【ネタバレ有り】芋虫 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:江戸川乱歩 昭和4年(1929年)に角川文庫から出版
芋虫の主要登場人物
須永時子(すなが ときこ)
主人公。戦争で両手両足を失った夫を虐めることで快感を得ている。
須永中尉(すなが ちゅうい)
時子の夫。戦争で両手両足や五感の機能をほとんど失ってしまった。金鵄勲章(かつて武功のあった軍人に与えられたもの)を与えられた。
鷲尾少将(わしお しょうしょう)
夫婦に家を貸している大家。須永中尉の昔の上司。
芋虫 の簡単なあらすじ
須永中尉は戦争により、両手両足、感覚機能を失ってしまいます。
そんな須永中尉の世話をしていたのは妻の時子ですが、時子は、彼を虐めることで快感を得ていたのです。
ある夜、須永中尉が刺すような視線を時子に向け、時子は怒りのあまり彼の目を潰してしまいます。
我に返った時子は慌てて医者を呼び、彼の胸に指で「ユルシテ」と書きました。
そして時子は大家の鷲尾少将の所へ駆け込み、懺悔をし、二人で須永中尉のいる部屋へ戻ると彼の姿はありません。
柱に「ユルス」と書かれているのを見て、慌てて外に出ると、芋虫のように古井戸に向かって這う彼が、そのままドボンと地の底に落ちる音を聞いたのでした。
芋虫 の起承転結
【起】芋虫 のあらすじ①
須永中尉は戦争により、両手両足、感覚機能を失ってしまいます。
かろうじて残ったのは視覚・聴覚のみで、意思を伝える方法は目や体の一部を動かすこと・鉛筆を口にくわえてカタカナを書くことのみでした。
かつての彼の上官だった鷲尾少将に離れを借り、妻の時子に介護されて生活しています。
鷲尾少将は、時子に会うたびに「自分のことを後回しにして、献身的に介護している。
とてもできないことだ。
まったく感心していますよ。」
と言うのです。
この褒め言葉が最初のころは時子の心をくすぐり、快感を感じていましたが、今では責められているようで怖くなっています。
その理由が、須永中尉の変わり果てた姿を人間と思えず、弱いものとして認識し、それを虐めることで快感を得るようになってしまったからでした。
須永中尉はすぐに機嫌を損ねることがありました。
和解の手段として時子はかがみこんで自分勝手に迫り、情欲を満たすことで夫を憐れみ、時子は快感を得ていたのです。
【承】芋虫 のあらすじ②
須永中尉が負傷し、内地の病院で再会したとき、時子は本当に悲しくなり人目も構わず泣き続けました。
彼の手足の代償として金鵄勲章が授けられ、親戚や町内の人たちが来てくれたりと騒がしい日々を送っていたのですが、やがて世の中が落ち着いてきたころ、須永中尉のことは世間の人たちから忘れられてしまいます。
ある日、時子の思いつきで須永中尉が鉛筆を口に咥え、カタカナで文字を書く会話を始めました。
彼が最初に書いた言葉は「クンショウ」と「シンブン」でした。
シンブンは、自分の記事の切り抜きのことを指していました。
自分の名誉に浸って満足している様子でしたが、次第にそれにも飽きてしまい、完全に無力になっていきます。
ただ、不自由であるが故なのか、よりいっそう食欲、性欲が旺盛になりました。
昔、教え込まれた軍隊的な倫理観と欲求が頭の中でせめぎあっているようで、彼は苦悶の表情を浮かべているようにも見えました。
時子はその彼の表情が見たいが故、より一層迫るようになりました。
【転】芋虫 のあらすじ③
ある夜、時子は悪夢で目が覚めました。
ふと、横に寝ている夫を見ると、天井をじっとみつめる、生きた肉の塊がありました。
その物思いに浸っている様子が憎々しく思えてきて、残虐性が彼女の中にふつふつと沸き起こってきます。
時子は、突然夫の布団に飛び掛かりました。
須永中尉は怒ったのか、叱責のまなざしで時子を睨みました。
いつものように迫るつもりでしたが、彼は妥協せずに刺すように睨み続けています。
時子は「なんだい、こんな眼」と叫び、興奮して両手で彼の目を潰してしまいました。
ハッと気が付くと、目から血を流して踊り狂っている夫がいました。
慌てて医者の家へと走りながら、時子は「夫の物言う両目を、安易な獣になりきるために邪魔なもの」「夫を生きた屍にしてしまいたかった」という自分の恐ろしい考えに直面するのです。
医者が来てもまだ悶え苦しんでいる彼に、手当、痛み止めの注射を打ってもらいました。
医者はそそくさと帰っていきました。
【結】芋虫 のあらすじ④
医者が帰ると時子はようやく落ち着いて、夫の胸をさすりながら「すみません」と泣いて謝り、胸に指で何度も何度も「ユルシテ」と書きました。
それでも身動きせず、表情も変えない夫に「なんということをしてしまったのだろう」と号泣し、「世の常の姿を備えた人間が見たい」との思いから鷲尾少将の母屋へ行き、長い懺悔をしました。
そして、鷲尾少将と共に夫のいる部屋に戻ると、そこはもぬけの殻だったのです。
夫がさっきまで寝ていた枕もとの柱に「ユルス」と書いてあるのを見つけ、時子はハッとしました。
急いで外に出て、鷲尾家の召使も集め、夜の闇の中捜索が始まりました。
そういえば、庭に古井戸があった、ということを思い出し、時子と鷲尾少将はそちらに向かって走りました。
這うような、かすかな音が聞こえます。
そこには胴体の四隅に付いた瘤のような突起物で、もがくように地面を掻きながら前進している、須永中尉の姿がありました。
次の瞬間、体全体が消え、地の底からドボンという鈍い音が聞こえてきたのです。
芋虫 を読んだ読書感想
この作品は、過激な表現が多く当時は伏字だらけで発表されました。
読み手をかなり選ぶ作品だと思いますが、私自身、江戸川乱歩の魅力に気づいた初めての作品がこの「芋虫」です。
読み終えた後の気持ち悪さだけでなく、なんだか鼻の奥がツンとするような、悲しさも帯びています。
戦争の悲惨さを伝えるだけでなく、人間の奥底を覗き見るような、怖いけど見たい、知りたい、そんな感情が湧いてきます。
読むのにかなり勇気がいると思いますが、人生で一度も読まないのはもったいないと思います。
ぜひ一度手に取り、江戸川乱歩の世界を堪能してみて欲しいです。
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