【ネタバレ有り】十三番目の人格 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:貴志祐介 1996年4月に角川ホラー文庫から出版
十三番目の人格の主要登場人物
加茂由香里(かもゆかり)
エンパシーという他人の感情を読み取ることができる力を持った女性 ボランティアとして人々の心を癒すことを業としている
森谷千尋(もりやちひろ)
解離性同一性障害を患う少女 13の人格を持っており、危険な人格イソラを宿している
真部和彦(まなべかずひこ)
大学の助教授 高野弥生と共に体外離脱の実験をしていた
野村浩子(のむらひろこ)
千尋の通う学校のカウンセラーを務めている女性
高野弥生(たかのやよい)
体外離脱の実験中に阪神大震災に遭遇し死亡する..しかし..
十三番目の人格 の簡単なあらすじ
時は世紀末..阪神大震災の混乱の中を由香里は歩いていました。由香里は震災で心のケアが必要な人達に積極的に寄り添い、トラウマを和らげるための手伝いをしていたのです。その最中に解離性同一性障害を患う千尋と出会います。千尋の中に宿る異端な人格「イソラ」の存在に由香里は恐怖を覚えます。このお話は「イソラ」を巡って奔走する人間たちを描いた作品です。
十三番目の人格 の起承転結
【起】十三番目の人格 のあらすじ①
阪神大震災で心を病んだ人たちを癒すボランティアに来ていた、由香里は多重人格の少女千尋と出会います。
由香里は他人の感情を読み取り、心の声を聞き取るエンパシーという能力を持っていました。
千尋の心の声の中にイソラという名前を持つ危険な人格の存在に由香里は気づき、千尋の通う学校のカウンセラーを務める浩子を訪ねます。
浩子は千尋の神懸り的な直観力の鋭さに驚嘆し、千尋の協力の申し出を快く承諾しました。
千尋の中には13人の人格が宿っていて、人格それぞれには名前と役割があり千尋の中に宿る人格たちと対話を続けて千尋の過去とトラウマを解き明かしてゆきます。
人格の一例を上げると、千尋は幼いころ両親を交通事故で亡くしており、親戚夫婦の家に預けられていた。
千尋にとって親戚の家の居心地は悪く、その家の飼い犬ぺスは特に苦手でした。
千尋がぺスに噛まれた時に、ぺスを殺すための人格「範子」が誕生しぺスを包丁で殺してしまいました。
このように人格には何らかの意味があるのですが、阪神大震災直後に誕生した「イソラ」という人格はなぜ誕生したのかがわからず、由香里はイソラから不気味でおぞましい雰囲気を感じるのでした。
【承】十三番目の人格 のあらすじ②
千尋は大震災でケガをして病院に入院していたのですが、そこに千尋の叔父が乗り込んできます。
叔父は粗野な男で千尋を強引に家に連れ帰ってしまいます。
由香里はエンパシーの影響で、千尋を虐待しているのはこの叔父だということを突き止めます。
由香里はなんとか叔父の手から千尋を救い出そうとしますが、由香里の力では到底千尋を救うことはできませんでした。
そんな折、叔父が突然死してしまうという事件が起こります。
そして..千尋の通っている学校の生徒や教師が次々と急死するという怪事件が発生するようになり、全員が千尋を虐めていた人物でした。
由香里は「イソラ」がなんらかの手段を用いて殺戮を行っていると感づき、「イソラ」の正体を探ります。
「イソラ」は狙った獲物をジリジリと弄るように殺害する残虐な性格の人格でした。
イソラは超越的な能力を持っており、人間を心不全に陥れて殺害することができます。
由香里は「イソラ」を見て、代理人格の一人というよ千尋とは全然別物の怨霊のような存在だと感じ、改めて「イソラ」に対して恐怖するのでした。
【転】十三番目の人格 のあらすじ③
由香里は、自分の実験に協力するように千尋に付きまとっていた高野弥生という女を訪ねることにしました。
高野は大学で心理学を研究している職員でしたが、阪神大震災の時に亡くなったと告げられます。
高野の同僚の真部に話を聞くと、弥生は実験室で建物の下敷きになり、亡くなったとのことでした。
由香里は真部がウソをついていることを見抜き、追及すると高野が亡くなった時に間部もその場に一緒にいたのです。
高野と真部は臨死体験に興味を持っており、体外離脱..いわゆる幽体離脱の実験を行っていたのです。
高野が体外離脱の実験をしている最中に阪神大震災が発生し、地震を恐れた真部は抜け殻状態の高野の肉体を放置して自分だけ逃げてしまったのです。
結果高野の肉体は死亡しましたが、高野は普通の死者ではないため、震災で死んだ他の死者と同じように天に昇ることができませんでした。
彷徨える高野の幽体は安住の地を求め、生身の人間に入り込み体を乗っ取ろうと試みますが、普通の人間は防衛本能が働いていて入り込むことができません。
多重人格者なら、自分とは違う意識が入ってきても、拒絶反応が乏しいだろうと思った高野は千尋に目を付けて、千尋の体に潜入することに成功しました。
しかし、高野は精神力を使い果たしており千尋の体に入った時にはもう高野の意識はほとんど残っていませんでした。
高野は真部に対して好意を抱いていましたが、真部に見捨てられたと思った高野には強烈な復讐心が宿っていました。
高野はほぼ消滅しましたが、復讐心だけが千尋の中に残り、千尋に宿る憎悪と絶望が高野の復讐心と混じりあい、残虐で狡猾な人格「イソラ」が誕生したのです。
【結】十三番目の人格 のあらすじ④
「イソラ」は高野が持っていた体外離脱の技術を使って、殺したい人間の中に入り込み、千尋が殺したい人間を心不全を起こさせるなどの手段で殺してまわりました。
高野の持っていた復讐心に操られる「イソラ」は真部を殺そうと、由香里たちの前に立ちふさがります。
真部と由香里は恋人になっており、それがますます「イソラ」の復讐心を煽るのでした。
「イソラ」と由香里たちの攻防の末、真部はこうなった責任は自分にあると言い、「イソラ」に自分の体に入ってくるように提案します。
真部に受け入れてもらえることを喜んだ「イソラ」は真部の体に入り込み、「イソラ」と真部は2人で一つになります。
真部は「イソラ」を道ずれに建物の屋上から飛び降りて死を選びました。
こうして、代理人格と怨霊の混合体「イソラ」は消滅しました…しかし…「イソラ」が千尋に宿っていた影響は凄まじく、千尋の中の無害な代理人格たちも「イソラ」の影響を受けて残虐な人格と化してしまっていたのです。
由香里は千尋の人格たちを最終的には統合しようと考えていたのですが、人格全員が危険な人格と化してしまったために、統合してできあがるのは凶悪で残虐な殺人鬼という事実に頭を悩ませるのでした。
十三番目の人格 を読んだ読書感想
解離性同一性障害と怨霊をブレンドさせた見事な作品だと思いました。
多重人格者の心の隙に怨霊が入り込み、凶悪な人格が誕生してしまうという発想は見事だと思います。
阪神大震災の混乱の最中という設定で町には死が溢れており、作品の登場人物たちも鬱屈としており、そこに多重人格と怨霊という設定をくわえることによって、怪奇でミステリアスな作品に仕上がっており、90年代の混乱を懐かしい気持ちで読むことができました。
解離性同一性障害の人間が持つ人格には、一つ一つの人格になんらかの存在理由があることが多いです。
苦しみ、痛みを背負う人格内向的な自分の代わりに対人関係を円滑に回すために生まれた明るい人格..そして自分の怨念を一か所にかき集めた残虐な人格などですこの小説は解離者の持つ特性や苦悩をうまく表現していて、読んでいてなるほどな!と思える本でした。
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