監督:ジョーダン・ピール 2019年9月に東宝東和から配給
アスの主要登場人物
アデレード・ウィルソン/レッド(ルピタ・ニョンゴ)
本作の主人公。幼少期もう一人の自分に遭遇し、ショックから失語症になったという過去がある。
ゲイブ・ウィルソン/アブラハム(ウィンストン・デューク)
アディの夫。アディのトラウマを理解しつつも、サンタクルーズのビーチへ誘う。
キティー・タイラー(エリザベス・モス)
ゲイブの友人の妻。おしゃべりで少々無神経。
ゾーラ・ウィルソン/アンブラ(シャハディ・ライト・ジョセフ)
アディとゲイブの娘。スマホを手放さない今時女子だが、影に勇敢に立ち向かう。
ジェイソン・ウィルソン/プルートー(エヴァン・アレックス)
アディとゲイブの息子。頭の回転が良く、自分の影であるプルートーをうまくかわす。
アス の簡単なあらすじ
第90回アカデミー賞脚本賞を受賞し話題となった「ゲット・アウト」のジョーダン・ピール監督によるホラー作品。
幼少期、あるトラウマが原因で失語症になったことがあるアデレードことアディは、家族と再びそのトラウマの地・サンタクルーズを訪れることになりました。
アディは過去のことを気にしつつも楽しい時間を過ごしていましたが、そんな家族の前に、自分たちとそっくりな人間・ドッペルゲンガーが姿を現します。
攻撃的な“アス=私たち”から逃げ惑いながら、アディは想像もできなかった大きな秘密を知ることになるのでした。
アス の起承転結
【起】アス のあらすじ①
「米国本土の地下には 数千キロのトンネルがある 廃棄された地下鉄網 使われなくなった通路 そして廃坑などだ 多くの者は それらが 存在する意味を知らない」—1986年サンタクルーズ。
大勢の人々が手をつなぎ、アメリカの飢饉を救うべく協力し合うことの美しさを訴えるCMが流れています。
少女アディ(アデレード)は両親とサンタクルーズにある遊園地に来ていました。
母親がトイレの間アディを見ておいてと父親に言いますが、父親はゲームに夢中です。
アディは一人遊園地の裏手の浜辺へと歩きだしました。
途中「エレミヤ書 11章11節」と書かれた札を持つ人物を見かけます。
浜辺にはミラーハウスがありました。
アディは足を踏み入れます。
しばらく歩き回った後、アディは背後に自分とそっくりな少女の存在を感じました。
それはもちろん鏡に映った自分自身…ではありませんでした。
アディは自分と同じ顔の少女を見て立ち尽くします。
—現在。
アディは夫・ゲイブ、娘・ゾーラ、息子・ジェイソンと共に、サンタクルーズにある別荘を訪れました。
浜辺に行くという話になり、アディはミラーハウスでのことを思い出します。
たった15分両親から離れただけでしたが、あの後アディはPTSDを発症し、失語症になってしまったのです。
このこともあってアディは浜辺へ行くことを嫌がりますが、ゲイブに説得され、結局行くことになりました。
ジェイソンの姿が見えないことに気づいたアディが家の中を探すと、ジェイソンはゾーラにいたずらをして閉じ込められていました。
ゲイブは小型クルーザーを買ってきて、家族に披露します。
しかしクルーザーの状態はあまり良くないようで、アディたちは苦笑いしてしまいました。
浜辺へ向かう道中、アディはまた昔のことを思い出します。
カウンセリング帰りの車中、アディから目を離したことで両親が口論していました。
アディは後部座席から、父を責める母親を見ていました。
【承】アス のあらすじ②
4人は浜辺で、友人であるジョシュとキティ夫婦と合流します。
入れ替わりに、エレミヤ書11章11節と書かれた札を持った男が救急車で搬送されていきました。
浜辺にはあのミラーハウスがあり、アディは不安そうに見つめます。
キティがアディに、バレエをやめたことを後悔していないかと尋ねました。
アディは幼いころバレエを習っていたのです。
会話があまり得意じゃないアディは軽く話を合わせていました。
浜辺のトイレに行ったジェイソンは奇妙な男性を見かけます。
夏だというのにコートを羽織り、両手を広げて立っているのですが、その手からは血が滴っていました。
ジェイソンの姿が見えないことに気づいたアディはパニックになり、見つけたジェイソンを抱きしめます。
夜、アディは家に帰りたいとゲイブに言います。
あのミラーハウスでのことを話し、あれからずっとあの少女に狙われている気がすると。
ゲイブは自分がいるから大丈夫だとアディをなだめました。
その時、家が停電しました。
ジェイソンがやってきて「外に家族がいるよ」と言います。
確かに家族らしい4人が手をつないで立っているのが見えます。
ゲイブは外に出て話しかけますが4人組は微動だにせず、何も答えません。
警察が来るのに14分もかかるということで、ゲイブは金属バットを手にしますが、彼らは家の中に侵入してきました。
赤いつなぎの服を着て手に植木バサミを持った4人はアディたちにそっくりです。
アディ似の女は「自分たちは影だ」と話します。
鎖につながれた少女と影。
「少女は温かい食事が食べれて、影は血まみれのウサギを食べさせられた」と気味の悪い声で話します。
その後も影の人生を話し続け、影は少女を激しく憎んだと言いました。
そしてアディ似の女はレッド、ゲイブ似の男はアブラハム、子供たちはアンブラとプルートーという名前だとわかりました。
「お前ら何者だ」と聞くゲイブに、レッドは「アメリカ人だ」と答えます。
【転】アス のあらすじ③
アディはレッドに命令され、椅子と自分の手を手錠でつなぎます。
そしてゾーイに逃げるように囁きました。
しかし家から飛び出したゾーイをアンブラが追いかけていきました。
さらにゲイブの前にはアブラハムが立ちはだかり、ジェイソンにはプルートーがくっついています。
逃げるゾーイは車の影に隠れます。
追ってきたアンブラは車の周りをうろつきながら、車を叩いて音を立てだしました。
その音で出てきた住人をアンブラはあっさりとハサミで殺害します。
その隙にゾーイは逃げ出しました。
家の戸棚に隠れたジェイソンですが、横にはプルートーがついています。
ジェイソンはライターを持ち歩いていて、それはプルートーも同じでした。
プルートーがお面を外すと、顔は火傷でただれているようです。
ジェイソンは一緒に遊ぶふりをしながらプルートーを戸棚に閉じ込めます。
ゲイブはアブラハムに殴られボートに乗せられました。
2人は沖合でもみ合いになりますが、アブラハムをスクリューに巻き込んで殺すことに成功します。
家ではなんとか拘束を解いたアディがレッドの目を盗んで移動し始め、ジェイソン、ゾーイ、さらにゲイブとも合流し、ボートに乗って別荘から逃げます。
—同じ頃、ジョシュの家にも“ジョシュたちの影”が現れていました。
影たちはジョシュやキティ、娘たちを殺していきます。
そしてジョシュの家を訪れたアディたちは、この現象が自分たちだけでなく、辺り一帯で起こっていると知るのでした。
テレビでもこの異常事態がアメリカ全土で起こっていると伝えています。
アディたちは襲ってくるジョシュたちの影を撃退し、メキシコ方面へ逃げようと車に乗り込みました。
しかし車の前にレッドが立ちはだかります。
運転するゾーイはレッドをひき殺そうと、車に張り付くレッドをなんとか振り落としました。
夜が明けてアディたちは浜辺の町へたどり着きます。
しかしそこにはたくさんの死体が転がっていました。
【結】アス のあらすじ④
前方にプルートーが立っています。
アディはプルートーが辺りを爆発させようとしていると気づきました。
ジェイソンが動くとプルートーが真似するので、ジェイソンは後ずさりします。
すると真似をして後ずさりしたプルートーは、背後の炎にのまれていきました。
そこにレッドが現れ、ジェイソンをさらって走っていきます。
アディはレッドがあのミラーハウスへ入るのを目撃し、後を追います。
館の奥には地下へと延びる長いエスカレーターがあり、降りると長く広がる廊下がありました。
ウサギが放し飼いになっています。
—地上ではゲイブとゾーラが放置された救急車を見つけていました。
ゲイブはたくさんの赤い服を着た影たちが手を繋いで立っているのを目撃します—アディの前にレッドが姿を現しました。
そしてこの場所について語り始めます。
影はアメリカ政府が実験で製造したクローンで、地上に住む人間のコピーを作り、地下で生活させていたのでした。
魂が繋がっているため人間はクローンをまねた行動をします。
そしてアディが幼少期ミラーハウスで遭遇したのはレッドだったのです。
その後政府は実験をやめ、クローンたちを放置しました。
怒ったクローンたちはいつかクーデターを起こそうと、「ハンズ・アクロス・アメリカ」(冒頭のTVCMのこと)という計画を立てたのです…アディはなんとかレッドを倒し、ジェイソンを救出して地上へ出ました。
ゲイブ、ゾーラとも合流し車でその場を後にします。
ふとアディはあることを思い出しました。
あの日ミラーハウスで出会った少女は、アディの首を絞めて気絶させて服を奪い、それを着て地上に出ました。
そう、クローンだったのはアディで、レッドが人間だったのです。
失語症と思われたのはクローンだから…ジェイソンが自分の顔を凝視しているのに気づいたアディは笑みを浮かべました。
あてもなく走る車。
山には手を繋いだクローンたちが並んでいました。
アス を観た感想
移民、経済格差…アメリカだけでなく世界共通の課題となっている問題ですが、本作はそんな問題を思い起こさせる、社会的な一面を持った作品に仕上がっています。
もちろんホラー要素はふんだんにあり、クローン家族との遭遇前後はハラハラした展開が続きます。
そして理不尽な攻撃をかわしながら真実が見えてきたころ、一気に空気が変わったような気がしました。
そしてなんといっても主人公アディ(レッド)演じるルピタ・ニョンゴがお見事。
かすれた声でしゃべり続けるレッドは不気味ですし、アップを多用した独特のカメラワークも素晴らしいです。
過剰で派手な演出に頼らず、雰囲気やこういう演技で観るものの恐怖をあおるやり方はさすがジョーダン・ピール監督ですね。
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