【ネタバレ有り】生者と死者に告ぐ のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:ネレ・ノイハウス 2019年10月に東京創元社から出版
生者と死者に告ぐの主要登場人物
オリヴァー(おりヴぁー)
ホーフハイム警察署の首席警部。
ピア(ぴあ)
ホーフハイム警察署の首席警部。オリヴァーの部下。
キルステン(きるすてん)
10年前に脳死した女性。
ディルク(でぃるく)
キルステンの夫。
ディーター・パウル・ルードルフ(でぃーたー・ぱうる・るーどるふ)
医師。キルステンの臓器移植を担当。
生者と死者に告ぐ の簡単なあらすじ
ドイツのホーフハイムで一人の女性が射殺されました。
80メートル距離から頭を撃ち抜かれたのです。
ホーフハイム警察署のオリヴァーとピアはドイツでは珍しい射殺事件に当惑しますが、これは連続狙撃殺人の幕開けに過ぎなかったのです。
その後も次々と狙撃殺人が起きます。
犯人の目的が見えないなか、”仕置き人”と名乗る犯人から、警察のもとに死亡告知が送られてきます。
その告知を元に捜査を進めると、脳死と判断されて臓器を提供した女性の名前が浮かび上がってきます。
こうして、オリヴァーとピアは”仕置き人”の正体を探りつつ、過去に行われた臓器移植の真相に足を踏み入れていくのでした。
生者と死者に告ぐ の起承転結
【起】生者と死者に告ぐ のあらすじ①
クリスマスの気配が濃くなっていた12月19日に、犬の散歩をしていたインゲボルグという女性が狙撃されて射殺される事件が発生しました。
インゲボルグはまさに人畜無害という人で、誰かに殺されるような人物ではありませんでした。
この事件の翌日にはマルガレーテという女性が娘と孫の目の前でライフルで撃ち抜かれ、その数日後にマクシミリアンという音楽教師が父親の家の前で、同様の手口で殺害されます。
この事件を受けて、別の管轄所からネフという分析官が送られてきます。
事件を捜査するホーフハイム警察署のオリヴァーとピアでしたが、犯人の殺人パターンを掴むことができずに事件は最初から暗礁に乗り上げます。
応援にやってきた分析官のネフは、自意識だけ過剰で分析能力は行き当たりばったり、チーム内に波風を立たせるばかりで役に立ちません。
そんなとき、犯人から警察のもとへ死亡告知が届きます。
そこには、被害者が死ななければならなかった理由が書かれていました。
その内容はあまり具体的ではありませんでした。
被害者は、その家族が正しい行動を取らなかったり、不正を働いたから死ぬことになったと、犯人は述べていました。
そこでようやく被害者に共通点が見つかります。
マクリミリアンは十年前に心臓移植をされた患者でした。
その移植手術を行ったのが、マルガレーテの夫ディーター・パウル・ルードルフだったのです。
移植された心臓はキルステン・シュタードラーという女性のもので、インゲボルグの娘のレナーテは、キルステンが脳出血で倒れたときに、彼女の子供たちが助けを求めたにもかかわらず、救急へ通報することを怠っていたのでした。
【承】生者と死者に告ぐ のあらすじ②
オリヴァーとピアは、キルステンの家族が怪しいと睨み、彼らに会いに行きます。
こうして、容疑者として、キルステンの夫ディルク、息子のエーリク、娘のヘレンが捜査線上に名を連ねることとなりました。
特に怪しかったのがヘレンでした。
最初の被害者の娘のレナーテの話では、ヘレンが若い男とともにやってきて、脅すような言葉を吐いて去って行ったということでした。
警察はヘレンがプロの殺し屋を雇ったと考えましたが、エーリクの会社を訪れたときにその可能性は潰えます。
従業員の話ではヘレンは三ヶ月ほど前に自殺をしていたのです。
ヘレンにはハルティヒという婚約者がいました。
レナーテの前に現れたときにヘレンが連れていた男は彼でした。
ハルティヒは、金細工職人ですが以前は医者をしており、医師が遺族に圧力をかけて臓器提供を急がせるというやり方に不満を覚えて、医者をやめた過去があります。
ヘレンとハルティヒは臓器移植遺族の互助会HAMOという団体で知り合ったのでした。
警察が捜査を続けている間にも、”仕置き人”は犯行を続けます。
今度は約1km離れた位置から、ヒュルメートというパン屋の店員を射殺します。
彼女の夫は、キルステンを搬送した救急隊員でしたが、運転手を務めていた彼が救急車の車輪を溝に落とし、病院への到着が遅れたことが判明します。
オリヴァーはすべての殺人のときにアリバイがなく、供述も曖昧なエーリクを逮捕します。
しかし、さらに有力な容疑者が浮上してきます。
互助会HAMOの会長を務めるマルク・トムゼンです。
彼は元警察の特殊部隊に所属していて、仕事で何人もの人間を射殺しており、高い狙撃技術を持っていました。
オリヴァーとピアはトムゼンの元を訪問しますが、彼は銃を突きつけて二人を地下室に閉じ込めてしまいます。
救助はすぐにやってきましたが、トムゼンの姿はもうありませんでした。
【転】生者と死者に告ぐ のあらすじ③
二番目の被害者の娘カロリーネは、”仕置き人”の死亡告知のことを知り、母の死の責任が父ディーターにあると思うようになります。
父の秘密を突き止めるために独自の調査をしていた彼女は、ヘレンの友人のヴィヴィアンと接触します。
ヘレンは、自力で母親の臓器移植の真相を探っていて、そのことをまとめた手帳をヴィヴィアンに預けていました。
この手帳が警察の手に渡ります。
手帳には殺人ターゲットのリストも載っていました。
そのリストによれば、次の標的はベッティーナ・カスパール=ヘッセの家族でした。
警察はヘッセに警告のメッセージを送りますが、タッチの差で間に合わず、彼女の夫が凶弾に倒れることとなりました。
しかし、この事件では目撃者のカップルがいました。
しかも、二人は犯人の車のナンバーを覚えていたのです。
警察がその車の持ち主の家を訪れると、そこには逃走中のトムゼンの姿がありました。
オリヴァーはトムゼンを逮捕しますが、彼が”仕置き人”と確定したわけではありません。
ピアはリストの次の標的として載っていたブルマイスター医師に会いに行きます。
ブルマイスターは年末年始のバカンスに出ており、ピアは空港で彼を迎えました。
護衛を申し出たピアでしたが、ブルマイスターはそれを断ってしまいします。
そして、空港から出たときに犯人に拉致されてしまうのでした。
一方、オリヴァーはトムゼンを尋問して、彼が犯人ではないと確信します。
もう一度、会議で容疑者を洗い直していたところ、思わぬミスが明らかになります。
キルステンの夫ディルクは、事件当時にアリバイがあったため容疑者から外れていましたが、その裏を取った人間がいなかったのです。
キルステンにはアリバイがあると出張していたネフは、手抜き捜査をしていて、ディルクの職場に電話すら入れていませんでした。
改めてピアが連絡すると、ディルクは二年も前に仕事を辞めていたことが明らかになりました。
【結】生者と死者に告ぐ のあらすじ④
ディルクの過去が徹底的に調べられ、彼は東ドイツ時代に国家人民軍の最優秀狙撃手として、三年連続で表彰を受けたことが明らかになりました。
同時に、キルステンの臓器移植が行われていた病院で、違法行為が行われていたことが判明します。
ディーター・パウル・ルードルフは人の血液を変える新薬の研究を行っていました。
この薬が完成すればどんなドナーの臓器でも自由自在に移植することができるようになる革命的な薬です。
ルードルフは動物実験の段階の試薬を患者に投与して、人体実験を行った結果、患者を殺してしまったのです。
研究が捗らず、スポンサーも撤退を検討していたときに運ばれてきたのがキルステンでした。
キルステンの血液型はO型で、どんな血液型の患者に臓器を移植しても拒絶反応がでません。
そこでルードルフは完全に脳死に至っていなかったキルステンの人工呼吸器を外して脳死状態にして、移植を行って拒絶反応が出ないのは研究の成果だと偽ったのでした。
これが病院側がひた隠しにしてきた真相だったのです。
オリヴァーとピアは殺人容疑でルードルフを逮捕します。
また、ブルマイスターは腕を切断された状態で学校の体育館で発見されます。
この切断には元医者のハルティヒが協力していました。
警察はハルティヒを逮捕しますが、ディルクは依然としてみつかりません。
オリヴァーは勘を働かせて、ヘレンの墓を調べるように命じます。
ディルクは墓のそばに薄着で横たわっていました。
その格好のまま一夜を過ごして凍死したのです。
そばにはオリヴァー宛てに手紙が遺されていました。
そこには謝罪の言葉が記されていました。
自らの手で罰を与えてきたが、それは結局、神様気取りのルードルフがやったことと大差ないと、最後に彼は後悔の念を抱いたのでした。
生者と死者に告ぐ を読んだ読書感想
最初から年配の女性が頭を吹き飛ばされるというショッキングなシーンから始まり、そこから次々と殺人が起きてあっという間にストーリーに飲まれました。
最初は犯人の動機が不明で、そこが気になってしょうがなかったのですが、死亡告知によって動機がおぼろげながら見えてきたところから話の質が変わったと思います。
そこまではスピード感あふれるサスペンスだったのが、関係者一人一人とじっくり向かい合う、容疑者と犯人の心理戦のようなものになっていったのです。
もちろんサスペンスフルな雰囲気は衰えていません。
犯人視点で描かれるパートは、ターゲットをじっくりと狙う犯人の心理が描かれています。
オリヴァーとピアは新しい犠牲者を出すのを阻止できるのか、ハラハラしながら読み進めることができました。
次々に癖のある怪しい人物が出てきて、読者を惑わす展開も続き、中だるみすることなく終盤までが描かれています。
登場人物がかなり多く、人間関係も複雑に入り組んでいますが、冒頭の人物表を見返せばあまり迷わずに読み進めていくことができるでしょう。
エンタメ性を持たせつつ、社会問題にもメスを入れているレベルの高い警察小説です。
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