町田康「どつぼ超然」のあらすじと結末をネタバレ

どつぼ超然

【ネタバレ有り】どつぼ超然 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:町田康 2010年10月に毎日新聞社から出版

どつぼ超然の主要登場人物

余(よ)
売れない作家。45歳。

どつぼ超然 の簡単なあらすじ

余は東京都内で細々と執筆活動を続けている45歳でしたが、仕事に行き詰まっていたために昨年の12月に思い切って田宮市へと引っ越します。余は気の向くまま地下鉄やバスを乗り継いで周平を散策してみますが、近隣住民からは余所者として白い目を浴びせられるばかりで一向に気分は晴れません。遂には人生そのものに絶望を感じて、自らの生命を絶つことにするのでした。

どつぼ超然 の起承転結

【起】どつぼ超然 のあらすじ①

余所者には冷たい温泉地

余は東京に住んでいましたが、仕事もプライベートもいまいち上手くいきません。

心機一転を図るために選んだ引越し先は、風光明媚な温泉地にして数多くの文化人から愛されている田宮です。

新しい生活をスタートさせた余は気の向くままに近所を散歩してみたり地下鉄で市内を巡っていましたが、行く先々で余所者として冷たい扱いを受けてしまいました。

バスの車内でも理不尽な出来事ばかりで居た堪れずに「お紺の松」という名前の停留所で下ります。

雄大な海辺の風景を目の前にした余は敗北感に打ちのめされて、45年の生涯に幕を下ろすために入水を敢行します。

砂浜から海へと歩き始めた余が目撃したのは、水平線の向こうにぼんやりと浮かび上がる島です。

【承】どつぼ超然 のあらすじ②

決死の覚悟で海を渡るものの

死を覚悟した余でしたが、浜辺には観光客が溢れかえっていて踏み切ることが出来ません。

どうせなら美しく静かな場所の方が好ましいため、周囲を海に囲まれていて自然が手付かずのまま残っている離れ小島は打って付けです。

島への唯一の交通手段である船に乗り込むために、微かな汽笛の音が聞こえてくる湊の方角へと向かいました。

チケット売り場で運賃を支払い、2階建ての白い客船「チョーモンハッサン3世号」のタラップを上がります。

ようやく辿り着いた離島はマリンレジャー目的の若者のグループが多く、余はうんざりしてしまいます。

人気のない所を探しているうちに船着き場へ戻ってしまい、やむを得ず乗船して田宮へととんぼ返りするのでした。

【転】どつぼ超然 のあらすじ③

死への誘惑を断ち切る

船の舳先から現れた田宮の懐かしい街並みを眺めているうちに、微妙な気持ちの変化が湧いていきます。

余が選択したのは、いつか訪れる死の瞬間までありとあらゆる世俗に捉われることのない「超然」とした生き方です。

自宅に戻って相も変わらぬ暮らしを送っていたある日のこと、新聞の折り込み広告に紛れていた「ふれあい祭」のイベント案内を見つけました。

超然者でありながら人恋しさを感じていた余は、軽自動車を運転し開催地である盆地を目指します。

現地では屋台が立ち並んでいて、コンサート会場には聴衆が詰めかけていて大賑わいです。

豊かな自然に癒されながら人と人との繋がりの有難さを噛みしめていく余は、超然の更に先へと踏み出していくのでした。

【結】どつぼ超然 のあらすじ④

超然のその先へ

ウグイスの鳴き声が聞こえる季節には、余は例外なくうつ病気味になって落ち込んでしまいます。

憂さ晴らしをしようと思い付き、財布を片手に繰り出した先は田宮随一の繁華街です。

レストランで軽く腹ごしらえをしてからいざ遊興と意気込みますが、何から手を付けていいのか分かりません。

ギャンブルも夜遊びも経験してこなかった、これまでの自分自身の人生に物足りなさを覚えてしまいました。

悩んだ末に余が遊興先に決めたのは、かつての旅館であり現在は数多くの芸術作品が展示されている日本家屋です。

この宿に泊まった太宰治の名言「ただ、一さいは過ぎて行きます」を胸に抱きながら、余は自分の生きたいように生きることを決意し家路を急ぐのでした。

どつぼ超然 を読んだ読書感想

実在する人気観光地の鎌倉や江ノ島周辺を彷彿とさせるような、架空の温泉郷「田宮」の風景がノスタルジックでした。

せっかくの恵まれた土地柄を活かすことが出来ずに、相も変わらぬ冴えない日々を送ってしまう主人公がユーモアたっぷりでした。

バスや地下鉄などの公共の交通機関で、時折地域住民から冷たい眼差しを投げ掛けられてしまいます。

ありとあらゆる不条理かつ不愉快な出来事に見舞われていき、精神的にも肉体的にも追い込まれていく様子には胸が痛みました。1度は死を覚悟した主人公が、世間一般的な価値観や視線に捉われることなく流されるままにただダラダラと過ごすことを思いつく様子に笑わされます。

太宰治が今わの際に書き残した1948年の代表作「人間失格」に登場する、「ただ、一さいは過ぎて行きます。」

という名言にも何処か繋がるものがありました。

今の時代に多くの人が空気を読んで、他人の評価を気にしてしまうことへの鋭いメッセージも込められています。

あらゆる束縛から解き放たれた主人公が、クライマックスで見た風景が圧巻です。

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