著者:江戸川乱歩 2016年10月に有限会社ワイズネットから出版
パノラマ島奇談の主要登場人物
人見広介(ひとみこうすけ)
主人公。売れない小説家。飽きっぽく夢見がちな性格。
菰田源三郎(こもだげんざぶろう)
M県内に広大な田畑や工場を所有する。 人見と顔がうりふたつ。
菰田千代子(こもだちよこ)
源三郎の妻。年若く美しい。
角田(つのだ)
菰田家の総支配人。 源三郎に忠誠を誓う。
北見小五郎(きたみこごろう)
元編集者。 勘が鋭く探偵のまね事も得意。
パノラマ島奇談 の簡単なあらすじ
貧しい小説家の人見広介は自分と同じ顔をした大金持ち・菰田源三郎に成り済まして、孤島に巨大なパノラマを作り始めました。
菰田の妻・千代子に正体を気付かれそうになったために、彼女を殺害して遺体を人柱にします。
柱に付着していた千代子の髪の毛とお蔵入りしていた過去の小説によって、破滅を迎えた人見は自らの命を絶つのでした。
パノラマ島奇談 の起承転結
【起】パノラマ島奇談 のあらすじ①
人見広介は私立大学を卒業した後もこれといって仕事をしないで、山の手の学生街に友愛館という下宿に居候していました。
たまに翻訳の下請けをしたりおとぎ話や成人男性向けの小説を書いて、あちこちの雑誌社に持ち込んで何とか生計を立てています。
ある時にM県屈指の大富豪・菰田源三郎が40歳を迎える前に亡くなったことを、人見に教えてくれたのは大学生時代から仲のよい新聞記者です。
記者の話では菰田の顔形から背格好に声までが人見とそっくりだそうですが、もちろんふたりの間には血縁関係などありません。
菰田の両親はずいぶん昔に他界していて、あとは22歳の妻・千代子と東京の貴族に嫁いだ妹がいるだけです。
一方の人見も田舎に学費を援助してくれた兄がひとりだけいましたが、卒業後にはあっさりと見捨てられていて付き合いはありません。
人見は伊豆半島に向かう船に乗ると、署名をしたノートに辞世の句を残して海の中に飛び込みました。
翌朝には地方新聞の三面記事の片隅に、「小説家・人見広介の自殺」という小さな見出しが載ります。
【承】パノラマ島奇談 のあらすじ②
人里はなれた漁村まで泳ぎきった人見は、背中に結び付けてあった変装用具を着て菰田家代々のお墓がある寺へたどり着きました。
7日前に埋葬されたばかりの菰田の遺体を掘り返し指輪と葬儀用の白装束を脱がすと、幾時代も前の先祖の遺骨が眠っている共同墓地に放り込みます。
菰田の指輪と白装束を身につけた人見は道端で倒れたふりをしていると、近隣住民に発見されてたちまち大騒ぎです。
菰田家のお屋敷に運び込まれてから人見はしばらくの間は記憶を失くしたふりを続けていたために、総支配人の角田を始めとする雇い人たちは主人が埋葬後に蘇生したことを疑いません。
半月ほどたった頃には事業に復帰しても大丈夫との医師のお墨付きをもらい、人見は菰田の土地や財産をそっくり手に入れます。
人見の本当の狙いは菰田家の所有になっている沖の島という無人島に、自分だけの理想郷を建設することです。
島の中にはあらゆる都市や大自然の風景を忠実に再現した、無数のパノラマが完成しました。
【転】パノラマ島奇談 のあらすじ③
沖の島の工事が完成すると関係者を菰田邸に招待して宴会が開かれて、酔いつぶれた人見を介抱したのが千代子です。
介抱している最中に人見の体に夫とは違った特徴を見つけたようで、翌朝からは余所余所しく警戒心を強めていました。
人見は気晴らしに旅行に行こうと千代子を誘い出し、ふたりは島に渡って完成したパノラマの数々を見学します。
海の底をくり貫いて全面がガラス張りになったトンネル、杉の木を等間隔に配置した巨大な森林、美しい建造物が建ち並ぶ市街地。
その日からふたりはパノラマの国に永住することになり、菰田邸に帰ることはありません。
島には彫刻家や建築士ばかりではなく、踊り子や映画俳優までやって来て毎日のようにカーニバルが繰り広げられていました。
いつものようにパノラマを巡っていた人見は、島の中央にそびえ立つ円柱に寄りかかっていた男性を目撃します。
菰田源三郎の妹が嫁いでいる東小路伯爵に雇われた、北見小五郎という文学者です。
【結】パノラマ島奇談 のあらすじ④
北見はこの島に来るまで東京の雑誌の編集局で働いていて、人見が持ち込んできた「RAの話」という短編小説を読んでいました。
あまりにも過激な描写が多すぎるために編集長が原稿を握りつぶしてしまい、そのまま未発表で一般の読者の目に触れたことはありません。
小説の中の幾つかの場面とこの島の風景がまったく同じこと、人見の人相風体が菰田源三郎と生き写しであること。
人見が千代子を殺害して円柱を建てる時にセメントに混ぜて流し込んだことも、コンクリートの外にはみ出していた1本の髪の毛でお見通しです。
さすがの菰田家の資産もパノラマ島の建設で底をつきかけていて、あとひと月この生活を支えるくらいしか残っていません。
遅かれ早かれ破滅の運命が迫っていたことに気がついた人見は、花園の池の側に設置されていた巨大な黒い筒の中に飛び込みます。
筒は花火の発射口になっていて、人見の肉体は5色の光とともに粉々に砕け散ってパノラマ国に降り注ぐのでした。
パノラマ島奇談 を読んだ読書感想
30歳を過ぎても定職にも就かずに学生気分のままで下宿先に居座り続けて、ほそぼそと執筆活動を続けている主人公・人見広介がユーモラスです。
ある日突然に転がり込んできたチャンスを逃さずに、大胆不敵な計画によって大富豪の座を手に入れてしまう抜け目のなさも持ち合わせていて驚かされました。
周りを海に囲まれた島を一心不乱に改造していくエネルギーを、文学に役立てていたならば立派な小説家として成功したでしょう。
クライマックスで打ち上げられた美しくも残酷な1発の花火が、はかない人見の人生を象徴しているようで脳裏に焼き付きます。
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