【ネタバレ有り】魔球 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:東野圭吾 1988年7月に講談社から出版
魔球の主要登場人物
須田武志(すだたけし)
進学校だった開陽高校を甲子園に導いた絶対的エース。沈着冷静。約束を破ることを許さない。
須田勇樹(すだゆうき)
武志の弟。常に勉学に励み東大合格を目指す。兄を強く慕っている。
高間(たかま)
殺人事件を捜査する一課の刑事で、柔軟な思考で事件を追う。野球部監督の森川とは同窓生。
中条健一(なかじょうけんいち)
東西電機社長。二枚目で品のある男。先代社長の娘と結婚し、今の地位についた。
芦原誠一(あしはらせいいち)
元・東西電機社会人野球部のピッチャー。仕事中の不注意で足を負傷し、野球の道を絶たれてしまった。
魔球 の簡単なあらすじ
甲子園大会でエース須田武志は魔球を投げた。その後、女房役だったキャッチャー北岡が刺殺体となって発見される。目撃者も少なく捜査が難航していた時、別の誘拐事件との関連性が指摘され、二つの事件を繋ぐ一人の人物の存在が浮かび上がってくる。事件が収束に向かう時、目的に向かう武志の強い意志が見えてくるのでした。
魔球 の起承転結
【起】魔球 のあらすじ①
甲子園大会でエース須田武志は魔球を投げ、捕れなかったボールは捕手の後ろに転がり、開陽高校はサヨナラ負けを喫しました。
同じ頃、東西電機の社屋に爆弾が仕掛かけられているのが発見されます。
しかし爆発はせず未遂に終わります。
社屋のセキュリティの関係上、内部犯の犯行が疑われますが、捜査はそこで行き詰まってしまいます。
その後、女房役だったキャッチャー北岡が何者かに刃物で刺され、死体として発見されてしまいます。
その傍らには北岡の愛犬も同じように刃物で刺され殺されていました。
捜査一課の高間という刑事が捜査で北岡家を訪れます。
部屋を調べていると甲子園で負けた時のアルバムが出てきました。
その時の写真の下にはこう書き込まれていました。
「残念ながら一回戦敗退、そして魔球を見た」母子家庭で貧しい暮らしをしている須田家に、借金取りが訪れます。
十万円の返済を迫る借金取りですがお金はない。
利子を付けて返してやると武志は追い返します。
そんな須田家に高間が捜査で訪れます。
武志は野球でプロ野球に、弟の勇樹は勉強して東大に、貧しい家庭を助けるために強い目的意識を持って学生生活を送る二人の姿がそこにはありました。
高間は事件の日に北岡が会いに行く予定だった野球部監督である森川の家に向かいます。
そこで同じ高校で働く女性教諭の手塚が事件当夜に一緒に居たことに気づくのでした。
高間と森川は同級生で、森川に手塚を紹介したのも高間だったのです。
手塚は事件の夜に森川の家から帰る際、まだ生きていた被害者を自転車で追い抜く時に目撃し、その後何者かとすれ違ったというのです。
しかし自転車のライトを付けていなかったためその怪しい男の顔は見ていませんでした。
【承】魔球 のあらすじ②
東西電機社長である中条健一のもとに脅迫状が届きます。
以前は未遂に終わったが、爆破されたくなければ一千万を持って社長自ら受け渡しに来いという内容のものでした。
多くの警察が現金の入ったバッグに注目している中、受け渡しに奔走していた中条健一本人が誘拐されるという事件が起こります。
混乱する警察ですが、その日の夜に近くの廃ビルで解放され、憔悴した姿を見せるものの無事戻ってきたのでした。
一方、右腕を切断され刃物で胸を刺され殺害された武志の死体が、自主トレをよくしていた神社の林の中で発見されます。
捜査の中で、須田武志が須田家の本当の息子ではないことがわかります。
二人は本当の父親に捨てられ、生きていくのが苦しくなっていたところを今の須田家に拾われたのです。
しかし働き手が須田家の父親しか居ない中、貧しい生活は変わらず、武志の本当の母親は失意の中自殺してしまいます。
その後、大黒柱だった父親も事故でなくなり、今の母一人子二人の須田家になったのでした。
須田家でしめやかに葬儀が執り行われます。
弔問客が一段落した頃、竹中という男が訪れました。
昔父親に世話になったのだと大金を置いて去っていきます。
母子は素直に貰って良いものか頭を悩ませるのでした。
【転】魔球 のあらすじ③
普段の自主トレは北岡と二人で行っていると見られていましたが、片足を引きずった大人の男とトレーニングしていたとの目撃情報が寄せられ、何のためにその男と野球の練習をしていたのか謎が深まっていきます。
高間は片足を引きずった男の足取りを追います。
近くの少年野球でコーチをしていた男で、しかし父兄の反対を受けて少し前に辞めさせられていました。
さらに調査を進めていく中で、爆破未遂と誘拐事件における容疑者としてもその男が浮かび上がって来ます。
男は元東西電機の社員で、仕事中の保安ミスでの事故で足を負傷し選手生命を絶たれていました。
さらに保安ミスを隠すため、本人の過失だということにされ失意のまま会社を去っていたのでした。
その男は葦原誠一といい「アシ・ボール」と呼ばれる特殊な変化球を得意とするピッチャーで、なんと在籍中に須田武志が東西電機に見学にやってきたことがあり、にわかに二人の間に繋がりのようなものが見え始めたのです。
葦原は地元に戻ろうとしたところを発見され確保されました。
爆破未遂事件の関与は認めましたが、誘拐事件そして殺人事件には無関係だと主張します。
二人は協力関係にありました。
「アシ・ボール」を教える代わりに葦原の東西電機への復讐を手伝うというものです。
しかし「アシ・ボール」は指先を怪我した葦原が投球時にしびれが走ることで偶然投げられた球であり、習得は困難なもの、自分の意志とは関係なく神様が気まぐれに与えてくれる『魔球』でした。
【結】魔球 のあらすじ④
武志の右腕は故障していました。
しかし何とかそれを隠したまま高校野球で結果を出し、プロで活躍できないまでも契約金だけは手に入れて家族を楽にするために、芦原誠一の魔球「アシ・ボール」を求めたのです。
その交換条件として足の悪い葦原の代わりに爆発物を仕掛けたのが武志でした。
しかしそれ以降の社長誘拐はすべて武志の独断でしたことで、その裏には武志の実の父親が東西電機社長、中条健一であるという事実がありました。
誘拐されたとき二人は武志の実の母親の墓の前に行き中条に謝罪を求めました。
そして何か理由を付けて須田家の借金を代わりに返すこと、もう二度と自分には会わないことを約束させます。
昔世話になったと言って弔問にきた竹中という男はこの約束を果たしに行った中条でした。
この時既に武志は死を決意していました。
北岡を殺したのは武志だったのです。
北岡だけは武志の腕の故障の事を知っていました。
しかし監督に報告しようとした。
約束を重んじる彼にとってこれは大きな裏切りでした。
破った罰として武志は北岡の愛犬を殺すという行為に出ました。
もちろん北岡自身を殺すつもりなどなかったのですが、もみ合う内に殺害していまします。
殺人犯となった自分はもはやプロにはなれないが借金はなんとかしてあげたい、殺人犯の家族という汚名も着せたくない。
その結果、自殺し右腕の後始末を弟に頼むことで殺人犯が別に居ると思わせる計画を実行したのでした。
弟が兄の計画を知った時すでに兄は亡くなっていました。
「兄はいつも一人だった」勇樹の知らないところで武志はすべてを計画し去っていってしまいました。
甲子園の最後の投球、投げる瞬間武志の顔は鈍く歪んでいました。
武志もまた故障したことで投げることが可能になった、因果な『魔球』だったのです。
魔球 を読んだ読書感想
東野圭吾初期の青春小説です。
近年の作品のような大きなスケールはありませんが、家庭環境に問題のある須田武志という少年の強い意志と苦悩、個性的なその性質が、推理小説の推理部分だけでなく、物語の部分に大きな魅力を与えています。
冒頭では魔球とはいったいどんな球なのかという興味がもちろん出てきますが、読み進めていく内に魔球そのものの謎より、なぜ武志は魔球を求めたのか、という手段としての魔球の謎に興味が移っていくのが、推理小説として巧みな部分だと思います。
一人の強い若者が失われたような寂しい読後感をもたらせてくれる作品です。
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