【ネタバレ有り】怪しい来客簿 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:色川武大 1989年10月に文藝春秋から出版
怪しい来客簿の主要登場人物
私(わたし)
物語の語り手。雑誌社勤務を経て作家となる。
ウメ(うめ)
私の実家の居候。
大滝幹良(おおたきみきお)
私の旧制中学時代の友人。
後宮貞雄(こうみやさだお)
私の旧制中学の同級生。戦後に牧師を経て事業団の課長に就任。
怪しい来客簿 の簡単なあらすじ
旧制中学校を無期限で停学処分となってしまった「私」は、家の中で悶々とした毎日です。やがて戦争が始まり東京の山の手一帯は焼夷弾により焼き尽くされていき、奇跡的に無事だった私の生家は罹災者の仮の宿となります。次から次へと見知らぬ客が押し寄せていき、何時しか家の中に他人が居る状態が当たり前のことになっていくのでした。
怪しい来客簿 の起承転結
【起】怪しい来客簿 のあらすじ①
太平洋戦争中に私は1日中家に籠り、万年床の上で自堕落な日々を送っていました。次第に空襲が激しさを増していき、私が住んでいた東京の山の手一帯は特に被害が甚大で一面が焼け野原です。辛うじて被弾を免れた私の実家は自宅を焼け出された人たちの仮の宿となり、入れ替わり立ち替わり親類縁者が居候しています。
ある時に私が1番奥の子供部屋に行こうとして踏んづけてしまったのは、ウメという名前の白髪頭の年配女性です。ウメさんは自らを「空襲の熟練工」と自慢するように、8回から9回ほど罹災しましたがその度に一命を取り留めています。若くして夫を病気で亡くしてしまい、他に身寄りもいないようです。
戦争が終わり同居者たちが方々に散っていく中でも、ウメさんだけは居座り続けています。
私の父は退役軍人でしたが戦後は恩給が廃止されたため、彼女の面倒を見る余裕はありません。
遂には養老院に行くことが決まり、ウメさんは現れた時と変わらぬ姿で家を出ていくのでした。
【承】怪しい来客簿 のあらすじ②
大滝幹良とは教室にいる時は交際はありませんでしたが、中学3年生になって勤労動員で工場に駆り出された頃から急に親しくなっていきました。工場のボイラーの前で彼から聞かされたのが、ロシアの小説家ゴーリキーを始めとする19世紀までの数多くの文学者に関するエピソードです。私たちは少ない小遣いを出し合い謄写版の機械を購入して、ガリ版雑誌の作製に熱中していきます。
その雑誌が工場に配属されていた軍人の目に触れて、非国民として無期限停学の処分を受けてしまいました。
優等生の大滝は幾分か軽い処分で済んだようで、早稲田大学のロシア文学科に進学します。8月に戦争が終わった後に、自宅で謹慎していた私を訪ねてきたのは大滝です。大学の紋章が付いた帽子をポケットに突っ込んでいたのは、無期停学のまま未だに中学生である私に配慮したためでしょう。
私たちは家の大きな門の前で、昔と変わらずにとりとめのないお喋りをしたりノートに書き付けた小説を見せ合ったりするのでした。
【転】怪しい来客簿 のあらすじ③
初めて私が父の弟と会ったのは小学生になったばかりで、転勤で大阪から東京に戻ってきた時に東京駅まで出迎えに行った時です。
叔父はお洒落なフロックコートを身に纏っていて、叔母は美人で従兄弟たちも皆スマートで私たちの家族とは似ても似つきません。
叔父一家は私の生家に近いところに新居を構えたため、お互いに頻繁に行き来するようになります。
私の父は昔かたぎな軍人のために、銀行マンとして要領よくエリートコースを走る叔父を軽蔑しているようです。
戦後は叔父たちの暮らしは逼迫していたようで、彼らとも疎遠になっていきます。間もなく叔父は入院して半年足らずでこの世を去りますが、とうとう私はお見舞いに行けず仕舞いです。ある夜私がふと窓の外を見ると、空き地の向こうの細道を死んだはずの叔父が背中を丸めてゆっくりと歩いています。
私は死者を冒涜しているような罪悪感を覚えながらも、その懐かしい後ろ姿から目を離すことが出来ないのでした。
【結】怪しい来客簿 のあらすじ④
後宮貞雄は私の旧制中学の同級生で、学生時代から英語力に秀でていました。
実業家を目指していたようでしたが、当時の風潮もあり海軍兵学校の受験を余儀なくされます。
中学を出た後宮と最初に再会を果たした場所は、上野の闇市です。
学業をほったらかしてミカンを売っている私に、励ましの言葉をかけてくれました。小さな雑誌社を転々として原稿を書くようになった私は、キリスト教関係の出版社の前で後宮の姿を見かけます。
彼が選んだ職業は実業家ではなく、ルーテル派の牧師です。語学力を見込まれた後宮は海外経済協力事業団へ、文芸雑誌で新人賞を獲得した私は作家へ。
それぞれの道のりを歩いていくふたりの友情は、その後も変わることはありません。
結婚して私が構えた新居には様々な客が来ましたが、後宮はその中でも1番に妻から歓迎されていました。彼が新宿の路上で脳溢血の発作に襲われて帰らぬ人となったのは、48才の時です。
火葬場で後宮の骨が綺麗に並べられているのを見て、私は同じ時代を生きた身内を失った悲しみを感じるのでした。
怪しい来客簿 を読んだ読書感想
第二次世界大戦下での非日常と日常が入り乱れた日々が、淡々としたタッチから映し出されていて味わい深かったです。
昼間も真夜中もお構いなしにサイレンが鳴り響いて、偵察飛行機が飛び交う異様な時代の雰囲気に圧倒されました。
病によって亡くなって叔父の幻影を目撃するシーンには、恐怖よりもユーモアと哀愁を感じてしまいます。
家の中に赤の他人がいて寝泊まりしていることに対しても、次第に動じなくなっていく主人公の逞しさが痛快です。
忘れがたい珍客たちを振り返りつつ、同じ時代を生きた全ての人に別れを告げるラストが感動的でした。
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