【ネタバレ有り】或阿呆の一生 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:芥川龍之介 2018年11月に株式会社KADOKAWAから出版
或阿呆の一生の主要登場人物
彼(かれ)
小説家。「彼」の幼少期から晩年までの心の葛藤を描いた芥川龍之介の自伝的小説の主人公。
久米正雄(くめ まさお)
小説家・俳人。芥川の親友。芥川にこの小説を託される。1916年(大正5年)芥川、菊池寛らと「新思潮」を創刊する(第四次)
或阿呆の一生 の簡単なあらすじ
「彼」は親友の久米正雄に「彼」が渾身の力で書き上げた自伝的小説を託します。小説は「彼」の半生を回顧すると同時に「彼」の遺書代わりにもなっていました。小題のひとつひとつに「彼」の半生が刻まれています。幼い日の記憶、先生(夏目漱石)の死、結婚、子供の誕生、「彼女」、神経衰弱など「彼」の生きた世界と「彼」の内面の葛藤が描かれています。
或阿呆の一生 の起承転結
【起】或阿呆の一生 のあらすじ①
「最も不幸な幸福」の中で暮らしている「彼」が最も信頼している久米正雄に「彼」のこの小説の原稿を一任するところからこの物語は始まります。
「彼」は書店の二階で梯子に昇り、トルストイやニーチェといった文豪の著書を探していました。
下を見ると小さくて貧相な店員と客が目に入るのでした。
「彼」は精神病院を訪問し、かつて「彼」の母が入院していたという記憶が蘇ります。
医師の目から逃れるように硝子窓の外に視線をむけると、そこには薄い苔が生えた煉瓦塀以外なにもありませんでした。
「彼」が20歳のとき郊外の傾いた二階屋の一戸建に独身の伯母(当時60歳位)と暮らしていました。
伯母とはよく喧嘩をしましたが愛情も感じていました。
「彼」はある小さなカフェで先輩から半日の間も自動車に乗っていたのは用事があるのではなく、乗っていたかっただけ、という答えに痛みと同時に喜びを感じるのでした。
「彼」は英語の辞書を広げていたとき痰を辞書の上に落としてしまいました。
よくみると痰ではありません。
「彼」は自分の短命を悟ったのでした。
【承】或阿呆の一生 のあらすじ②
「彼」は23歳のある秋の日暮れ、郊外のガード下から土手の下に置かれた荷馬車を見つけます。
その風景にゴッホの憂鬱な風景画をイメージします。
そして自ら耳を切り落としたゴッホがパイプをくわえながらこの絵に見入っているという妄想を抱きました。
「彼」は雨の上がったプラットホームに立ち、午前6時発の上り列車を待っていました。
外套のポケットには先生(夏目漱石)が危篤という電報が入っていました。
「彼」は結婚(1918年2月2日 塚本 文と結婚)した翌日に妻に小言をいってしまいます。
無駄遣いを注意したのですが、同居している伯母の意向でした。
妻は「彼」だけでなく伯母にも謝罪していました。
結婚して新たな生活の拠点としたのは東京から列車で1時間ほどかかる鎌倉の海の近くの家でした。
やがて「彼」は養夫婦と同居することになります。
(1919年4月 鎌倉から実家の田端へ引っ越す)ある新聞社(大阪毎日新聞社)に就職(同年3月)が決まったからでした。
ところが雇用契約書は「彼」が一方的に義務を負う内容でした。
「彼」は産婆が赤児を洗うのを見つめていました。
妻にとっては初めての出産でした。
この煩悩や苦しみに満ちた世界に男の子が生まれました。
「彼」は関東大震災(1923年9月1日)の焼け跡を歩いていると死骸の重なり合った池に出ました。
その中に12歳くらいの子供がいました。
「彼」はなぜか羨ましいような感情を抱いてしまいます。
「彼」の姉や異母弟も焼け出されていました。
自暴自棄のような感情が湧いてきたのでした。
【転】或阿呆の一生 のあらすじ③
「彼」は異母弟と大喧嘩をしました。
弟は「彼」に圧迫を受けていたと感じ、「彼」は弟によって自由を束縛されていると感じていました。
彼らが取っ組み合って転がり出た庭先に百日紅(さるすべり)が咲いていました。
30歳になった「彼」は苔の上に煉瓦片と亙片が散らかる空き地を気に入っていました。
セザンヌの絵をイメージしていたのです。
そして7年ほど前にはまだ持っていた情熱を思い出していました。
「彼」は自分に死が何時訪れてもいいように烈しい生活をしようと思い始めていました。
現実は養父母や伯母に気を遣いながら生きていたのでした。
そして洋服屋に飾ってある道化人形に自分を見ていました。
「彼」はシルクハットを被った天使と問答をしました。
資本主義の善悪について。
「彼」は不眠症になり、体力が目に見えて衰えていきました。
医師たちの診断は胃酸過多、神経衰弱、脳疲労等々、様々でしたが「彼」には病気の原因が分かっていました。
それは自分を恥じる気持ちと「彼」が軽蔑していた社会を畏怖する気持ちでした。
【結】或阿呆の一生 のあらすじ④
松林の中を歩いていた「彼」は35歳になりました。
そして「彼」と妻は二度目の結婚をします。
荒れ模様の海です。
「彼」と妻と3人の子供は沖の稲妻を眺めていました。
子供の1人を抱きかかえ、涙を堪えている妻に「彼」は一艘の船を指し示します。
それはマストの折れた船でした。
「彼」は自宅の窓格子で首吊り自殺を試します。
懐中時計で計って冷静に。
するとまだ真っ暗だった窓格子の外で鶏が鳴きました。
さらに追い打ちをかけるように「彼」の姉の夫が自殺するという事件が起きます。
自宅が半焼し、保険金目的の放火ではないかと疑われたのです。
「彼」は姉一家の生活もみなければなりませんでした。
「彼」は好意を抱いてはいたが恋愛感情が湧かない「彼女」から「彼」が死ぬことを望んでいるのでは、と問われ、「彼」は生きることに飽きてしまったと答えました。
「彼女」は「彼」に青酸カリの瓶を渡しました。
しかし「彼」と「彼女」は心中することはありませんでした。
「彼」は自叙伝の執筆を決意しました。
しかし「彼」の中にある自尊心、懐疑主義、利害の打算があって「彼」自身を軽蔑してしまい、なかなか容易には進みませんでした。
しかし「一皮むけて」やっとのことで「或阿呆の一生」を書き上げました。
「彼」は持っているペンが震え、涎も垂れるようになりました。
薬に頼り、刃のこぼれた細い剣を杖の代わりにしなければなりませんでした。
或阿呆の一生 を読んだ読書感想
小題の付いた文は短いのは2〜3行、長いものでも10数行。
小題と小題の間に時間的な系列やストーリーの一貫性がなかなか見いだせず(今でもそうですが)起承転結にまとめるのがとても困難でした。
しかし読んでいくうちに小題と小題の間に「細い」糸のようなものを感じました。
それで何とかまとめてみました。
またこの小説には「彼女」が何度か出てきます。
私には「彼女」が幻影か陽炎のように思えて起・承・転の中ではどうしても「彼女」を入れ込むことがかなわず、ようやく「結」になってより具体的に登場した「彼女」を入れることができました。
芥川龍之介の渾身の作品です。
「彼」の苦しみは時の流れを超えて現代でも同じように至る所に存在しています。
結果論ですがもっと時の流れに任せて気楽に過ごせば良かったのにとも思いますが、芥川にはどうしてもできなかったのでしょうね。
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