【ネタバレ有り】さざなみのよる のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:木皿泉 2018年4月に河出書房新社から出版
さざなみのよるの主要登場人物
小国ナスミ(おぐになすみ)
本作の主人公。癌のため43才で亡くなる。
日出男(ひでお)
ナスミの夫。ナスミの死後、愛子と再婚する。
愛子(あいこ)
ナスミの死後、日出男と結婚する。
光(ひかり)
日出男と愛子の娘。
笑子(えみこ)
ナスミの父の叔母。マーケットストア「富士ファミリー」の経営者でナスミの名付け親。
さざなみのよる の簡単なあらすじ
木皿泉さんは2005年の人気ドラマ『野ブタ。をプロデュース』も手がけた夫婦脚本家です。小説家としても2014年のデビュー作『昨夜のカレー、明日のパン』は第11回本屋大賞第2位を受賞し、第27回山本周五郎賞の候補にも選出と高い評価を受けています。2作目となるこの『さざなみのよる』は2016年と2017年のお正月にNHK総合で放送されたテレビドラマ『富士ファミリー』の登場人物「小国三姉妹」の次女・小国ナスミが主人公です。物語は14章に分れており、それぞれが視点が違います。闘病中のナスミ自身とナスミの周囲の人々の回想からつむがれるナスミの物語。ナスミの死という一粒の雫が水面にさざなみを拡げ、やがて世代を超えて未来にまで希望を繋いでゆく再生の物語です。
さざなみのよる の起承転結
【起】さざなみのよる のあらすじ①
第1話は主人公のナスミの視点です。
「死ぬって言われてもなぁ」癌で闘病中のナスミは疎遠だった親戚の来訪で死期が本当に近い事を実感します。
そして病室のベッドで今までの人生と支えてくれた家族に想いをはせます。
子供の頃姉と意地を張り合った事を思い出します。
最期の混濁した意識の中で石になった自分が水面に落ちて「ぽちゃん」とつぶやいた時、ナスミの意識は途切れました。
第2話はナスミの姉の鷹子の視点です。
一時は危ぶまれたナスミの容態が安定し、鷹子と日出男の二人だけがナスミに付き添っています夫婦二人の時間をとってあげたいと気を遣った鷹子は、日出男を病室に残し病院の売店に向かいます。
ナスミがいつも読んでいたマンガ雑誌を購入し、病室に戻るとナスミは息を引き取っていました。
最期に立ち会えなかった鷹子はナスミが好きだったマンガの最新話をナスミに向かって読み聞かせます。
第3話はナスミの妹の月美(つきみ)の視点です。
嫌いな相手の幸せは幸せは祈れないと思っていた月美はナスミの闘病をきっかけに考えを変えていきます。
ナスミの事を考えながら夜道を歩く月美の元にナスミ危篤の連絡が入ります。
第4話はナスミの夫の日出男の視点です。
ナスミを看取った日出男は遺影のために携帯の写真を見返していました。
その時日出男は自分の携帯にナスミがこっそり動画を残していた事に気付きます。
動画の中でナスミは日出男に新しい家族を作ってほしいと伝えます。
日出男はナスミの最期に一人立ち会った時には流せなかった涙を流し、病院の手続きに向かいます。
【承】さざなみのよる のあらすじ②
第5話はナスミの父の叔母である笑子の視点です。
自宅にいた笑子はナスミの訃報を聞き、ナスミとの約束を実行します。
その約束とはナスミの母の形見であるダイヤモンドを台所の柱に貼って欲しいというものでした。
ダイヤモンドがあの世とこの世を結ぶ窓となり、あの世から台所を見下ろせるというのです。
笑子は自分が死後に柱の目からのぞくことを想像し、死ぬのはそんなに悪くないことだなと思うのでした。
第6話はナスミの中学時代の同級生清二(せいじ)の視点です。
理髪店を営む清二は、中学校の同級生マンボからナスミが亡くなったことを聞きます。
今は付き合いも無くナスミが入院していたことも知らなかった清二ですが、中学時代の出来事を思い出し涙を流します。
清二とナスミは家出を計画し未遂に終った事がありました。
お互い辛い状況だった中学生の清二とナスミは一時引かれあいますが、自分自身の悲しみを抱えて途方にくれ、立ち止まることで精いっぱいだったのです。
前に進めなかったあの頃と違い、今の清二には妻の利恵が待つ我が家という帰る場所があります。
ナスミの通夜の帰り道で清二は現在の幸せを再確認し家路を急ぎます。
第7話の語り手は再び姉の鷹子で始まりますが、主な内容は手紙で綴られます。
ナスミが入院していた病院で、鷹子はナスミ宛の手紙を受け取ります。
手紙の差出人は佐山啓太(さやまけいた)という男性で、金銭苦で6歳のナスミを誘拐しかけた人物でした。
37年後ナスミは偶然佐山を見かけ、「なぜあの時自分を殺さなかったのか」と問いかけますが、佐山は返答できず逃げてしまいます。
手紙の中で佐山は誘拐を思いとどまったのはナスミの口ずさんだ歌がきっかけだった事、そしてナスミへの詫びと感謝を伝えます。
手紙を読み終わった鷹子は佐山がナスミと出会い人生を立て直した事から人の関わりと運命に思いをはせ、少し心が軽くなります。
【転】さざなみのよる のあらすじ③
第8話はナスミとかつての同僚加藤由香里(かとうゆかり)の物語です。
加藤由香里はナスミと同僚だった頃、不倫関係だった上司にだまされて堕胎させられてしまいます。
それを知ったナスミは上司を糾弾し歯を折られますが、加藤由香里は上司を擁護してしまい、ナスミは退職します。
加藤由香里も退職し現在は不倫関係だった上司の紹介で働いています。
加藤由香里は入院中のナスミの元を訪れナスミに詫びます。
ナスミは加藤由香里に新しい職場でお金にかえられないよい仕事をするようにと笑って伝えます。
そして、自分の死後落ち込む家族を元気づけて欲しいと加藤由香里に頼みごとをします。
ナスミが亡くなって1週間後、約束どおり加藤由香里は小国家を訪れます。
ナスミは台所の柱のダイヤモンドから見守っていると伝えた加藤由香里は、お金にかえられないことができただろうかと空に問いかけます。
第9話は第6話の主人公清二の妻、利恵(りえ)とナスミの物語です。
ナスミの四十九日に理髪店を営む清二の妻・利恵は夕食の準備中にナスミと話した夜を思い出します。
その夜、家出しようと思いつめていた利恵はナスミとの会話で自分の心が整理でき、家出はせずナスミを見送ったのでした。
清二の好物を食卓に並べて、利恵は清二に妊娠したことを伝えます。
第10話はナスミの夫日出男の再婚相手、愛子の視点です。
ナスミは愛子の兄からお金を借りていました。
愛子は返済金を受け取るために毎月ナスミに会うようになり、自分とは違うナスミに憧れを抱きます。
ナスミが亡くなり家を出た愛子は、4年後ナスミの夫だった日出男と偶然再会し、結婚して子供をもうけます。
第11話は三度姉の鷹子の視点ですが、ナスミが好きだったマンガの作者樹王光林(じゅおうこうりん)が登場します。
鷹子は闘病中のナスミが好きなマンガの作者樹王光林の元に連載中のマンガの最終回を教えて欲しいと頼みに行った事がありました。
樹王光林は最終回は自分にもわからないので教える事ができないと断ります。
鷹子はナスミにとって樹王光林のマンガはどこに行くべきかを指し示す地図のような存在だと伝えます。
鷹子はナスミに樹王光林に会った事を話しますがナスミは信じないまま亡くなりました。
2年後、樹王光林は最終回の原稿のコピーを持って富士マーケットを訪れます。
樹王光林は原稿のコピーを鷹子に渡し、これが鷹子の地図になればよいと伝えるのでした。
【結】さざなみのよる のあらすじ④
第12話はナスミの友人好江(よしえ)の視点です。
好江はかつてナスミと加藤由香里と同じ会社で働いていました。
49歳になった好江はアンチエイジングに関するブログが評判になっています。
ブログの書籍化を出版社で働く加藤由香里が依頼してきます。
ナスミが歯を折られた件(第8話)で加藤由香里にわだかまりがあった好江は書籍化を断ります。
その後、好江はナスミなら加藤由香里とも仕事をするだろうと考えを改め、書籍化を受けます。
好江が保管していたナスミの折れた歯をきっかけに加藤由香里への誤解も解けます。
無事書籍化され開かれたサイン会で好江はナスミに再会します。
ナスミの「だからぁ死ぬのも生きるのも。
いうほどたいしたことないんだって」という声を聞きながら好江はサインを続けます。
第13話は日出男と愛子の娘、光が8才の時の視点です。
日出男と愛子、光は富士マーケットで笑子と暮らしています。
光は「家族の秘密」を聞いてくるという宿題をきっかけに愛子に自分とナスミの関係を聞きます。
ナスミが生きていたら光は生まれていないという愛子の言葉に光は動揺し、それ以上詳しく聞く事が出来ませんでした。
その日の夕食時、台所の柱のダイヤモンドがなくなっていると笑子が気づきます。
他の家族はダイヤモンドがなくなっている事は以前から気づいており、愛子は光の出産後になくなっていたと話します。
愛子はダイヤモンドがなくなったのは、自分が光を育てているのをナスミが見たくないからなのではと考え言えなかったと吐き出し、場が緊迫します。
光は自分がさっき感じた不安を愛子は長年感じていたのだと察します。
「じゃあダイヤモンドが光になったってことか」という笑子のつぶやきと共に光は家族みんなに代わる代わる抱きしめられます。
「私、生まれてきて、よかったの?」と光が問うとみんなが当たり前だと笑い、光はこの気持ちはなんだろうと考えます。
「しゅくふくだよ、いのちがやどったからしゅくふくしてくれてるんだよ」という身体の中の声を光は聞いたのでした。
第14話は日出男と愛子の娘、光が63歳になった時の視点です。
桜の季節、場面は光の小学校からの友人のお葬式です。
時が経ち、富士マーケットはカフェになり、愛子は老人介護施設に入居しています。
光も孫がいる年齢でこの後孫をスイミングに連れて行く予定です。
今までの人生と時の流れに思いをはせながら光はゆっくりと歩きます。
さざなみのよる を読んだ読書感想
癌、主人公の死、誘拐未遂や不倫問題など重いエピソードも多いのですが驚くほど読後感が良い作品です。
平易な文章で大変読みやすく、大変魅力的な世界観で読み終えるのが惜しくなるほどでした。
特に普段は考える事を避けてしまいがちな「死に自然に向き合う」とはこういうことかと感銘を受けました。
登場人物の年齢や立場が幅広いのでどんな方でも共感しやすいと思います。
年齢や状況により感じ方も変わるかと思いますのでこの先何度も読み返したいです。
ドラマの関連作と聞くと、観ていないからと敬遠なさる方もいらっしゃるかもしれません。
私はテレビドラマ『富士ファミリー』のことは全く知らなかったのですが、問題なく小説を楽しめました。
もちろんテレビドラマ『富士ファミリー』を観ていた方はより楽しめると思います。
どんな方にも自信を持っておすすめしたい小説ですが、ちょっと心が疲れている時に特に読んでいただきたい一冊です。
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