【ネタバレ有り】虎を追う のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:櫛木理宇 2019年9月に光文社から出版
虎を追う の主要登場人物
星野誠司(ほしのせいじ)
引退した元刑事。30年前の事件を洗い直そうとする。
亀井戸健(かめいどけん)
30年前の幼女誘拐殺人事件の犯人として死刑判決を言い渡され、病死した。
伊与淳一(いよじゅんいち)
30年前の幼女誘拐殺人事件の犯人(共犯)として死刑判決を言い渡された。
星野旭(ほしのあさひ)
誠司の孫。大学生。誠司を助けて事件の真相をネットに公開する。
石橋哲(いしばしてつ)
旭の友人。浪人生。旭といっしょに事件の真相をネットに公開する。
虎を追う の簡単なあらすじ
30年前、幼女二人をを誘拐して殺した犯人とされている二人の死刑囚のうちの一人が、病死しました。
当時、この事件にかかわっていた元刑事の星野誠司は、捜査結果に疑問を抱いていました。
彼は孫の旭と、その友人の石橋哲の協力を得て、事件を洗い直し始めました。
少しずつ真実が明らかになってきたところで、真犯人にしか知り得ない情報が、新聞社に届きました。
無視しようとする警察をあざ笑うように、新たな事件が起こります。
虎を追う の起承転結
【起】虎を追う のあらすじ①
30年前、小学3年生の木野下里佳ちゃんが誘拐され、むごたらしく殺されました。
父子家庭の一人っ子でした。
翌年、小学2年生の柳瀬沙奈江ちゃんが、同じようにして殺されました。
母子家庭の一人っ子でした。
容疑者として、ふたり組のこそ泥、亀井戸健と伊与淳一が逮捕されました。
ふたりは犯行を自供し、また里佳ちゃんの下着に付着していた唾液のDNAが亀井戸と一致しました。
ふたりは有罪となり、死刑を言い渡されました。
それから30年たって、亀井戸は拘置所で病死しました。
元刑事の星野誠司は、当時、事務方として事件にかかわっていました。
彼は当時の捜査に疑問を覚え、まだ死刑を執行されていない伊与淳一を救えないだろうかと考えます。
知り合いの記者に相談したところ、再捜査と並行して、再審のために世論を動かす必要があると言われます。
誠司は孫の旭に相談し、旭の友人の石橋哲とともに、世論を動かすために、ネットに動画をアップすることにします。
誠司は亀井戸のかつての勤め先の人間と会い、亀井戸には非常に粗野な面と、繊細な面の二重性があったことがわかってきます。
誠司は、沙奈江ちゃんの母親の柳瀬久美子、理香ちゃんの父親の木野下一己とも会います。
ふたりとも、むしろ伊予が間違いなく犯人であることを実証するために協力すると言いました。
【承】虎を追う のあらすじ②
誠司は事件のあった現場を訪問しました。
当時、そのあたりで、小さな女の子がいたずらされる事件が多発してました。
被害にあった女の子は、逮捕された亀井戸たちの顔をテレビで観て、「あんな汚い人じゃない」と言っていたそうです。
また誠司は、拘置所の伊予に面会しますが、亀井戸がいなければ何もできない男だとわかります。
その一方で、伊予は何か隠しているようでした。
柳瀬久美子が、事件当時によくかかってきた嫌がらせ電話のひとつを思い出しました。
男の声で、沙奈江ちゃんが好きだった歌を口ずさんでいた、というのです。
それはあまり知られていない歌でした。
おそらく、犯人が沙奈江ちゃんに命令して歌わせ、メロディを覚えて、母親に電話をかけたのだ、と誠司は考えます。
旭と哲がネットにアップした動画はかなり見る人が増え、テレビも動き始めました。
ネット動画とともに、独自に編集した番組を放送したのです。
世間の反響が大きくなっていきます。
そのころ、真犯人を名のる男から、新聞社に小包が送られてきました。
中には声明文と、スカートと爪、歯が入っていました。
声明文の主は「虎」を名のっています。
実は沙奈江ちゃんが好きだった歌というのが「TIGER」でした。
また、スカートは木野下が娘に買ってやったものだとわかりました。
誠司と旭は警察から呼びだされ、よけいなことをしないようにと釘をさされます。
一方、警察に保存してあったはずの、理香ちゃんの肌着から検出されたDNAデータが紛失していることがわかります。
【転】虎を追う のあらすじ③
石橋哲は、亀井戸がトゥレット症候群だったのでは、と考えます。
彼の粗暴的な面は、実は病気だったのです。
二面性のもうひとつ、誠実な面こそが彼本来の姿だったのです。
警察から、重ねて、よけいなことをしないように、と警告が発せられる中、警察内部からこっそりと誠司に、新聞社に送られてきた歯と爪のDNAが被害者ふたりと一致した、との情報が入ります。
やはり真犯人は亀井戸とは別の人間のようです。
さらに、伊予が亀井戸の事件当時のアリバイを白状しました。
亀井戸が無罪になったら自分だけが死刑になる、と怯えて、今まで言えなかったのでした。
彼は気の弱い人間ですが、必ずしも善人ではなかったのです。
誠司は、殴られて出血した幼女の写真を購入していた変質者をさがして、容疑者を絞り込んでいきます。
やがて、真犯人が今このとき、幼女を拉致していると見られる動画が、ネットにアップされました。
犯罪の成果を横取りされたと怒った真犯人が、実権を自分の手に取り戻そうとしたものでした。
誠司たちは手がかりをさがします。
【結】虎を追う のあらすじ④
調べていくと、亀井戸にはとてもかわいがっていた甥、蓮川大樹がいたことがわかりました。
大樹の母親、つまり兄嫁は、亀井戸の初恋の人でもあり、最愛の人でした。
大樹が少年のころ、亀井戸といっしょに川で遊んでいた時のことです。
亀井戸はトゥレット症候群の発作が原因で、大樹に大怪我を負わせてしまい、それ以後は会わせてもらえなくなりました。
大樹は、その怪我が精神的にトラウマとなり、幼女をいたぶるような趣味になったようです。
幼女誘拐殺人事件の真犯人は大樹だったのです。
亀井戸は、真犯人が大樹であると、薄々感づいていたようです。
しかし、最愛の人の息子であり、自分が大けがを負わせた引け目から、かばいだてしたのでしょう。
また、旧式のDNA鑑定で、被害者の下着についていた唾液が亀井戸のDNAと一致したというのも、真犯人の大樹が近親者であったから、ということのようです。
誠司は大樹の両親を探し出し、大樹の居場所を問い詰めます。
しかし、彼のアパートにたどり着く前に、父親が逃がしてしまっていました。
手がかりは断たれたかに思えましたが、大樹がネットにアップした犯行の動画から、居所が推測できました。
誠司のかつての上司である、捜査一課長の別荘にいるようです。
実は、元捜査一課長の娘はキャリア警察官の妻でした。
事件当時、捜査一課長は娘婿に手柄をたてさせたいと、功を焦って無実の人間を犯人にしたてあげたのでした。
その弱みをつかれ、亀井戸たちの判決後、大樹からの脅しに屈して、DNAデータを隠匿し、また大樹が殺した別の幼女の死体を別荘の庭に埋めさせていたのです。
さらに、今回、大樹は誘拐した幼女を別荘に隠そうとしましたが、元捜査一課長はさすがにそれを許すことはできず、幼女を天井裏に隠して、大樹を刺しました。
そこへ誠司たちが駆けつけ、誘拐された幼女を無事に保護したのでした。
虎を追う を読んだ読書感想
著者の名前からしても、また、本の奥付の著者略歴のところに生年が記載されていないことからしても、著者は女流作家のようです。
そのせいか、文章が滑らかで、非常に読みやすいです。
すいすいと読めます。
また、ストーリー展開がうまくて、ぐいぐいと引っぱられるように読めてしまいます。
死刑囚を助けることができるか、という一種のタイムリミットサスペンスの構図となっているのも、もちろんハラハラドキドキさせる要因となっています。
出来のよいサスペンス映画を観るような気持で、最後まで楽しむことができます。
ただ、これから読もうとする人にひとつだけ注意をうながすと、幼女が被害にあう様子がけっこうグロテスクに描かれていますので、気の弱い人は覚悟した方がよいかもしれません。
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