【ネタバレ有り】いま、会いにゆきます のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:市川拓司 2007年11月に小学館から出版
いま、会いにゆきますの主要登場人物
秋穂巧(あいおたくみ)
妻を亡くしたシングルファザー。心と身体にさまざまな不具合を抱えている。弱虫、記憶力が弱い、必要以上の心配性など。温度・湿度、気圧などの変化にすごく敏感。
秋穂佑司(あいおゆうじ)
巧と澪の息子。「そうなの?」が口癖(父親譲り)。イングランドの王子、と作品中で語られるような白い肌とミルクティー色の髪の毛を持つ男の子。
秋穂澪(あいおみお)
巧の妻であり、佑司の母。佑司が5歳のときに、28歳という若さで亡くなる。
ノンブル先生(のんぶるせんせい)
秋穂家がよく訪れる近所の17番公園のベンチにいつも居る老人。若い頃は小学校の教諭をしていた。澪が亡くなる前後の、澪と巧の関係について重要なカギを握っている人物。
いま、会いにゆきます の簡単なあらすじ
「ママがアーカブイ星から帰ってきちゃった」ーーー。若くして亡くなった、巧の妻であり佑司の母である澪。ある日散歩に出かけた父子のもとに、亡くなったはずの澪が現れるという不思議な現象が起こります。雨の季節になったら戻ってくる、と予言めいたことを言い残していた約束を守って会いに来てくれたと考える巧ですが、その不思議な現象の背景にはもっと複雑で切ない事情が隠されていました。雨の季節の終わりに再度の別れが訪れ、それと同時に澪が戻ってきたその理由を巧は知って、父子ふたりで力を合わせて生きていくというストーリーです。
いま、会いにゆきます の起承転結
【起】いま、会いにゆきます のあらすじ①
朝食の献立は毎朝同じ、身につけている洋服は汚れが付いているうえに季節も外れたものを数日着まわし、6歳の息子の耳は聴力を妨げられるほど耳垢が詰まっているーーー妻であり母であった澪が亡くなって以降、秋穂巧と秋穂佑司は父子ふたりでそんな日々を送っていました。
澪が亡くなったとき、もともと弱虫である自覚のある巧は、とことん弱虫になり、心のバランスを崩して息をする力さえ失いかけるような状態でした。
もともと巧は記憶力があまりにも弱かったり、必要以上に興奮したり不安を感じたりするような心と身体の不具合を抱えており、澪の死もあってずいぶんと長い間仕事も手につかずにいましたが、職場からのさまざまな計らいもありなんとか祐司とふたり、なんとか最低限の生活ができるようになったのでした。
母を亡くした佑司をなるべくひとりにしないように、毎日16時には仕事を終えて帰宅し一緒に過ごせるようにしてくれたのも、職場の所長の気遣いでした。
巧は学校を終えた佑司と一緒に夕飯の買い物を済ませ、帰りに近所の17番公園に寄ると、いつものように老人と犬が居ました。
ノンブル先生、と呼ばれるこの老人は、若い頃に両親を亡くし、病気の妹を支えながら小学校教諭を務め、現在はプーと呼ばれる老いたむく犬と暮らしています。
そんなノンブル先生に巧は、小説を書こうと思う、と相談を持ちかけます。
澪と出逢い過ごしてきた日々を新鮮に覚えているうちに、すべてを忘れてしまわないうちに。
5歳までしか母親と一緒に居られなかった佑司に将来読んでもらうために。
【承】いま、会いにゆきます のあらすじ②
澪が亡くなったとき巧は、自分たちがいま生きているこの星の他に、死んだ人間が行く星があるのではないかと考えていました。
その星の名前は「アーカイブ星」といい、死んだ人間はそこで穏やかに過ごし、またそれは言い換えれば自分たちの心の中のようなものだと考え、佑司にも話して聞かせていました。
誰かが誰かを思っているかぎりは死んだ人との本当の「さようなら」ではなくアーカイブ星で暮らしていけるのだ、いずれパパがアーカイブ星に行ったときにママに会うためにずっと憶えて思っていてほしいと。
澪が佑司を産んだ時、それは極めつきの難産でした。
妊娠中からその不調は続いており、産後にいったん元気を取り戻したようにみえたものの、彼女の内部の機能は着実に弱っていたのでした。
その妊娠中から産後にかけての身体の不調が、その5年後に彼女が亡くなる直接関係しているのかどうかは分かりませんが、佑司は自分のせいでママが死んだと親戚から聞かされたことで、それが真実なのかという疑問を巧に問いました。
それはちがう、本当にちがうのだと巧は佑司に伝えました。
巧と澪が望んでこの世に迎え入れた佑司が苦しむようなことはあってはならない、と巧は強く思うのでした。
そんな話をした翌日、ふたりはいつものように森へ向かいました。
森の中は暗く、鳥の声さえしないほど静かで、憂鬱な空模様の中、森を抜けて佑司お気に入りの工場跡地にたどりついたところで、ふたりは奇跡のような光景を目にしました。
よく似た誰かでもなく、双子の妹でもクローンでもなく、そこに居たのは澪そのものでした。
「ママ?」佑司がこらえきれずに彼女を呼びましたが、澪は記憶を失いなにも憶えていないのでした。
【転】いま、会いにゆきます のあらすじ③
「雨の季節になったら戻ってくるから」「雨とともに訪れて、あなたたちがしっかりと暮らしているのを見届けたら、夏が来る前に帰る。」
澪は生前巧と約束していた通り、ふたりのもとへ戻ってきました。
しかし実際に澪が雨の時期とともにこちらの世界に戻ってくるという約束が果たされたことはつまり、夏がくる前にはまた澪は去ってしまうこととイコールであり、佑司が澪に甘えることができる残り時間が短いことを巧は思い知るのでした。
記憶のない澪を混乱させたり傷つけたりせずに一緒に居られる時間を大切にしたいと思った巧は、佑司と協力して澪が1年前に病死しているという事実を隠しながら生活を送っていくことを決意します。
そんななか澪は荒れ放題の家の中、耳の聞こえに支障が出るほど耳垢が詰まっていた佑司の耳の様子など、巧と佑司の不自然な態度を不思議に思い、戸惑います。
そんな澪に巧は、かつて自分たちが出逢い恋をして家族になった歴史を澪に話して聞かせました。
あらゆる意味で模範的生徒だった15歳の澪の話、新体操を始めて大ジャンプをしたり駆け抜けたりしていた高校生の頃の澪の話、大学生のときに再会したのをきっかけに交際をはじめ、紆余曲折ありながらもゆっくりと関係を築いていったふたりの話を順に聞かせました。
そのことによって記憶が戻ることはありませんでしたが、ふたりの歴史と今の巧を知ることで、記憶がないからこそまた最初から巧に恋をできると喜ぶ澪の幸福そうな笑みを、巧もまた幸せに思うのでした。
【結】いま、会いにゆきます のあらすじ④
月が変わり、澪がこの星に居られる雨の季節ももう半分が過ぎようとしていました。
いつも17番公園に居て巧たち家族を見守ってくれていたノンブル先生の姿が、数日前から見られないのでした。
巧は公園の一番外れにあるベンチに居た青年に声をかけノンブル先生の所在を知っているか尋ねると、ノンブル先生は自宅で倒れ病院に搬送された結果、後遺症が残りまんぞくに話すこともできず、もとの生活に戻ることはできないのだという事実を知ります。
そんなある日巧は熱を出し、飲んではいけない解熱剤を飲んでしまい救急車で病院に運ばれます。
過去に同じ薬で具合が悪くなったことがあったことを巧は忘れてしまっていたのでした。
そんな巧を見て自分がいなくなった後に同じことがあったら、と心配する澪の姿を見て、巧は澪がすべてを知ってしまったことに気づきます。
それ以降澪は家事のすべてを佑司に教えこみ、優秀な指導役がついて佑司はみるみるうちに能力を発揮するようになりました。
そして雨の季節が終わる2日前、ありがとうの言葉を残して澪はアーカイブ星へと帰っていきました。
澪が去ったあともふたりはしばしば森の工場跡地へ通い、佑司は♯5のポストにママへの手紙を投函し続けました。
その手紙はそっと巧が回収し、失くなっているのを確認した佑司はママの元へ届いていると満足げに頷くのでした。
巧と佑司はノンブル先生のお見舞いに行き、そこでノンブル先生から生前澪から預かった手紙を受け取りました。
そこに書いてあった事実は、この不思議6週間がもたらしたことの意味を理解させてくれるものでした。
いま、会いにゆきます を読んだ読書感想
いろいろな種類の切なさががぎゅっと詰まった、なんて切ない物語なのだろう、と感じました。
相手を想うあまりに突き放すことを優しさだと考える切なさ、一度ならず二度も大切な人を失う切なさ、大切な人を遺していかなければならない切なさ。
哀しい未来を知りながら、守るべきもののためにできることを考える澪の強さと、それを受け入れる巧、佑司の3人の家族としての絆の深さに心を打たれました。
生きづらい不具合を抱える巧を受け入れ協力しているノンブル先生や職場の人々などの存在、そういう優しさは決して小説の中の特別なものではなく、この現実世界にもそこらじゅうにあるものだと思いますが、受け取る側が気づかなければなかったことになってしまうのだということも、最後まで読んで感じました。
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