「劇場」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|又吉直樹

「劇場」

【ネタバレ有り】劇場 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:又吉直樹 2017年5月に新潮社から出版

劇場の主要登場人物

永田(ながた)
本作の主人公。脚本家兼演出家。高校卒業後に中学校からの仲である野原と共に上京した。劇団『おろか』を旗揚げするも、客足は重く、その内容はアンケートやネットで酷評されている。生活は困窮、アルバイト生活。

沙希(さき)
女優になる為青森県から上京。親の勧めもあり服飾大学に通いながら女優を目指している。街で偶然鉢合わせた永田に突然「靴、同じやな」とナンパされたことで恐怖するも、あまりにも必死な誘いに同情心からかついのってしまい永田にカフェを奢ることになってしまった。

野原(のはら)
永田とは中学からの同級生。当時から音楽・映画・文学・格闘技などに詳しく、彼のもたらすさまざまな情報に永田は刺激を受けた。高校進学後は永田と共に演劇部に所属し、卒業後はともに上京。昔から感情を表に出さないので、何を考えているか永田には分からない時がある。

劇場 の簡単なあらすじ

永田は、自分と同様に画廊を覗いている女性『沙希』に惹かれ、見つめ続けてしまった。彼の不気味な視線に気づき、その場を去る沙希に向かい「靴、同じやな」と、永田はいつの間にか話しかけていた。永田の挙動に恐れながらも返答した沙希。二人はしばらくして付き合うことになった。永田が沙希の家に転がり込む形のながらも良好だった二人の関係。だが、夢の道程で生じた心境の変化に伴って二人の関係は歪に変わってゆく。

  

劇場 の起承転結

【起】劇場 のあらすじ①

二人が欲していたきっかけ

永田は、放浪するようにしてどり着いたとある画廊に目が止まる。

そこには彼と同様に画廊を眺める女性沙希がいた。

永田は、なぜかこの人なら自分の事を理解してくれるような気がして、沙希を注視してしまう。

不気味な視線に気づき場を後にしようとした沙希に、永田は無意識で「靴、同じやな」と声を掛けてナンパしてしまう。

恐れながらも返答した沙希は、同情心からなのか永田にカフェで奢る事になり互いの素性を話した。

沙希は女優を、永田は劇団を旗揚げして脚本家を目指すための上京という共通点もあって徐々に打ち解けた二人は連絡先を交換してわかれた。

しかし永田は、沙希の行動は「自分自身を守るための最善の方法」だったと改めて思い、自分の無意識の行いが恐ろしかった。

中学の同級生野原と立ち上げた劇団『おろか』は結成して三年になる。

十月に公演を控えているが、ある日、五人しかいない劇団員の二人、戸田と辻が劇団を辞めたいと申し出てきた。

引き留める説得のため集まったが二人の意思は固く揺るがない。

どころか、説得の場は次第に『おろか』と脚本家である永田への不満、劇団の将来性のなさで水掛け論を行う場になっていた。

団員の責任転嫁に乗っかり、「私も辞めたいんです」と申し出た青山と永田の口論は感情的になってしまい、暴言を吐いた永田はそのままその場を後にする。

劇団内の関係を修復できないまま九月に入り、永田は十月公演の主催者から急かされてその場しのぎで決めた劇のタイトル『その日』以外何も決めれず、脚本すら書きはじめられずいた。

さまざまな苦悩を抱える中、メールでやり取りを繰り返していた沙希をデートに誘ってみたところ、沙希から返信されてきた「ごめん!全然暇なんだけど!」の文面を見てフラれたのだとショックを受け、諦めを伝える返信を返信を送る。

しかし、それはただの永田のはやとちりで、二人は後日渋谷で再開することになった。

【承】劇場 のあらすじ②

二人の『その日』

「久しぶりだね」と、明るい調子で沙希から声を掛けられて再開した永田は一瞬で生きた心地になった。

目指していた家具屋が定休日という誤算もあり、結局家具屋に入ることはなかったが、お互いにそのことには触れようともせず帰ろうとも言わず、どこを目指すでもなく夜になっても歩き続けた。

その後、沙希と親しい間柄になった永田。

二人の生活の中から少なからず影響を受けて脚本『その日』を書き上げた。

東京で暮らす男と女の物語。

深夜の暗い部屋、通販番組の灯りに照らされる女が地元の友達と電話している場面から幕を開け、部屋に男が帰ってきた音を聞いて、女は電話を切る、という内容。

脚本を読み終えた野原は女役はどうするのかと永田に問う。

永田は脚本を書きはじめた当初から沙希を想定していた。

その後、脚本を読んでくれた沙希は真っ赤な目を永田に向ける。

一度は断った沙希だったが、頼むまでの経緯と沙希に演じてもらいたいのだという本心を説明したところ承諾することに。

沙希主演の公演は初日こそ席もまばらだったが、観客を退屈させない沙希の演技の甲斐あってプロデューサーも劇団関係者も彼女の存在感を認め、ささやかながら公演は評判となり客足が伸びていった。

公演は打ち上げを迎え、皆からたたえられた沙希は、周りに遠慮することなく永田の脚本を褒め続けた。

沙希が脚本を褒める度、場には白けた空気が流れているように永田は感じてしまう。

劇団の注目度が上がり会場のキャパが増えた半面、おろか主催での公演は経費の関係で難しかった。

稽古日が増えた分日雇いで稼ぐこともできなくなった永田は、家賃すら払えなくなり沙希の家に転がり込むことになる。

【転】劇場 のあらすじ③

二人の生活

沙希は徹底的に永田に甘かった。

それゆえに永田は、自分の存在を受け入れられていることによりかかって、沙希に奔放に振る舞うようになった。

脚本を執筆している時期と稽古中は稼ぎが無くなるので、公演を重ねるほど、永田は借金を重ねていく。

永田は、お金が無くなったことにより、他人に対して自信がなくなり、慢性的な苛立ちや不安に襲われて自分の事を醜く感じ、収まらない気持ちは沙希を執拗に責めることによって解消するようになってしまう。

永田は、ある日沙希にメールで呼び出された。

その場所に行くと、彼女は原付バイクに乗って現れ、学校の男にもらったのだと告げた。

どう振る舞ってよいかが分からない永田は、原付に乗り公園を何周も走り続けた。

永田の事を驚かそうとして隠れている沙希が「ばあああ!」と飛び出してこようが、なんと声を掛けようが永田は沙希を無視し続けた。

永田は、原付を譲ってくれた沙希の友人に嫉妬と疑念が混ざったものを感じていた。

その後、険悪なまま帰宅した永田は次の日、原付を蹴って破壊してしまう。

原付の事が公私ともに影響し、沙希は数日間無口になり学校も休みがちになってしまう。

原付をくれた男にも沙希にも悪いことをしたと思った永田は、沙希の誕生日に自転車を購入した。

なんとか仲直りして学校へ行くよう勧めた甲斐あって沙希は大学を無事卒業。

沙希は洋服屋で働きながら夜は居酒屋でアルバイトする生活をはじめた。

青山から久しぶりにメールが入った。

現在の彼女は文筆業も兼業で行っており、永田に記事の執筆依頼を持ち掛け、永田はそれを承諾した。

永田は執筆で生計を立てる中、数日前に沙希から「これからのこと」というメールが届いていたが返信できずいた。

深夜二時、アパートへ行くと沙希が帰ってきていないことを知り、永田はメールを送ったが、沙希から返信が帰ってこないことに不安を感じ、バイト先の居酒屋まで赴くことになる。

【結】劇場 のあらすじ④

二人のこれから

店締めをしているバイト田所から沙希は店長と帰ったと伝えられる。

聞き出した店長の家の近くで沙希の自転車を見つけ、永田は、何度も自転車のベルを鳴らした。

すると、しばらくして沙希はマンションから出てきた。

二人は自転車に二人乗りして、永田は饒舌に沙希のことを冗談交じりに励まし続けた。

さまざまな感情を我慢していた沙希はやがて嗚咽を漏らした。

途中、桜並木の下で自転車を降りて桜の下を歩き、空が明るくなっても二人は桜を見ていた。

沙希は親の勧めもあり実家で療養をすることになった。

その後、元気になった沙希は決意する。

二人は別れる事になった。

永田は、最後に東京を満喫しにきた沙希と居酒屋で飲んだ帰り、同棲していたアパートに招き思い出に浸りつつ『その日』の台本を読み始めた。

沙希も一緒になって読み進める。

次第にセリフではなくなっていき、互いの本音が飛び交う。

沙希は永田に感謝を告げた。

「わたしはずっと諦めるきっかけを探してたんだよ。

永くんのおかげで、みじめな気持ちじゃなくて東京を楽しい気持ちで歩けたんだよ。

永くんいなかったらもっと早く帰ってた、絶対。

だからありがとう」永田は、沙希がいつか自分のもとに帰って来たときのことを想像して、「今までできなかったことを全てしてあげる」との約束を発した。

本気か励ましの冗談かは定かではない。

沙希は「ごめんね」と泣きながら返した。

「セリフ間違えてるよ」と永田が言っても沙希は「ゴメンね」と返した。

沙希の嗚咽が部屋に響く。

永田は、部屋の電気を消して上着を脱ぎ、変な猿のお面をつけるとまた電気をつけた。

涙目の沙希に向かい「ばあああああ」と言った。

また電気を消してはつけて、変な風に動きながら「ばあああああ」と言った、さまざまなやり方で何度も言った。

開演前のブザーのように。

何度目かに、沙希は観念したように、ようやく泣きながら笑った。

  

劇場 を読んだ読書感想

引き寄せられるように本作『劇場』を手に取り、開いてみたのですが。

押し寄せてくる共感の嵐に呑まれ、自分と登場人物が同一人物だと錯覚してしまうほどにのめり込みました。

これは太宰治を言葉で表現するとき同様、「まるで自分の事が……」でした。

涙が流れているのが平常。

それぐらい感受性を開放できる小説を読んだのは初めてです。

冒頭の永田は鬱屈した毎日を過ごしていましたが、沙希という救いの女神の登場によって好転した日々が生まれます。

にもかかわらず、永田はまた自らの抱えている苦悩によって呑み込まれ、今度は彼女すら巻き込み、彼女に対する感謝の気持ちにも盲目になって、横暴に、時に破天荒に過ごしてしまう。

この経験は、夢を追うものなら殆どの人間が一度は通る筋道だと思います。

まだ通ってない人はこれから通ることになるかもしれない。

もちろん一生通ることがない人もいるでしょう。

通ったから不幸せ、通らなかったら幸せ、かというと、そういうことでもない。

そんな道です。

本作では、この「他人すら巻き込んでしまう負の連鎖」を自らで断ち切ることを決断し、いかに早く抜け出すかが重要だ、という教訓を提示していると思います。

反面教師です。

それ故にバッドエンドだと判断してカテゴライズしてしまいかねない。

しかし、どんなバッドエンドにも希望が溢れています。

私はそう考えています。

「バッドエンドはない、僕達は途中だ」たとえ現在の貴方が負の連鎖から抜け出せなくても作品を通して又吉さんがそう語りかけてきてくれる、『優しい』文学作品であると私は受け取りました。

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