監督:ロルカン・フィネガン 2021年3月にパルコから配給
ビバリウムの主要登場人物
ジェマ(イモージェン・プーツ)
本作の主人公。恋人のトムと新居探しをしていてヨンダ—に閉じ込められるハメになる。小学校の先生。
トム(ジェシー・アイゼンバーグ)
ジェマの彼氏。社交的なジェマと違って、あまり積極的に人と関わろうとしない性格。
マーティン(ジョナサン・アリス)
ジェマとトムが訪れた不動産屋。二人にヨンダーを紹介する。
男(少年期:セナン・ジェニングス 青年期:アイナ・ハードウィック)
ジェマとトムの元に届けられた赤ちゃん(男)。異常なスピードで成長する。
ビバリウム の簡単なあらすじ
抜け出せない不思議な住宅街に迷い込んだカップルの運命を描いた、ラビリンス・スリラー。
日本でも話題になりました。
ごく普通のカップルのジェマとトムは新居を探しています。
ある日訪れた不動産屋から紹介された分譲住宅街「ヨンダー」は、全てが統一された不思議な家だらけ。
家を見学中、突然不動産屋が忽然と消え、二人はどんなに車を走らせようとヨンダーから出ることができなくなってしまいます。
そして疲れ果てた二人の前に赤ん坊が入った箱が届けられ、そこには「育てれば解放される」の一言が…
ビバリウム の起承転結
【起】ビバリウム のあらすじ①
ある晴れた日。
木の上ではカッコウが他の鳥の巣に卵を産み落とし、去っていきます。
やがて孵ったヒナはその巣にいる他のヒナを蹴落とし、その巣の母鳥が運んでくるエサを食べてどんどん成長。
ついには母鳥より大きくなるのでした。
小学校の先生をしているジェマは、校庭で蹴落とされて死んでしまったヒナを見つけた女子児童に気づきました。
やがて迎えの親がやってきて女子児童は笑顔で去っていきます。
そこに入れ替わりでやってきたトムは、「かわいそうに」と言って、鳥の死骸を土に埋めてあげました。
その後二人はある不動産屋を訪れます。
そこにいたマーティンという社員は少し不気味でした。
「お子さんは?」との問いに「いない」と答えるジェマ。
話しかけられ、なんでもすすんで答えるジェマとは違いトムは少し警戒気味でした。
しかしあっさりとある分譲住宅街を観に行くことが決まってしまいます。
マーティンが運転する車の後をついて行った先、今大注目だという夢の住宅街、ヨンダーが姿を現しました。
しかしその住宅街はどこを見渡しても全く同じデザインの家、他の車も人も見当たらないまるで別世界のような異様さでした。
【承】ビバリウム のあらすじ②
二人が案内されたのは9番の家。
男の子用の子供部屋があったり、寝室には男女のパジャマが用意されていたりと家もまた不思議な雰囲気。
イチゴとシャンパンをすすめるマーティンを断って、二人は早く済ませて帰ろうと考えていました。
そして裏庭を見ているとき、マーティンが忽然と姿を消します。
見るとマーティンの車もなく、二人はこの間に帰ろう、と車でヨンダーを出ようとしました。
しかし進めど進めど、いくら車を走らせても9番の家に戻ってきてしまいます。
ついにはガソリンが底をつき、しょうがなく二人は9番の家で一夜を明かすことにします。
翌日、屋根の上に上がったトムは愕然とします。
そこにはどこまでも続く同じ家が果てしなく続いていました。
太陽を目指してひたすらまっすぐ歩いて進もうと歩き出したものの、また9番の家に戻ってきてしまいます。
そこで二人は道に置かれた段ボール箱に気が付きました。
そこにはパック詰めされた食料と歯ブラシなどの日用品が入っています。
怒ったトムは段ボールの端を持って家に入り、ライターで火をつけます。
誰かが気づいてくれることを願ってその火を見つめていた二人は、疲れから道で寝入ってしまうのでした。
翌朝、深く立ち込めるもやの中で目覚めた二人はまた段ボール箱が置かれているのに気が付きます。
その箱の中には服も着ていない、産まれたてのような男の赤ちゃんが入っていました。
そして箱には「育てれば解放される」の文字が。
二人が振り向くと、そこにあるのは昨夜火をつけたはずなのに何事もなかったかのように立つ、9番の家でした。
【転】ビバリウム のあらすじ③
3か月後、赤ん坊だった男の子は信じられないようなスピードで成長し、7歳くらいになっていました。
トムとジェマの話し方を真似したり、自分の思い通りの量の食事が用意されるまで耳障りな金切り声をあげたりと、二人は毎日うんざり。
味のない食事を食べ、異様な子供を育て続ける毎日に疲れ果てていました。
さらに少年は白黒の異様な模様がうごめく怪しげなテレビをかじりつくように観たり、二人の行動をも真似したりと、徐々に二人は精神を病んでいきます。
ある日、庭の土が気になったトムは、車に積んであったショベルで穴を掘り始めます。
そしてこの日からトムは穴を掘ることを止められなくなり、掘ることで精神を保とうとしているかのように朝も夜も掘り続けるようになりました。
やがて穴の底から何か音がするような気がしだしたトムは、夜も穴の底で眠るようになってしまいました。
ほぼ一人で少年と向き合うようになっていたジェマも限界でしたが、ある日少年を車に閉じ込めて殺そうとしたトムに逆らって少年を助け、少しでも少年に歩み寄ろうとします。
ある日姿を消した少年を探していたとき、見つけた少年は本を持って9番の家の前に立っていました。
本には訳の分からない記号や絵が書かれていて、ジェマは優しく、この本を誰にもらったのか、その人の真似をしてみて。
と話しかけます。
すると少年はのど袋をまるでカエルのように異常に膨らませ異様な声を発しました。
その時ジェマははっきり、自分が相手をしている少年は完全に人間ではないということを思い知り、恐怖で絶叫するのでした。
【結】ビバリウム のあらすじ④
そして新たな絶望の始まり
さらに日が流れ、少年は青年に成長しました。
青年は毎日どこかへ出かけるのですが、ジェマが毎回追いかけようとしても必ず見失ってしまいます。
そんなある日、トムは穴の底から袋のようなものを発見します。
その中には人間の骨のようなものが入っていました。
なんとか地上にはい出たトムでしたがすでに体の具合はかなり悪く、ジェマが手当てをしようとしても家には鍵がかけられ入れず、開けるよう懇願しても、青年は開けてくれません。
やがてトムは二人の出会いなどの思い出話を語りだし、ジェマへの感謝を述べて息を引き取りました。
悲しみで打ちひしがれるジェマの前に現れた青年は、袋を取り出し、トムの遺体を入れ、トムが掘っていた穴の底へ投げ入れるのでした。
ジェマはもう限界でした。
翌朝、車に潜んでいたジェマは家から出てきた青年をツルハシで殺そうとします。
青年は奇声を上げ、四つん這いで逃げ出し、家の前の歩道を持ち上げその中の空間に逃げ込もうとしました。
間一髪でツルハシを挟んだジェマは、その中に滑り込みます。
その中はさらに異様な空間が広がっていて、ジェマは次々と不思議な部屋へ飲み込まれていきます。
赤い色の部屋では、奇声をあげる少年の前で絶望しているかのような女性の姿が。
青い部屋では夫婦の営みを覗き見る別の少年がたたずむ姿が。
そして浴室では男性が自殺していました。
そして気が付くと階段から転げ落ちていました。
そしてジェマの命もつきかけた時、青年はジェマを袋に詰め、「子供を育て、成長したら死ぬだけ」と言い放ちます。
ジェマは、「私はお前の母親ではない」と返し、力尽きました。
青年は袋をトムの上へ投げ落としました。
その後車に乗ってあの不動産屋を訪れた青年は、すでに寿命が尽き死んでいたマーティンから名札を外して身に着け、マーティンを袋につめて引き出しに押し込み、椅子に座ります。
そこにやってきた若いカップルに青年は挨拶をするのでした。
ビバリウム を観た感想
かわいい街並みと楽しい音楽に似つかわしくない、不思議な世界観と理不尽な恐怖が詰め込まれた作品です。
話は淡々と進みますし、どうして?なぜ?だらけの展開になりますが、とにかく見ることがやめられません。
ジェマとトムのカップルは運が悪かったねとしか言えない気の毒な最期でしたが、これが今までもあって、これからも続いていくというのがわかります。
冒頭のカッコウのシーンを観て人間の托卵を描いているのは容易に想像できましたが、なんとも残酷ですね。
最後まで観てもどう解釈したらいいのか難しいかもしれませんが、ちょっと不思議な、今まで見たことのないようなホラーを楽しみたい人にはぴったりな作品ではないでしょうか。
シンプルな構成ながらなかなかのインパクトを残してくれます。
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