【ネタバレ有り】そんな夢をあともう少し 千住のおひろ花便り のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:稲田和浩 2019年1月に祥伝社から出版
そんな夢をあともう少し 千住のおひろ花便りの主要登場人物
おりん(おりん)
女郎屋「伊勢屋」の遊女。
幸助(こうすけ)
岡っ引き。
傳右衛門(でんえもん)
伊勢屋の主人。
おひろ(おひろ)
おりんに付いて遊女と客の取り持ちをする。
仙吉(せんきち)
本屋「三河堂」の主人。
そんな夢をあともう少し 千住のおひろ花便り の簡単なあらすじ
おりんは千住の「伊勢屋」で旅人や人足を相手に遊女を続けていましたが、30歳を超えた辺りからは客足が遠のいていく一方です。このままだと格下の遊女屋に流されてしまうことを心配した周りの人たちは、何とか彼女に所帯を持たせたせて人並みに幸せにしてあげたいと考えています。そんなおりんを密かに思っているのは岡っ引きの幸助でしたが、ふたりに思わぬ試練が訪れるのでした。
そんな夢をあともう少し 千住のおひろ花便り の起承転結
【起】そんな夢をあともう少し 千住のおひろ花便り のあらすじ①
江戸時代に幕府から唯一営業を認められていたのは吉原の遊郭で、それ以外の非公認の私娼館が集まっている地域は岡場所と呼ばれています。
江戸と地方を結ぶ宿場町として賑わっていた千住にも旅人や肉体労働が利用する岡場所があり、伊勢屋もそのひとつです。
おりんは33歳の遊女で、伊勢屋で働いている中では1番の年上でした。
近頃では客足が落ち込んでいく一方で、主人の傳右衛門やおりんの世話係のおひろの心配の種です。
お客さんが付かなくなった遊女は格下の遊郭へ売り飛ばされてしまうこともありますが、傳右衛門はそこまで冷酷非情ではありません。
十両ほど出してくれる相手がいれば、その人と所帯を持たせてやってもいいとまで考えています。
おひろの頭の中に浮かんでいるのは、1か月ほど前から伊勢屋に通いだしておりんの数少ない馴染み客となった岡っ引きの幸助です。
40歳前後で傳右衛門からも信頼されていましたが、十両もの大金を持っているとは思えません。
【承】そんな夢をあともう少し 千住のおひろ花便り のあらすじ②
伊勢屋から5軒先の路地を曲がった先には、三河堂という名前の小さな本屋さんがありました。
幸助は岡っ引きにしては珍しく読書家で、上司に嫌味を言われながらも仕事の合間にはしばしばこの店に立ち寄っています。
店を独りで切り盛りするのは70歳を超えた仙吉で、息子は若くして亡くなってしまったために跡継ぎはいません。
幸助はいつか御上に十手を返した後にこの店を受け継いで、日がな一日本を読みながら暮らすのが夢です。
いくら出せば三河堂を売ってもらえるのかそれと無く訪ねてみましたが、仙吉もまさか岡っ引きが古本屋の主人になるとは思っていないために相手にされません。
幸助が店を出た後に入れ違いになってやって来たのは、伊勢屋のおひろです。
おひろは幸助に店を出来るだけ安い値段で売って、おりんとふたりで本屋をやらせてもらえないか相談してみます。
仙吉は三河堂を高く売ったお金で残りの人生を安心して送りたいため、おひろの頼みは断られてしまいました。
【転】そんな夢をあともう少し 千住のおひろ花便り のあらすじ③
千住に草三郎という凶悪な強盗が逃げ込んできましたが相当な剣術の使い手のため、幸助たちは6人がかりで取り逃がしてしまいました。
岡っ引きの親分・尾張屋三右衛門からは「本なんか読んでるんじゃねえ」と怒鳴られてしまい、家で大人しくしていなければならないためにおりんにも会いに行くことが出来ません。
そんな中で10両を持って伊勢屋を訪れて、おりんを見受けしに来たのは三河堂の仙吉です。
主人の傳右衛門としてはお金さえ払ってもらえれば、相手は誰でも構いません。
10両を払っておりんを自由の身とした仙吉は、謹慎中の幸助のもとを訪れます。
幸助が仙吉の立て替えた10両を完済すれば三河堂を譲り渡すこと、店の2階に仙吉を住まわせて死ぬまで3度の飯を食べさせること、伊勢屋から連れてきたおりんと共に自分の死に水をとると約束すること。
幸助は仙吉の粋な計らいに感謝するとともに、遊女としてではなくひとりの女性としておりんを愛していたことに気付くのでした。
【結】そんな夢をあともう少し 千住のおひろ花便り のあらすじ④
千住大橋で幸助たちが草三郎を取り逃がしてから1年が経っていましたが、未だに賊は捕まっていません。
尾張屋三右衛門は寄る年波には勝てずに引退となり、幸助が親分の座を受け継ぐことになりました。
呑気に本屋さんをやるという幸助の夢は潰えてしまいましたが、仙吉のサポートもあって今ではおりんが立派な三河堂の女将さんです。
久しぶりにおひろが様子を見に行くと、遊女をやっていた頃よりもふっくらとして人間も穏やかになっています。
おひろは三河堂を出た後に伊勢屋に戻らず、千住大橋の袂に寄り道をしました。
夏になるとこの辺りには、オミナエシという黄色い花が咲きます。
オミナエシは別名「女郎花」とも言われていているために、おひろの胸の内に湧いてきたのはこれまで自身が世話をしてきた多くの遊女たちの顔です。
女たちの行く末は千差万別で誰しもがおりんのように幸せになることは難しいですが、これからもオミナエシが伊勢屋の遊女を見守ってくれるような気がしました。
そんな夢をあともう少し 千住のおひろ花便り を読んだ読書感想
江戸時代に宿場町として栄えていた、千住の街並みや人々の暮らしぶりが生き生きと描かれていました。
遊女としては盛りを過ぎながらも、惰性で仕事を続けているようなヒロインのおりんが何とも色っぽいです。
そんな彼女に心惹かれていながらも、なかなかその気持ちを伝えることができない岡っ引きの幸助のキャラクターも微笑ましく移ります。
いい年をして不器用なふたりの恋の行く末をサポートする、遣り手のおひろや本屋の主人・仙吉の優しさには心温まるものがありました。
数々の困難を乗り越えて結ばれたふたりと、千住大橋に咲き誇るオミナエシが美しかったです。
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