著者:原田マハ 2012年1月に新潮社から出版
楽園のカンヴァスの主要登場人物
早川織江(ハヤカワオリエ)
ソルボンヌ大学で美術史を学び、26歳で博士号を取得。現在は美術館の監視員。美しく聡明な女性。
ティム・ブラウン(ティム・ブラウン)
ニューヨーク近代美術館の学芸部長。優しく男らしい男性。
コンラート・バイラー(コンラート・バイラー)
スイスに住む伝説のコレクター。ルソーを心から愛している。
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楽園のカンヴァス の簡単なあらすじ
スイスに住む伝説コレクターである富豪のコンラート・バイラーは、ルソーの名作「夢」に酷似した作品を所持。
バイラーはニューヨーク近代美術館のアシスタント・キュレーターであるティム・W・ブラウンを邸宅に招き、その絵が本物か否かを判定した者に絵を譲ると告げ、手掛かりとなる謎の古書を読ませる。
ライバルは日本人研究者の早川織江で、二人に与えられたリミットは7日間。
二人の天才が読み解いていく珠玉の絵画ミステリー。
楽園のカンヴァス の起承転結
【起】楽園のカンヴァス のあらすじ①
早川織江は岡山県にある大原美術館の監視員として働いています。
ある日、織江が学芸課長の小宮山に呼ばれ館長室に入ると、そこには宝尾館長と暁星新聞社の高野という男性が待ち構えていました。
ニューヨーク近代美術館(MoMA)が建て替えのため、コレクションをまとめて貸し出すことになっているのですが、大原美術館はアンリ・ルソー最晩年の代表作「夢」を日本に持ち込みたいと考えています。
「夢」を貸し出す条件として、MoMAの学芸部長であるチーフ・キュレーターのティム・ブラウンが織江を指名してきたのです。
織江はソルボンヌ大学卒26歳で博士号を取得。
ルソーの研究家としてその名を馳せ、ティム・ブラウンとも交流を持った時期がありました。
高野からニューヨークに同行するように言われた織江は、長い間ずっと閉じていたパンドラの箱が開くのを感じたのでした。
時は遡って17年前、ティム・ブラウンはMoMAのチーフ・キュレータートム・ブラウンのアシスタントをしています。
そんなティムの元へ、伝説のコレクターであるコンラート・バイラーの代理人から手紙が届きます。
その手紙はバイラーが所有するルソーの名作の調査依頼のため、ティムにバーゼルに来て欲しいという招待状でした。
ティムがバイラーの屋敷に到着すると、そこには日本人のルソー研究者の早川織江がいました。
そして二人がバイラーに面会すると、彼の所有する「夢を見た」の真贋を見極めて欲しいと依頼されます。
期間は7日間、7章からなる物語を1日1章ずつ読み、その上で判断して欲しいという条件でした。
真贋を見極めた者に取り扱い権を譲渡するという言葉で、二人は調査を始めることにします。
【承】楽園のカンヴァス のあらすじ②
一章:物語にはヤドヴィガという女性が登場し、その名前は「夢」に描かれている裸婦の名前と一致しています。
そして文末には「S」の文字。
ティムは織江と少しだけ話をして、その日は別れました。
二章:ティムは物語の中にピカソが登場したら一緒にワインを飲んでほしいと織江にもちかけるのですが、見事物語にピカソが登場し文末は「P」という文字がありました。
賭けに勝ったティムの元にオークションハウス「クリスティーズ」のディレクターであるポール・マニングから電話が入ります。
「夢を見た」の所有権を織江から勝ち取り、それをクリスティーズに引き渡すよう持ち掛けてきたのです。
ティムは断ろうとしますが、招待状が上司のトム宛かもしれないと疑いつつ誰にも内緒でブラウンという名前だけを使い、この屋敷を訪れていたことをマニングは全て知っており、断ればトムに話すと脅されます。
三章:物語の中ではヤドヴィガの元にルソーから次々と絵が送られてきますが、彼女は興味を持てず売り払っていました。
しかし夫であるジョゼフに言われ持ち込んだ画廊の店主のアドバイスにより、彼女はルソーの絵を手元に置くことにします。
この物語の文末は「O。」
物語を読んだあと織江とティムを動物園へ出掛けるのですが、ティムはそこでジュリエットという女性に話しかけられます。
彼女は「夢を見た」の下にピカソの青の時代の大作が眠っているという話と、織江が「夢を見た」を真筆だと証明したアンドリュー・キーツの愛人であるという二つの重要な話をしたのでした。
四章:ヤドヴィガがルソーのアトリエを訪ね、そこにある絵を美しいと感じて見ていると、そこへ画廊で予言した男・ピカソが現れヤドヴィガをルソーの女神だと言うのでした。
文末の文字は「A。」
この物語を読んだあと、バイラー・織江・ティムの三人は美術館へ出掛け、織江は明日には「ルソーの夜会」を読めるような気がすると口にしたのでした。
【転】楽園のカンヴァス のあらすじ③
五章:そこに書いてあったのは織江の言った通り「ルソーの夜会」での出来事でした。
ヤドヴィガはルソーに誘われて夜会に出席するのですが、敬意と軽蔑が入り混じる空気に耐えられず席を外してしまいます。
するとそこへ又ピカソが現れて「本気でルソーの女神になってほしい。
そして永遠を生きればいい」と謎の言葉を残すのです。
文末の文字は「S。」
その夜ティムは、バイラーの代理人・コンツからも、織江に勝たなければいけないと脅されます。
六章:毎日ルソーのアトリエを訪ねるようになっていたヤドヴィガは、作品を眺めながらピカソの言った「永遠を生きる」という意味が少し分かった気がしたのでした。
文末の文字は「I。」
ティムは文末に書かれた文字に「C」を加えて並び替えれば、「PICASO」となることに気が付きます。
そして織江はティムを散歩に誘い自分が身籠っていることを打ち明け、そしてお互い勝負には負けないと宣言するのでした。
7章:カンヴァスも持っていないルソーに、ピカソは自分が描いた青い母子像の絵の上に描けばよいとカンヴァスを差し出します。
そこへモデルとなる決心をしたヤドヴィガが現れますが、ルソーは画商が置いていったという白いカンヴァスを持っていました。
画商はピカソの絵を買い取らせて欲しいと言いますが、青い母子像の絵を気に入ったルソーは自分の絵が完成するまで待って欲しいと頼みます。
その後、ヤドヴィガをモデルとした絵がルソーの最後の作品となり、この時ヤドヴィガは身籠っていたという場面で物語は終わります。
そして文末に文字はありませんでした。
そして講評の時間を迎えたティムは、真作だと確信しているのですが、ピカソによる贋作だと言います。
そして織江は情熱があるからという理由で真作だと言い、ティムも真作だと言い直すという無茶苦茶な講評となりました。
結局バイラーは納得できないながらも、ティムを勝者に選ぶのでした。
【結】楽園のカンヴァス のあらすじ④
ティムは委任状にサインするとジュリエットを紹介します。
ジュリエットはバイラー唯一の孫で、「夢を見た」を守るためにティムに接触してきたのでした。
ティムはジュリエットに作品を譲渡しようとしますが、それをコンツが「ティムがトムのふりをしている」と明かし阻止しようとします。
しかしバイラーが「私が招待したのはティム・ブラウンだ」と言い、無事「夢を見た」はジュリエットへ譲渡されたのでした。
ティムと織江は最後に二人で「夢を見た」を鑑賞し、そしてティムは物語の作者がヤドヴィガ・バイラーであり、本の所有者がコンラート・J・バイラーだということを明かすのです。
バイラーは自分の妻ヤドヴィガが、ルソーとともに永遠を生きるために、どうしてもこの作品を守り抜きたかったのです。
この出来事から17年後、織江は高野と共にニューヨーク行の飛行機に乗っています。
ティムは物語最後の文末の一文字は「C」ではなく「N」だと考えながら織江を待っていました。
「PASSION」それは、織江が講評のときに口にした一言です。
背後から呼ぶ声が聞こえ、ティムが振り向くとそこには織江が立っていました。
互いに言葉を探して見つめあう二人。
ティムは織江に会えたなら言おうと思っていた言葉があったのに、ふっと「夢を見たんだ。
君に会う夢を」という別の言葉がこぼれます。
この言葉に織江は微笑みます。
そしてその笑顔は、もう夢ではなかったのです。
楽園のカンヴァス を読んだ読書感想
織江はソルボンヌ大学で美術史を学び、26歳で博士号を取得しているという素性を隠し、美術館で一監視員として働いています。
それはティムから言われた「画家を知るにはその作品を見ることが重要で、誰よりも名画に向かい続けるのは美術館の監視員だ」という言葉を、ずっと胸に刻んで生きてきたからなのです。
何年たっても通じ合っているティムと織江の二人を通して、ルソーの作品の素晴らしさに触れることのできる作品でした。
そして、織江の娘・真絵が美術に興味を持ち、画集を見て「生きてる、って感じ」と言った言葉には将来の織江を見たように感じました。
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