のあらすじ④
事件により、空気男は伊藤と距離を置くようになります。
しかも2か月ほどで伊藤は家を売り引っ越してしまい、行方も分かりません。
もしかしたら本当に美耶子は埋められているのかもと床下を掘り返してみたものの、そこには何もありませんでした。
そして戦争が起こり、終戦後、空気男は再び上京して、三流新聞の記者となります。
空気男は、社会部長から、最近話題となっている「宇宙神秘教」という新興宗教を探るよう命じられました。
教主に対面した空気男は驚きます。
なぜなら、そこにいたのが、伊藤錬太郎と美耶子だったからです。
空気男は別室に通され、伊藤と話をします。
驚いている空気男に、伊藤は、「2人の関係があそこまで行く必要はなかったが、あれは自分にとって一世一代のジョークだった。
戦争というものがなければ殺人事件の疑いがあるとして、世間全体を驚かせられたのに」と悔しがるのでした。
出会った直後から、そのために伊藤が策を練っていたことを知り、尊敬の念を抱きながらも空気男は自分を憐れむのでした。
ぺてん師と空気男 を読んだ読書感想
「ぺてん師と空気男」は、江戸川乱歩の作品でも有名なものの1つです。
紳士的で頭の良い伊藤の考えるプラクティカルジョークに、空気男はどんどん心酔していきます。
そして伊藤の妻にも、どんどん惹かれていくのです。
そのすべてが伊藤が仕組んだ「プラクティカルジョーク」であったとは驚きといえます。
空気男は伊藤を「友人」として見ていましたが、伊藤は最初からそうではなかったのです。
数年を経て再会した二人は何事もなかったかのように過去の謎解きをします。
その淡々とした伊藤の様子に、天才独特の怖さを感じずにはいられません。
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