【ネタバレ有り】プラナリア のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:山本文緒 2000年10月に文藝春秋から出版
プラナリアの主要登場人物
上原春香(うえはら はるか)
乳がんの手術以来、何もかも面倒くさく社会復帰に興味が持てない25歳。
豹介(ひょうすけ)
大学生の春香の彼氏。乳がんになった春香を支える。実家が金持ちでゆくゆくは家を継ぐ気でいる。潔癖症。
永瀬(ながせ)
春香と同じ病院に入院していた美人。デパートの甘納豆屋で雇われ店長をしている。
プラナリア の簡単なあらすじ
23歳という若さで乳がんになった春香は、現在手術をして右胸がありません。本人はそれを公表していますが、克服したわけではなく、手術以来何もかも面倒くさく、社会復帰に興味が持てず、大学生の彼氏と遊びまわる生活を送っています。そんなある日、入院中に知り合った美人の永瀬さんと再会し、アルバイトの誘いを受けます。はじめこそ前向きになった春香でしたが、徐々にモチベーションが下がってしまい……。
プラナリア の起承転結
【起】プラナリア のあらすじ①
23歳という若さで乳がんになった春香は、現在手術をして右胸がありません。
本人はそれを公表していますが、克服したわけではなく、手術以来何もかも面倒くさく、社会復帰に興味が持てず、大学生の彼氏・豹介と遊びまわる生活を送っていました。
豹介は春香が当時勤めていた会社に短期のアルバイトをしていたのをきっかけに知り合い、酔った勢いで寝てしまい、それ以来春香は二股をして付き合っていました。
乳がんが発覚し、交際相手だった年上の彼氏は姿をくらましたものの、豹介は逃げることなく寄り添ってくれ、右胸をとった現在も恋人関係は続いています。
豹介には感謝しつつも、ホルモン注射を打っている春香は性欲がまったく湧かず、性行為は苦痛でしかありません。
若く性欲旺盛な豹介の相手をするのは大変ですが、愛されているのだからと自分に言い聞かせ、やり過ごしていました。
乳がんになってから一度は社会復帰してみようと、三か月休職していた会社に復帰を試みましたが、社長から大病したのに立派だと声を掛けられ、その言葉に反感を持った春香は会社を退職。
以来、労働意欲がまったく起こらないのでした。
【承】プラナリア のあらすじ②
毎日ぶらぶらして過ごしている春香ですが、病院には四週間に一度きちんと通っていました。
直径五センチに育ったがんが、術後の病理検査はステージ1で、放射線も抗がん剤もやらなくて済んでいるので、病院側から言わせると経過は順調ということでしたが、当の春香はホルモン剤の影響で、めまいやほてり、疲労感や倦怠感の苦しみが続いています。
主治医に訴えても、そういうこともあるの一言で片づけられ、長時間待たされた割にあっという間の診察で、保険のきかない高額な注射を打たれ、毎回病院の後は打ちのめされた気分になるのでした。
家に帰ると母親に毎日豹介と遊んでいることをやんわり咎められます。
そろそろ働いて欲しいと思っていることは承知ですが、春香は気づかないふりをしていました。
がん発覚当初は、発狂し落ち込む春香を献身的に支え、こんな体に産んだからだと暴言を吐く春香の言葉に傷つきつつも、優しく見守っていた両親でしたが、近頃は毎日遊び歩く春香に呆れ気味なのが伝わってきます。
【転】プラナリア のあらすじ③
ある日デパートの食料品売り場に遊びに来ていた春香は徘徊老人に絡まれ、気分が悪くなりその場にへたり込んでしまいます。
そんな春香を救ってくれたのは、同じ病院に入院していた永瀬という女性でした。
向かいの店で働いていた永瀬は、春香が絡まれている現場を目撃し助けに来てくれたのでした。
永瀬は人目を惹く美人で、入院中から春香は永瀬のことを知っていました。
これをきっかけに永瀬は春香に自分の店でアルバイトしないかと話を持ち掛けます。
永瀬に好感をもっていた春香は戸惑いながらも承諾し、週四日甘納豆屋で働くことにしました。
永瀬は雇われ店長で、年齢は春香と一つ違いでした。
永瀬の顔を潰さないようにアルバイトに通う春香でしたが、仕事終わりに永瀬と飲みに行った夜、心の中にもやもやが溜まっていることに気づきます。
永瀬と自分は年齢が一つしか違わないのに、永瀬はすでに結婚し仕事にも一生懸命取り組んでいます。
地に足のついた彼女が鼻につき、自分を美人だと自覚しているところも気に食わない春香。
こんなことで永瀬を嫌いになってはいけないと自分に言い聞かせますが、後日永瀬から乳がん患者の手記や、飲み会の席で話したプラナリアについての資料が段ボールで届きます。
乳がん患者のショッキングな写真や拡大されたプラナリアの写真を見て春香は脱力してしまいます。
怒りがこみあげ、何もかも嫌気がさした春香はアルバイトを無断欠勤してしまいます。
【結】プラナリア のあらすじ④
アルバイトを無断欠勤した春香は、彼氏の豹介と豹介の友達と居酒屋で飲んでいました。
そこへ永瀬から電話がかかってきます。
電話に出た春香に永瀬は何故無断欠勤したのかと問いかけます。
辞めたくなったのだと軽い口調で返す春香に、永瀬は電話で連絡くらいすべきだと怒りを抑えた声で殊更優しく諭します。
春香の豹変した様子に、自分が送った本がまずかったのだと気づいた永瀬は詫びますが、なおも春香は軽い口調で、ああいう資料はあえて読まないようにしていたと言います。
乳がんが自分のアイデンティティーになっていることや、生まれ変わるなら次はプラナリアになりたいと話していた春香を想っての永瀬の行動でしたが、裏目に出てしまいました。
春香は対峙することが怖くてあえて現実から目を背けていたのです。
平行線のまま、一方的に電話を切った春香は飲みの席に戻りますが、心はやさぐれています。
豹介から友達がいる席で乳がんの話をしたら次こそ別れると釘をさされていたにもかかわらず、豹介の神経を逆撫でするような発言をし、場を静まり返らさせた春香は一人席を立ちます。
そして出口が見えない中を彷徨い続けます。
プラナリア を読んだ読書感想
直木賞を受賞した本作はじめ、他4編が収録されています。
「ニート」という言葉がない時代に、働かないことをテーマについて書かれており、人生の迷路に迷い込んだ主人公の苦悩がリアルに描かれています。
恋人の神経をあえて逆撫でしたり、親に八つ当たりし、挙句の果てにバイトを無断欠席して、良いところが一つもない春香が痛々しく、次はプラナリアになりたいと切に願う姿が悲しいです。
短編ですが、重厚な読み応えがあり、読後は心に重いものがずっしりとくる一作です。
心が病んでいる時には世界観に浸りすぎてしまう恐れがあるので注意が必要です。
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